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マルタン・マルジェラのドキュメンタリー映画が公開 本人が語ったこととは?

 マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)本人を題材にしたドキュメンタリー映画、「Martin Margiela in His Own Words」のプレミア上映が11月8日に「ニューヨーク・ドキュメンタリー映画祭」で行われた。監督のライナー・ホルツェマー(Reiner Holzemer)は、17年に公開された映画「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男(Dries)」でも監督を務めている。

 およそ90分の映画ではマルジェラのファッションの軌跡が描かれており、本人の回想を中心に、多くの関係者へのインタビューも収録されている。マルジェラは自身の顔をはっきり写さないことを条件に作品に協力したため、劇中で話をする際に本人と分かるような撮影は行われていない。

 マルジェラは映画の冒頭で「セレブリティーにはなりたくない。一般人と同じようであるためにも、私にとって公の場に姿を現さないことは非常に重要だ。マルタン・マルジェラの名は、私の顔ではなく私の作品とリンクしていてほしい」と、素性を明かさない方針を語っている。映画ではマルジェラの子ども時代にも軽く触れられており、ドレスメーカーだった祖母のことを「人生で最も重要な人物」だと明かしている。

 取材陣に対して話をしないことで有名だったマルジェラは、公の場に姿を見せることもなければファッション以外でセルフブランディングもしなかった。カメラを避け、自身が手掛けるショーであっても挨拶に立つことはなかった。

 最後まで創造性に溢れ、新たな方向へと活動を展開する気概のあったマルジェラだが、「いくら新鮮なエネルギーに満ち溢れた新しい方向へ向かったとしても、ファッション業界には長らくの間、とても不快な何かが存在していた。私の場合、ショーが開催された同日のうちにインターネットにも対応しなければならなくなった頃にそう感じるようになった」と、ファッションの組織や体制に対する不快感を率直に述べながら、悲しみをあらわにしている。

 そして、「すこし自分を見失うような感覚があり、さらなる悲しみを感じるようになった。ファッションの世界には別のニーズが生まれてきていて、自分はそれに応じることができるかどうか分からないと感じるようになった」とも語っている。

 マルジェラと、マルジェラの友人であり「メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA)」の共同創設者でもあるジェニー・メレンズ(Jenny Meirens)は、ブランドを大きくしていくために外部資金の調達の必要性を感じていた。しかし、「ビジネスプランが実行されて以降、メレンズの創作意欲が落ちていった。なぜなら、彼女は創作活動の時間を持つことができなくなったからだ」とマルジェラは語っている。

 「最終的に私は自分の会社のアーティスティック・ディレクターに就任したが、その役割には悩まされた。なぜなら、私はファッションデザイナー以外の何者でもないからだ。私は創作活動を行うデザイナーなのであって、アシスタントたちを管理するただのクリエイティブ・ディレクターではない」と、悲しそうに回想している。

 ブランドを去ることにした当時の様子については、「大きなショックを回避したかった経営陣の意向もあり、最後のショーの夜に、誰にも告げずにブランドを去らなければならなかったことはいまだに後悔している。チームのメンバーにはとても感謝していたから、別れの挨拶をできなかったのは本当につらかった。彼らはとてもよくやってくれたし、あんな別れ方は不本意だった」と語っている。

 「ファッション業界の流れは速く、有名になるのも忘れられるのも一瞬のことだ。私の功績をこのように評価してもらえるとは思ってもいなかったから、本当にうれしいサプライズだ」という発言には、マルジェラは注目されることを常に避けながらも、プロフェッショナルとして認められている事実に対しては感謝の念を抱いていることが分かる。

 本人の希望により、この映画では彼の現在の活動については触れられていない。映画の最後にホルツェマー監督がマルジェラに「ファッションについて語らなければいけないことは全て話したか?」と尋ねると、マルジェラは一言「いいえ」と答えた。