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双子のシューゲイザーバンド、ソフトカルト(Softcult) スロウダイヴ、マイブラ、NINから影響と「ライオット・ガール」運動の継承

カナダを拠点に活動するメルセデス(ボーカル、ギター)とフェニックス(ドラム、ボーカル)の双子姉妹によるデュオ、ソフトカルト(Softcult)。10代の頃からポップ・パンク・バンド、カーレッジ・マイ・ラヴ(Courage My Love)のメンバーとしてメジャーのシステム内で活動してきた彼女たちは、自らの主導権を取り戻すべくこのDIYプロジェクトを始動させた。現在では楽曲のプロデュースからZINEの制作に至るまですべてを自身の手で行い、リスナーとの直接的なコミュニティーを築き上げている。

その音楽的な基盤にあるのは、1990年代のライオット・ガールから受け継いだインディペンデントな姿勢と、それを現代の文脈に合わせてアップデートする感性。ファズを効かせた轟音ギターとドリーミーなコーラスを融合させたシューゲイザー〜ソフト・グランジ的なアプローチを取り入れ、音のテクスチャーへの深いこだわりに貫かれた「柔らかな(Soft)」音像と「強烈な(Cult)」メッセージというコントラストは、彼女たちの確固たる美学となっている。

今年1月にリリースされたデビュー・アルバム「When a Flower Doesn’t Grow」は、自身のクィアネスをオープンにすることで極めてパーソナルな痛みに寄り添いながら、家父長制や抑圧といった社会構造の問題を告発する作品だ。「花が咲かないとき、変えるべきは環境のほうだ」という言葉を冠したタイトルの通り、トラウマによって傷ついた主人公が自己への抑圧を解き放ち、普遍的な愛と解放へと向かう変容のプロセスが描かれている。約3年ぶりのジャパン・ツアーのため来日した2人に、DIYのルーツから本作の背景、そして彼女たちがたどり着いた現在地について語ってもらった。

「ソフトカルト」結成の経緯

——お二人は10代から音楽業界で活動されてきましたが、そこからどういう経緯でソフトカルトの結成に至ったのでしょうか。

メルセデス:結成した2021年はちょうどロックダウン中で、時間が有り余っていたんです。ずっと家にこもって、いろいろと自分たちを見つめ直す時間があって。それでホームスタジオに2人でこもって曲を書き始めて、デモを録り始めたのがきっかけですね。

あの時期って、世界中の誰にとってもかなり過酷なタイミングだったと思う。でも私たちが特に衝撃を受けたのは、当時のアメリカでの出来事でした。公民権や女性の権利の問題とか……残念ながら、今でもアメリカでは非常に抑圧的な状況が続いていますよね。だから当時、そういう社会状況についての曲をたくさん書いていたんです。それについて曲にすることが、私たちにとってはすごくカタルシス(浄化)になっていて。それがバンドの原点です。

——その社会的なメッセージが、現在のアティチュードやサウンドへと結びついていったと。

メルセデス:そこから自然な流れで、ライオット・ガールやフェミニスト・パンク、グランジといったパンクからの影響と、私たちが大好きなシューゲイズのサウンドが融合していきました。あの頃は90年代の音楽やDIYカルチャーに関するドキュメンタリーをひたすら観ていて、そこからすごく大きな影響を受けたんです。パンデミック中はロックダウンで他の人に外注もできないし、全部自分たちでやるしかなかったから。最初は“必要に迫られて”のDIYだったんだけど、最終的にはそれが“自分たちのやりたいスタイル”になっていきました。

ライオット・ガールとの出会い

——ライオット・ガールとはどのように出会ったのでしょうか。

フェニックス:実は、キャサリーン・ハンナ(1990年にアメリカで結成されたパンク・ロック・バンド、ビキニ・キルのボーカル)やビキニ・キルの名前は知っていたけど、彼女たちがどんなシーンから出てきたのかまでは詳しく知らなくて。それで、メルセデスが「The Punk Singer」っていうキャサリーン・ハンナの素晴らしいドキュメンタリー映画を教えてくれたんです。そこから2人とも、ファンジンのカルチャーや、そこから派生するパンクやハードコアの世界にどっぷりハマっていきました。

