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「ディオール」メゾンコード研究 第3回“ブック トート”

 歴史あるブランドはアイコンと呼ばれるアイテムや意匠を持ち、引き継ぐ者はそれを時代に合わせて再解釈・デザインする。アイコン誕生の背景をひも解けば、才能ある作り手たちの頭の中をのぞき、歴史を知ることができる。この連載では1947年創業の「ディオール(DIOR)」が持つ数々のアイコンを一つずつひも解いてゆく。奥が深いファッションの旅へようこそ!

 「ディオール」にはアイコンバッグがいくつもあるが、この “ブック トート”はアーカイブからではなく、現在のアーティスティック・ディレクター、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)が生み出したものである。読書好きのマリア・グラツィアが書店で使われるトートバッグからインスピレーションを得てデザインし、2018年春夏シーズンにデビューした。

 バッグを人格に例えるなら“ブック トート”は自分の分身か、親しい女友達といったところだろうか。なんでも放り込める気軽さや自立する安心感、カジュアルなのに華があるデザインはおおらかなマリア・グラツィアの人柄ともリンクする。もともとアクセサリーが得意な彼女ではあるが、これはすでに名作。アイコンバッグとして長く愛されてゆくのだろう。

 ポイントのひとつであるしっかりとしたキャンバス地とそれを彩るモチーフ“オブリーク”柄はメゾン コードと深く結びついている。“ディオール オブリーク”キャンバスは1967年に当時のアーティスティック・ディレクターであるマルク・ボアンが考案したものだ。マリア・グラツィアはそのスピリットを再現するために、タペストリー発祥の地であるベルギー・フランドル地方で100年以上続く家族経営の織物工房を選び、職人たちとの対話を重ねたという。最高級エジプト綿を使い、高度な技術を要する複雑なジャカード機で織り上げ、表には「DIOR」の文字が、裏にはヘリンボーン柄が浮かび上がる。キャンバス地はイタリア・フィレンツェにある工房へ運ばれ、そこでは37時間以上の作業と150万以上のステッチが施され、バッグが完成する。カジュアルで親しみあるルックスのトートバッグだが、誕生するまでにこれほどの人の手と技術と時間がかかっていることに驚かされる。

 この“ブック トート”のもうひとつの魅力は、自分のイニシャルや名前を刺しゅうで入れるパーソナライゼーション・サービスだ。世界の一部のブティックで提供しており、日本ではハウス オブ ディオール ギンザで行っている。「CHRISTIAN DIOR」のロゴの裏面に自分の名前が入るのだから、まさに自分の分身のようでスペシャルな一点となる。

 そして今春、“ブック トート”のスモールサイズが日本先行で発売された。既存サイズ(41×32×18 cm、29万円)に対して、スモール はA4が収まるサイズ(36.5 × 28 × 17.5cm、25万円)で小柄な日本人にも似合う。ネイビー、ボルドー、カーキ、ブラウンの4色で仕事用からカジュアルまでと幅広いスタイルに似合いそうだ。