2026-27年秋冬のコレクションサーキットが終わり、シーズンを象徴するムードやトレンド、デザイナーたちの考えが見えてきました。「パリコレダイジェスト」では、毎回一つのトピックをもとに気になったブランドのコレクションを取り上げます。
ラストとなる今回は、世界の舞台で独自の美学を追求したコレクションを披露し続ける日本人デザイナーたち。メンズ・ファッショ・ウイークを比べると数は少ないですが、ウィメンズでも今季のパリコレ公式スケジュールには9組の日本ブランドが名を連ねました。ここでは、「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」「シーエフシーエル(CFCL)」「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」を取り上げます。
また、改めて黒に回帰した「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」や“ガラクタ”を集めて作ったドレスをドラマチックな演出で披露し喝采を浴びた「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」、そしてデザイナー自身の記憶やライフスタイルをスタイルに反映した「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」は別途リポートしていますので、こちらもぜひご覧ください。
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「ヨウジヤマモト」の
日本と西洋が交じり合う装い
「ヨウジヤマモト」は半年前の春夏コレクションでも書のプリントを用いていましたが、今季はさらに日本の要素を色濃く感じさせるコレクションを披露しました。スタイルの軸となったのは、和装と洋装の融合。序盤に登場した、着物や羽織のような前合わせや袖が特徴的なデザインと腰の低い位置で縛った帯のようなベルトが印象的です。ノット(結び目)やドレープを生かした「ヨウジヤマモト」らしいドレスやコートに見られる柄も、今季は和のイメージ。草履のような鼻緒付きのサンダルとキャンバススニーカーをドッキングしたシューズや、割れた漆器の椀や櫛、組紐などで作ったヘッドピースを身に着けたモデルも登場しました。
今季のクリエイションに影響を与えたのは、江戸時代に活躍した浮世絵師の葛飾北斎。彼が生涯の最期まで絵を描き続けたことや、その作品が19世紀後半にフランスを中心にヨーロッパで流行したジャポニスム(日本趣味)のムーブメントを通してクロード・モネ(Claude Monet)ら現地の芸術家に大きな影響を与えたことから、耀司さんは「非常に刺激的で驚きに満ちている」と北斎の作品について語ります。そんな作品は、終盤に登場した5体の黒のルックにプリント。それだけでなく、その直前に登場したルックには彼の三女で絵師でもあった葛飾応為の代表作「吉原格子先之図」などを採用しました。応為はかつて北斎の下で働いていたことでも知られていますが、同じ仕事を選んだ父と娘という関係性は、耀司さんと「リミ フゥ(LIMI FEU)」の山本里美さんの姿とも重なります。
編み地を布のように扱う
「CFCL」の彫刻的ウエア
「CFCL」は、ドイツ人現代美術家ヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys)が掲げた「社会彫刻」という概念に向き合いました。アート専門メディア「美術手帖」によると、「社会彫刻」とは「『全ての人間は芸術家である』というボイスの言葉に代表される」ものであり、「いかなる人間の営みも意識的な活動であれば芸術活動である、つまり社会彫刻は自ら未来のために社会を彫刻していこうという考え方」とのこと。クリエイティブ・ディレクターの高橋悠介さんは、ソーシャル・インパクトとクリエイション、美意識を横断する彼の実践に学び、ドレープを効かせた彫刻的なフォルムのニットウエアを通して着る人と社会を結ぶ衣服の可能性を示しました。
今季を象徴するのは、ボイスのフェルト作品から着想を得たというコートやドレス。ノンミュールジングウールとカシミヤをブランドしたフェルトのような編み地や、再生ポリエステルとレーヨンのモール糸を組み合わせたベルベットのような編み地を布のような感覚で用いることで、無造作なドレープを生み出しています。そして今季は新たな試みとしては、ブランド設立以来初となるモチーフ柄を使用。ボイスが1982年に開催された「ドクメンタ7」で手掛けたプロジェクト「7000本の樫の木」へのオマージュとして、樫の木の樹皮から着想を得た箔プリントをニットのドレスやスカートからバッグにまでのせました。
「常に“何が違いや新鮮さを生み出すか?”や“どのように進化させるべきか?”を考えながら取り組んでいる」という高橋さんが今季力を入れたのは、オケージョンドレス。ニットフリンジや糸のようなフリンジ、細長いプレート状のスパンコールといったこれまでに用いてきた装飾技法を箔プリントなどでさらに発展させながら、より華やかで動きのあるデザインを打ち出しました。足元も、先シーズンからタッグを組んでいる「ヴェジャ(VEJA)」と制作したスニーカーの第2弾だけでなく、ポインテッドトーのローヒールパンプスがを合わせ、エレガントなムードを演出しています。
デザインしすぎずに本質を引き出す
「イッセイ ミヤケ」
今季は「つくる、つくらない」をテーマに、モノ作りにおける「作為」と「余白」の関係性を探求。「あえて“デザインしない”ことで、内側にある美しさを見ることができるのではないか。対象そのものの本質をより引き出せるのではないかと考えた」と話す近藤悟史さんは、全てを意図通りにコントロールしすぎないように創意工夫と引き算のプロセスを取り入れ、素材の本質と形態をあるがままに認めることで、「物質」としての衣服が「体」と呼応する美しさを引き出すデザインを目指しました。
そんなアプローチから生まれたウエアは、一見ミニマルでありながらユニークな形状が特徴的。「イッセイ ミヤケ」のクリエイションに欠かせない「一枚の布」の概念は、体を通すことで立体的になるファスナーによって布を筒状に仕立てたドレスや、布の原型を残したかのようなフォルムのコート、体を包み込むように布を巻きつけて流れるようなシルエットに仕上げたテーラングやコートに見られます。一方、プリーツはダイナミックなカーブを描いたり、手作業で捻りを加えたり。ニットも、偶然拾った石をそのまま着るという発想をもとにさまざまな編み組み合わせわせることで有機的な造形を描いています。
ショーの最初と最後には、3Dプリンターで作った型に手でちぎった越前和紙を幾重にも張り合わせて成形し、その上に漆を塗った美しいピースをドレスの上に重ねて披露。職人による伝統工芸と現代テクノロジーの融合により、着物の帯やビスチエの概念を現代に向けて再解釈しました。