ライオット・ガールって本当に特別で。女性やクィアの人々を中心に据えて、彼女たちを最前線に押し出すムーブメントだから、私たちもめちゃくちゃインスパイアされました。音楽を聴いて、その世界を見たとき、初めて「自分たちの存在が音楽の中で代弁されている」って心から感じられたんです。この世界でひとりの女性として生きる上でもそうだし、音楽業界、特にパンクやオルタナティブの界隈ではなおさらね。

——当時のシーンは、今よりもずっと男性中心的な環境でしたしね。

フェニックス:私たちが10代の頃に比べたら、今は状況もかなり良くなったと喜んで言えるけど、昔バンドを始めた頃は、ステージ上で“女性に見える人間”はいつも私たちだけでした。イベントの出演者の中で、自分たちだけが完全に浮いているように感じることがよくあって。だからライオット・ガールを見つけたときが、初めて自分たちの居場所やレプリゼンテーション(自己表現・代弁)を感じられた瞬間だったんです。

——ライオット・ガールが登場したのは90年代初頭でしたが、お二人は現代の視点でライオット・ガールをどう捉えていますか。

メルセデス:フェニックスが言ったみたいに、ライオット・ガールの素晴らしいところは、女性を中心にしてこのシーンや世界に女性を巻き込み、女性に対して非常に抑圧的で差別的な社会の構造的な問題を指摘している点です。でも、ライオット・ガールから「アップデート」しなきゃいけない部分があるとしたら、それは“一種類の女性”だけじゃなく、もっと対象のスペクトラムを広げることだと思っています。

つまり、異性愛者の白人女性だけではなく、すべての民族、そしてすべてのジェンダーを含むべきだということ。フェミニズムって、決して狭いレンズを通して見るものじゃないはずなんです。すべての人にとっての包括性(インクルーシビティ)と平等を目指すべきもので。私たちの音楽でも、白黒はっきり分けたり、対立を煽ったりするのではなく、もっと包括的なものにしたいという思いがあります。

フェニックス:うん、自分たちのバンドはもっと「インターセクショナル(交差的)」な存在でありたいってずっと強く思ってきたし、フェミニズムには当然トランス女性やトランスのアイデンティティーも含まれると強く信じています。そこは第一波のライオット・ガールで少し見落とされてしまった部分かもしれないから、私たちがアップデートしていきたい。初期のライオット・ガールは主に白人のストレートの女性たちによって立ち上げられたから、黒人女性や他のアイデンティティを持つ女性たちが直面している問題が語られず、無視されてしまったような側面もあって。だからこそ今は、誰にとってもオープンで、自分たちの抱える問題を誰もがシェアできるような場所にしたいと願っています。

——そういえばキャサリーン・ハンナが以前、当時のライオット・ガールを振り返って、自分は女性同士の話し合いや団結を目指してムーブメントをつくったのに、男性を敵対視した結果、気づいたら男性ばかりに語りかけていたって反省していたんです。つまり、男性と女性を分断してしまったと。

フェニックス:すごく重要なポイントだと思う。フェミニズムの会話って、「女性をエンパワーすること」であるべきなのに、女性についての話をしているはずの場で、いまだに男性が会話の中心にいたりする。それはおかしいよねって思います。

バンド名「ソフトカルト」の由来

——ところで、「ソフトカルト」というバンド名はどのようにして決めたんですか。「Soft」と「Cult」という言葉のコントラストは、今のあなたたちのサウンドやビジュアルの美学を体現しているように感じます。

メルセデス:自分たちがこのバンドでやりたいことを完璧に表現できる名前を一生懸命探していて。それで確か、名前に「Soft」は絶対に入れたいねって話になったんだよね。ボーカルはエシリアル(神秘的)でソフトな感じにするけど、歌詞ではもっと厳しい、刺さるようなことを言うっていう、そのサウンドの対比が私たちにとってすごく重要なテーマだったから。それで、「Softcult」っていう言葉を思いついたんです。この「カルト」っていう比喩が、私たちの音楽を表現するのにすごくぴったりだなって思って。私たちは社会のプロパガンダや洗脳を批判しようとしているけど、ある意味では私たち自身も人々に影響を与えていて、私たちなりの「プロパガンダ」や「洗脳」を持っているとも言えるわけで。

——強いメッセージを持ってステージに立つ以上、そこには必ず大きな影響力が生まれる。

メルセデス:バンドをやっていて、ライブでお客さんが集まってくれたりすると、時々自分たちがカルトのリーダーになったみたいな感覚になることがあるんです。人々が自分たちの言うことに耳を傾けてくれているその瞬間って、ものすごく強大なパワーを持っている。人々が自分に注目し、言葉を聞いてくれる時には、明確な「権力の力学」が存在していて、それは善にも悪にも使える。そのことには自覚的であるべきだと思っています。

