ファッション

百貨店は「変化対応業」しか生き残れない

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 天皇の即位の礼が終わり、名実ともに令和の時代になった感がある10月。ファッション流通の界隈では平成というよりも昭和の終焉を印象付けるようなニュースが相次いだ。

 そごう・西武は、そごう川口店(埼玉県)や西武大津店(滋賀県)など5店舗の閉鎖と、西武秋田店と西武福井店の規模縮小の計画を明らかにした。高島屋は港南台店(神奈川県)の閉店を発表。三越伊勢丹ホールディングス(HD)は伊勢丹府中店(東京都)と伊勢丹相模原店(神奈川県)の営業を9月末で終了し、来年3月には新潟三越を閉める。百貨店と二人三脚で発展してきたアパレル大手のオンワードホールディングスは、国内外で600店舗前後を閉める見通しだ。(この記事はWWDジャパン2019年10月28日号からの抜粋です)

 百貨店は昭和の高度成長期に豊かになった消費者の受け皿として全国主要都市に出店し、売上高を拡大してきた。だが平成の中盤からは消費マインドの変化に取り残される。都心部の店舗は富裕層や訪日客に下支えされているものの、地方・郊外の店舗は総じて低迷に歯止めがかからない。特に大黒柱だった衣料品の凋落が影を落とす。

 バブル崩壊後の中間層の経済力低下など、市場環境の影響は小さくない。とはいえ、本質的な理由は、昭和のビジネスモデルを更新できなかったことに尽きるのではないか。平成の約30年間に起きた流通のイノベーションは大きく2つある。

 一つはSPA(製造小売業)。メーカーから仕入れた商品を売るのではなく、自ら製造現場に入り込んで消費者ニーズを先取りした商品を作り出す。気づいてみれば消費者の支持を得ている大手小売業は、「ユニクロ」「ジーユー」のファーストリテイリング、「ザラ」のインディテックス、「無印良品」の良品計画、「ニコアンド」のアダストリア、「ニトリ」のニトリホールディングスなど、SPA企業ばかりになった。平成の時代に急成長したセレクトショップも収益はプライベートブランド(PB)で稼いでいる。食品が主力のコンビニエンスストアも然りだ。

 二つ目はネット通販(EC)に代表されるデジタル。時間と場所を制約されないECはこの十数年で急成長を遂げた。ファッション商品の取扱高は「ゾゾタウン」を運営するZOZOで3231億円(2019年3月期)、東京コレクションの冠スポンサーになった楽天で8000億円近くに及ぶ。「メルカリ」に代表される2次流通、定額によるサブスクリプションなど、さまざまなサービスも誕生し、購買行動に大きな影響を与えた。

 SPAに関して大手百貨店は衣料品売り場再建の切り札として、規模の大小こそあれ取り組んではいた。そごう・西武は09年から鳴り物入りでPB「リミテッドエディション」を始めたり、有名デザイナーとの協業が話題になった「セットプルミエ」を打ち出したりした。三越伊勢丹HDもPB拡充を柱にした「仕入れ構造改革」を推進し、「BPQC」などの強化に取り組んだ。だが、そごう・西武は18年にPB事業から撤退し、三越伊勢丹HDも大幅に規模を縮小している。在庫リスクをとらない消化仕入れに慣れきってしまった百貨店は、サプライチェーン構築や在庫コントロールが不得手なため採算ベースに乗せることができなかった。

 ECについては出遅れた。消費者の利便性に応えるよりも「店舗売り上げ至上主義」の古い体質が染み付き、身動きが取れなかった。既存事業への影響を恐れた。考えてみれば、ゾゾタウンなどECモールの売上手数料と百貨店の消化仕入れは、基本的には似通った取引形態といえる。百貨店にオムニチャネルへの先見の明があれば、国内外のブランドとの信頼とネットワークを生かしたECプラットフォーマーとしての活路もあったのかもしれない。

 小売業は「変化対応業」とも言われる。日々刻々と変わる消費者や社会のニーズに合わせて、その形態や機能を変えていくことが小売業の本質的な使命であり、イノベーションのない企業は淘汰される。一連の百貨店のリストラで改めて明らかになったのは、このシンプルな原理原則に他ならない。

 変化対応業という本質に立てば、百貨店だからとか、ショッピングセンター、SPA、ECだからとかいった業態論もあまり意味をなさなくなる。10月10日、セブン&アイホールディングスによるそごう・西武とイトーヨーカ堂の大規模リストラが発表された同じ時間帯に行われたファーストリテイリングの決算説明会では「ECを本業にする」(日下正信グループ執行役員)との宣言がされた。誰よりも変化対応に貪欲で「速い小売り」を社名にした柳井正会長兼社長の強い意思だろう。

 昭和の時代を引きずったビジネスモデルから脱却し、デジタル時代に対応した大転換ができるのか。長きにわたって百貨店を支えてきた団塊世代の消費の先細りが進む中、残された時間はそう長くはない。

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