スロウダイヴ、マイブラ、NINからの影響

——先ほども結成の経緯のところで話に出ましたが、サウンド面については具体的にどんなアーティストからインスピレーションを受けてきたのでしょうか。

フェニックス:やっぱりシューゲイズの先駆者たちからは間違いなく大きな影響を受けていますね。スロウダイヴはすごく大きいし、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインも絶対外せない。それから、パンク寄りのアーティストだとフガジとか。彼らの実験的なアプローチにはすごく影響されました。もちろんビキニ・キルもそうだし。

あとは意外に聞こえるかもしれないけど、ナイン・インチ・ネイルズも実は大きなインスピレーション源なんです。トレント・レズナーがよく「スタジオそのものが自分の楽器だ」って言ってるんですけど、私たちもどこかそういう感覚があって。自分たちで全部録音しているから、スタジオの機材や録音の手法そのものを、自己表現の一つのツールとして使っている感じなんです。だから彼らからの影響はすごく大きいですね。あとはスマッシング・パンプキンズとかヴェルーカ・ソルト。あの辺りのバンドのギタートーンやソングライティングも大好きです。ザ・サンデイズもかなり聴き込んでますね……語り出したらキリがないくらい(笑)。

——シューゲイザーはやっぱり、ソフトカルトのサウンドを紐解く大きなキーワードになりそうですね。

フェニックス:そうですね。シューゲイズって、アンビエントな雰囲気がありつつも、すごくジャングリーで夢見心地なサウンドにもなれば、巨大な音の壁みたいなゴリゴリのディストーションサウンドにもなるし、逆にすごくソフトでクリアにもなれる。そのサウンドの「対比」がたまらなく好きで、私たちも自分たちの音楽でそれを表現しようとしています。アーティストとして、いろんな遊び心を持てるすごく自由なジャンルだと思います。

デビュー・アルバム「When a Flower Doesn't Grow」について

——まさにそうした「シューゲイザー」というスタイルを援用した成果だと思うのですが、デビュー・アルバムの「When a Flower Doesn't Grow」は、ファズの轟音やドリーミーなボーカルといった「音のテクスチャー」へのフォーカスが深まっている印象を受けました。

フェニックス:私たちが目指していたのもまさにそこなんです。シューゲイザーのクールなところって、どこまでもソフトでエシリアルにすることもできるし、逆に思い切りファズをかけてザラッとしたテクスチャーを生み出すこともできるところ。それに加えて、私たちのバンドには「シューゲイズの側面」と「パンクが注入された側面」の2つの顔があるんです。パンクの要素が入ると、ギターのトーンもドラムも、なんならボーカルも、かなりハードで速くてアグレッシブになる。だから私たちは、その2つの大好きなスタイルを最高な形でミックスする方法を探り続けてきました。

結果として、すごく折衷的(エクレクティック)なアルバムになったと思います。いろんなバイブスが混ざり合っているけど、それをアルバム全体のストーリーを伝えるための「手法」として使うのがすごく楽しかった。だから、怒りが必要なシーンでは思いっきり激しく怒りをぶちまけて、もっと深く思慮深くなるべきところでは、とことん思慮深さを追求しました。

——先ほどの「対比」の話と関連していうと、ソフトカルトの音楽は、ドリーミーな音像とメッセージ性の強い歌詞のギャップが魅力です。シリアスなテーマを柔らかいシューゲイザーのレイヤーで包み込むことで、怒りや葛藤の裏にある、繊細さで複雑な感情の動きを表現できているように感じます。

フェニックス:まさにそれ! そう言ってもらえると嬉しいです。ボーカルがたくさんのギターやリバーブの中に埋もれていて、すごくドリーミーでソフトに聴こえるんだけど、耳を澄ませて歌詞を聴き取った瞬間に「えっ、こんなこと歌ってたの!?」ってハッとさせられる。そういうのが、私たちのサウンドの一つの持ち味になっていると思う。

私自身、音楽を聴くときに一番好きな体験がそれなんです。曲のテーマや歌詞の内容が、サウンドの印象と全然違うっていうサプライズ感。だから、自分たちの音楽でも絶対にそれをやりたいと思っていて。サウンドの響きだけじゃなくて、倫理観や道徳的なスタンス、あるいは自分も共感できるようなメッセージの面で「つながっている」と感じられたとき、その曲をもっと深く愛せるようになるじゃないですか。例えば誰かが自分に向かって大声で怒鳴っているときって、ただ「怒鳴られてる」っていう事実ばかりが際立って、相手が何を言っているかなんて全然耳に入ってこないことがある。でも、誰かが小さな声で「囁いて」いたら、人は思わず身を乗り出して、注意深く耳を傾けなきゃいけなくなる。そうやって、ある意味で「聴くことを強制する」ようなアプローチが、私たちの表現なんだと思います。

——アルバムの制作において直接的なヒントになったアーティストがいたら教えてください。

フェニックス:シューゲイズのバイブスに関しては、コクトー・ツインズドロップ・ナインティーンズみたいなバンドからずっと強いインスピレーションを受けています。一方で、今回の作品では過去のEPよりもパンクの要素にかなり比重を置いていて、その面ですごく影響を受けたのがマネキン・プッシーで。実は今作の曲づくりとレコーディングに入る直前に、彼女たちと一緒にツアーを回る機会があったんです。ステージ上の彼女たちを見て、ボーカルのミッシー(マリア・ダビース)が観客を完全に掌握する姿やそのバイブスにめちゃくちゃ影響を受けました。ああいうパフォーマンスって絶対に簡単じゃないから。彼女たちからもらった刺激を、そのまま今回のアルバムのレコーディングに持ち込んだ感じです。

アルバムタイトルに込めた想い

——今回のアルバム・タイトルは、メルセデスさんが人生のターニング・ポイントで出会った言葉(「When a flower doesn’t bloom, you fix the environment in which it grows, not the flower:花が咲かないとき、変えるべきは花ではなく、その花が育つ環境のほうだ」)に由来していると伺いました。メルセデスさんは当時、自分のどんな状況にこの言葉を重ね合わせたのでしょうか。

メルセデス:正直に話すと、アルバムの曲づくりが半分くらい終わった時点でも、まだタイトルが決まっていなくて。その頃、私は私生活でかなり激動の時期を過ごしていたんです。9年間付き合っていた恋人との関係を終わらせたばかりで。別れを選んだ理由は、自分が「クィア」であることに気づいたからでした。

今はもうオープンにしているけど、当時はまだカミングアウトする前で、自分自身でもどうすべきか迷っていて、答えを探している最中でした。ネットでいろんなアドバイスや自己啓発の言葉を読み漁っていたときに、その言葉に何度も出会ったんです。それを見つけた瞬間、ものすごく救われた気持ちになって。私が選んだ道や、心の中で抱えていた葛藤に対する罪悪感を和らげてくれたし、「自分が個人的に成長するためには、この決断が必要だったんだ」と肯定してもらえた気がしました。それがタイトルの言葉を見つけたきっかけです。

——そこから、どうやってアルバム全体のテーマへと広がっていったのでしょうか。

メルセデス:でも、私たちはその言葉をただ“個人的な意味”だけで終わらせたくなくて。この言葉は、世界全体にも当てはまると思ったんです。「自分が進化し成長するために、そこから離れなければならない」のは、個人の環境だけじゃない。人々や人権を積極的に抑圧している政府や、差別的な権力構造など、抑圧的なシステムに対しても同じことが言えるはずだって。自分個人の経験を飛び越えて、世界の見方や、「すべての人のために世界をより良くしていくための私たちの役割」にも適用できる。そうやってタイトルが決まりました。

——フェニックスさんは、そうしたメルセデスさんが抱えていた葛藤やカミングアウトへのプロセスを、一番近くでどんなふうに見ていたのでしょうか。

フェニックス:もう本当に、彼女が自分自身を見つけて、自分の内面としっかり向き合えたことが純粋に嬉しかった。きょうだいに対して望むことなんて、「ただ幸せになってほしい」っていうことだけだから。だから、彼女が自分自身を深く理解して、そのトンネルを抜け出してきたときは本当に幸せな気持ちになりました。それってすごく難しいことだけど、一度、本当の自分に正直になれたら、あとはもう花開いていくだけ。ずっと“なるべきだった自分”になれるんです。

——メルセデスさんは以前のインタビューで、「ステージ上のエンパワーされた自分と、実生活で抑圧を感じている自分にギャップがあった」と語られていました。このアルバムですべてをオープンにし、“なるべきだった自分”でパフォーマンスできるようになった今、ステージから見える景色や、オーディエンスとの繋がり方にどのような変化を感じていますか。

メルセデス:私は今までもずっと、ステージ上でエンパワーメントについて語り、「最もオーセンティック(本物)な自分になって」とみんなに呼びかけてきました。でも以前は、私自身がそれを完全に体現できてはいなかった。今、自分自身をオープンにできたことで、すごく自分を誇りに思えるようになりました。私たちのライブに来てくれる人の中には、「君はそのままでいいんだよ」という肯定や背中を押す力を必要としている人たちもいます。私が自分らしく生きている姿を見せることで、「自分もそうしていいんだ」と彼ら自身に許可を出す手助けになればいいなと。ただ口先だけで語るんじゃなくて、私自身が有言実行(walk the walk)できていると感じられるんです。もしみんながそういうレプリゼンテーション(代弁・ロールモデル)を求めているなら、今の私たちのほうがお互いにずっと誠実な関係を築けていると思います。

フェニックス:これってすごく素敵なことで。実は13年前、私たちが10代の頃にやっていた前のバンドで東京でライブをしたことがあるんですけど、なんと昨日のライブに、当時の私たちを見てくれていた方が来てくれたんです! その間に彼女も立派に大人になっていて、「私もクィアだとカムアウトしたんです」って話してくれて。そういう関係性をファンと築けるのって本当に最高だよね。「人生のある地点で出会った人たちが、大人になって、自分自身の人生を堂々と生きている」。私たち、一緒に成長しているんだなって実感しました。

今敏作品の魅力

——ところで、お2人は日本のアニメーターの今敏監督の作品がお好きだと聞きました。お2人が思う今敏作品の魅力、特に思い入れのある作品があれば教えてください。

フェニックス:もちろん「パーフェクトブルー」は絶対外せない! 私たちの「Perfect Blue」っていう曲のアイデアも、この映画からインスピレーションをもらってつくりました。とにかくあの映画はもう、クレイジーなくらい最高で。間違いなく映画史に残るマスターピースだし、私にとって人生で一番好きな映画の一つです。

今敏監督って、ストーリーテリングの手法が本当にクールなんですよね。「東京ゴッドファーザーズ」も彼が手がけた大好きな作品で、私、毎年クリスマスには必ず観てるんです(笑)。最高に心温まるお話だし。彼が描き出すキャラクターって、どれもすごく魅力的で目が離せないんです。「パプリカ」も彼の作品ですよね? 彼の作品の何に惹かれるかって、視覚的に息を呑むほど美しいだけじゃなくて、それぞれのストーリーやキャラクターの中に、すごく説得力のある“人間の複雑さ”が描かれているところなんです。映画としての完成度がとてつもなく高いのに、アニメーションだからこそ表現に一切の限界がない。なんでもできちゃう。そこが本当にクールだなって思います。

——ちなみに、「Perfect Blue」という曲と映画自体の間には実際にリンクする部分があるのでしょうか。

メルセデス:はい、いくつかリンクする部分があります。実は、音源のレコーディングでは著作権のクリアランスをとるのが大変だから入れなかったんですけど、ライブでは映画のワンシーンのセリフをサンプリングして流してるんです。

主人公が鏡に向かって「あなた、誰なの?(Excuse me, who are you?)」って何度も演技の練習をするシーンがあるじゃないですか。彼女は女優としてドラマのセリフを練習しているんだけど、映画全体を通して、彼女自身が「自分自身を見失っていく」わけですよね。自分が何者かわからなくなって迷子になっていく姿を表現する手段として、すごく面白くて。私たちの曲もまさに「自分を見失うこと」について歌っているから、あのシーンのメタファーは完璧だなって。他の誰かになるためのセリフを練習している彼女の口から出る言葉が、「あなた、誰なの?」なんだから。本当に秀逸ですよね。

――おっしゃる通り、今敏作品はではしばしば、「現実と虚構の境界線」や「偽りのペルソナと本当の自分との葛藤」が描かれています。これは先ほどうかがった「ステージ上の自分と実生活の自分との乖離」や、アルバムの核心的なテーマと驚くほどシンクロしているように感じます。

フェニックス:うん、面白いことに、インスピレーションってどこからやってくるか自分でも気づかないことが多いんです。でも、観たり、見たり、聴いたりしたものは間違いなく自分の中に入り込んでくる。(ニーチェの言葉にあるように)「深淵をのぞき込むとき、深淵もまたこちらをのぞき込んでいる」っていう感覚ですよね。私たちが消費したカルチャーからは、必ず何かを受け取っているんです。

「パプリカ」からの影響も間違いなく大きいです。現実の世界と、夢の世界があって、「自分は今どちらの世界にいるのか?」「どっちが本当の自分なのか?」っていうテーマ。それに、彼の作品には「複雑さを抱えた、強くて自立した女性キャラクター」がたくさん登場しますよね。そういうストーリーテリングの姿勢も、すごくリスペクトしています。

自分らしさとファッション

——先ほどの“なるべきだった自分”という話に関連付けさせてもらうと、ファッションについてはいかがでしょう? 

メルセデス:間違いなくグランジや90年代のファッションからめちゃくちゃ影響を受けていますね。最近、また90年代のスタイルがリバイバルしてきているじゃないですか。私、ずーっと「絶対また流行るから!」って言い続けてきたんですけど(笑)。

今って、コンテンツ制作にしてもAIにしても、社会的、政治的、あるいは個人的なレベルに至るまで、ありとあらゆるものが「操作」されている時代ですよね。だからこそ人々は今、もう少しリアルで、共感できて、手で触れられるような「本物」を求めているんだと思うんです。そういう操作されたものが存在しなかった時代へのノスタルジーが、いま確実にある気がして。90年代にはSNSなんてなくて、クールなバンドや映画やアートを見つけるのは全部「口コミ」だった。コミュニティーの規模は今より小さくてリーチできる範囲も狭かったかもしれないけど、皮肉なことに、今の時代よりもずっと強い「コミュニティーの絆」みたいなものがあったように見えるんです。

——お2人にとってはタトゥーも、“自分らしさ”を構成する大事な一部のような気がします。

メルセデス:うーん、最初はそうだったかもしれないけど……今はもう違うかな(笑)。数が増えれば増えるほど、「かっこいいから」っていう理由だけで入れるようになってきちゃって。最初のいくつかにはちゃんと意味があったはずなんですけど、今はもうただの中毒ですね(笑)。

でも、意味のあるものもあります。例えば、ライオット・ガールのマニフェストからとった「We create the revolution(私たちが革命を起こす)」っていう言葉。マニフェスト自体はすごく長いんだけど、この一文を読んだときにすごく自分の中に残って、人生においてもアーティストとしてもすごく意味のある言葉だと思ったんです。

あとは、お腹に「Autonomy(自己決定権/自律性)」っていうタトゥーを入れています。これはすごくクールというか、私にとって大切なもので。私たち自身はカナダ人だけど、特にアメリカでは今、女性の権利、とりわけ女性の健康や避妊、中絶を選択する権利(リプロダクティブ・ライツ)が激しい攻撃に晒されていますよね。私自身は「すべての人の、自分自身の身体に対する完全な自己決定権」を信じているから、その意思表示としてこれを彫りました。私のお腹の権利は、私自身にあるってこと。

フェニックス:あ、あと日本のタトゥーも入ってるんです! 前回、バンドとして初めて日本ツアーをした記念に入れた、すごく思い入れのあるタトゥー。明日もまた、前回と同じタトゥースタジオに行って、新しいのを入れてもらう予定です!(笑)

——お2人は音楽活動と並行してZINEも制作してますが、それもライオット・ガールの影響ですか。

メルセデス:間違いなくそうです。そこからアイデアをもらったのは確実ですね。オルタナティブ・カルチャーの歴史の中では「ファンジン」ってずっと存在してきたものだけど、私たちにとっては、自分たちの曲や歌詞の周りに”さらなるアート”をつくり出すための、すごくクールな手段だったんです。それに、曲の背景にある思考プロセスとか、より深い部分を説明できる場所でもあって。

今でも続けていることなんだけど、読者のみんなが望めば、Zineに自分の作品や文章を投稿してもらって、それを私たちが掲載するっていうこともやっているんです。私たちの音楽を聴いてくれている人たちと繋がって、一緒にひとつのものを作り上げたり、みんなのアイデアを世の中に発信したりできる。すごく素敵なアプローチだなって思ってます。

全員が「本当の自分」でいることを許されるべき

——例えば、歌詞を書く際に「個人の痛み」と「社会的な問題」のバランスはどのようにとっていますか。

メルセデス:それはすごく難しいポイントですね。バンドを始めたばかりの頃は、ニュースで見るすべてのことにものすごく心を痛めていて。特に鮮明に覚えているのは、ジョージ・フロイドの事件が起きて「Black Lives Matter(BLM)」運動がみんなの最も大きな関心事になっていたとき。その後、イギリスでサラ・エヴァラードが殺害される事件があって、今度はジェンダーに基づく暴力がみんなの頭を占めるようになりました。あの頃は、「今はこれ以外のことを歌っている場合じゃない」って本気で思ってたんです。その瞬間に、それ以上に重要なテーマなんてないように思えたから。でも今は、そういった社会問題に対して「自分自身がどう繋がっているか」と、それを啓発したいという気持ちがありつつも、ただ自然に湧き上がってくるインスピレーションに身を委ねたいっていう気持ちがミックスされている感じかな。

だから、そのバランスで一番大事なのは、「今この話題が起きているから」っていう理由だけで無理して曲を書こうとしないこと。自分の中から「どうしてもこれについて書きたい」という衝動が自然に湧き上がってくるべきだと思うんです。

——「16/25」では、単なる年齢差ではなく、権力や人生経験の不均衡について歌っていて、これはグルーマーやプレデターによって行われる搾取の構造を告発した曲です。この重いテーマを今、あらためて提示しようと思った理由を聞かせてください。

フェニックス:私たち自身が経験したことでも、他の人が直面しているのを見たことでもそうなんですけど……私たち、10代の頃からずっとバンド界隈にいて、そこで起きている「力関係のダイナミクス」をずっと目の当たりにしてきたんです。今は間違いなく改善されてきているけど、ある時期までは、年上のバンドマンが若い女の子のファンと付き合うような環境が当たり前のようにありました。そういう関係がいかにあっという間にダークな方向へ転がっていくか、ずっと見てきて。一時期はそういうのが「ロックスター的」ってもてはやされたりもしたけど、今はそれがどれほど搾取的(プレデトリー)な行為だったか、みんな気づき始めていますよね。

だからこそ、それについての曲を書いて問題提起をして、オープンに、正直に語ることが状況を変える手助けになると思うんです。あんなの、偉大なロックスターのライフスタイルでもなんでもない。ただただ気持ち悪くて、ゾッとするような搾取なんだって。

——アルバムのタイトル曲では、「環境を変えることの大切さ」を歌っています。かつての自分たちと同じように、自身のアイデンティティーを抑圧される環境にいて悩んでいるリスナーや、孤独を感じているファンに対して、ライブや音楽を通じてどのような「新しい環境」を提示してあげたいと考えていますか。

メルセデス:誰からの批判や迫害を恐れることなく、ありのままの「本当のオーセンティックな自分」でいることを自分に許せる場所。本来なら、誰もがそういう世界に生きられるべきなんだけど、残念ながら私たちが今生きているのはそういう世界じゃないから。

だから私たちが願っているのは、いつかみんなが「誰もが同じ権利を持っている」と心から感じられるようになることなんです。誰かが他の誰かより多くの権利を持っているなんておかしいですよね。肌の色も、ジェンダーも、セクシュアリティーも関係なく、全員が平等であるべき。全員が「本当の自分」でいることを許されて、障壁にぶつかることなく、同じように輝けるべきなんです。

——今の社会では特定の属性を持つ人々にとって、それがとても難しいことになっている。

メルセデス:マイノリティーの人たちって、常に人の倍努力しなきゃいけなかったり、ただ生きているだけで数え切れないほどの障害(ロードブロック)に直面したりすることがあるじゃないですか。まずはその事実に「気づくこと」が、その障害を取り除くための第一歩になると思っています。

PHOTOS:KOHEI KANNO

アルバム「When a Flower Doesn’t Grow」

◾️Softcult(ソフトカルト)
デビュー・アルバム「When A Flower Doesn’t Grow」
配信リンク

Tracklisting:
1.Intro
2.Pill To Swallow
3.Naive
4.16/25
5.She Said, He Said
6.Hurt Me
7.I Held You Like Glass
8.Queen Of Nothing
9.Tired!
10.Not Sorry
11.When A Flower Doesn’t Grow

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