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“泊まれる本屋”ができるまで 「ブックアンドベッド」大阪進出までの半年間(前編)

 不動産会社のアールストアが運営する“泊まれる本屋”「ブックアンドベッドトウキョウ(BOOK AND BED TOKYO)」が13日、大阪・心斎橋(大阪府大阪市中央区東心斎橋1-19-11 ウナギダニスクエア 3階)に大阪初店舗をオープンした。京都と福岡、東京の3店舗(池袋・浅草・新宿)に次ぐ6店舗目で、価格はシングルが5200円〜、ダブルが8400円〜、スーペリアルームが1万2000円〜。今回も「シブヤ パブリッシング アンド ブックセラーズ(SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS、以下SPBS)」が本の選定を担当し、カフェメニューを「sour」と共同開発した。今でも既存5店舗が満室も出る人気ぶりという「ブックアンドベッド」成功の秘けつを探るため、事業を担当する力丸聡アールストア新規事業部部長の大阪進出半年間を追ったコラムを前後半に分けて紹介する。

 「実は次の物件が決まって、ちょうど今内装のプランを練ってます」。「ブックアンドベッドトウキョウ」が新宿・歌舞伎町に5店舗目をオープンした直後、力丸聡アールストア新規事業部部長が教えてくれた。「面白そうなので、オープンまで密着させてもらえませんか」と相談をすると、快諾してくれた。6月下旬のことだった。

 7月上旬、過去最短で梅雨が明けた直後の炎天下の中、歌舞伎町の店舗を訪れた。エレベーター前で落ち合うと、偶然休憩から戻った店舗従業員と一緒になる。「あと1時間待ってくれたら、ご飯おごってあげるから〜。ほら、あっち行ってて!」と気軽に話しかけ、談笑を交わす。5店舗を経営しながらも、各店舗の現場をきちんと見ていることがわかるやりとりだ。「うちはこのユルさが売りなんで」と言う力丸部長の人の良さが伝わってくる。

 新宿店で新店舗の進捗を伺う。「実は大阪に進出します。ずっと大阪でやりたくて、いい物件が見つかったので、新宿店のオープン直後に即決しました。3年目で6店舗目、スピード感を大事にしてますからね」。実際現在でも全てのホテルが大盛況で、すでに本業のアールストアに並ぶ主力事業に成長しているのだとか。「すでに図面はできていて、これから数週間かけて内装を決めていく段階です。フードとドリンクは関西圏で面白いことをやっている人たちと組みたくて、今週打ち合わせをします。コンテンツが決まれば9月以降は現場に動いてもらうので、僕はそのあと従業員の採用に全力を注ぐ予定です」。

 「大阪には視察に行くんですか?」と聞くと、「そんなに行かないですね。僕らはマーケットインのスタイルではないので。あんまり、ローカライズしたくないんです。観光客だけに来てもらうならそれでもいいんですけど、僕らは地元の人にも来てほしくって。僕らのやり方で地元の人が喜んでくれれば、それがローカライズになるんじゃないですかね」と答える。「じゃあどうやって『ブックアンドベッド』らしさを出すんですか」と聞けば、「ブランドイメージはこれまでのものを踏襲しますが、『何かみたい』って思われないようにしたくって。僕らはずっと霧の中にある、ふにゃふにゃした立ち位置でいたいんですよね、松坂のジャイロボールみたいな。王道のブランディングとは違う手法ですね」という。

“泊まれる本屋”の命綱、本の選定作業は誰が行う?

 「ブックアンドベッド」最大のコンテンツといえば所狭しと並ぶ本だろう。これまで東京にオープンした3店舗では、渋谷のSPBSに本の選定を依頼してきた。もちろん今回もSPBSが選定を担当するというが、東京以外での協業はこれが初めてだ。

 両社のミーティングは8月下旬に行われた。力丸聡・新規事業部部長と鈴木美波SPBS事業部マネジャー、粕川ゆきSPBS店長の会議の席に同席をさせてもらう。力丸部長は「10月15日くらいに納品してほしくて、新宿店と同じくらいの冊数、予算で考えています」と端的に伝え、図面を見せる。どうやら図面と棚の数をもとに一気に本を選ぶらしい。「今回は初の大阪進出ですが、それほど大阪らしさを考える必要はありません。むしろSPBSさんらしさを全面的に出してもらえれば、僕らは何でも受け入れますんで(笑)」と話す。力丸部長が説明する新店舗のキーポイントは、「若干廃墟のような白色を軸に“おとぎの国”感のある内装」「ど真ん中に設置するピラミッド型の本棚」の2点だ。店内が白いと本が目立つので、並びをしっかり意識した方がいいのではないかという相談だ。

 鈴木マネジャーが着目したのは、まさかの「ブックアンドベッド」が入る建物の名前だった。「うなぎだにスクエアっていいですね。海つながりで『いか文庫』(粕川ゆきSPBS店長が独自運営する“実態のない”本屋の名前)出しましょうよ!」という提案だ。その後も「勉強系ではなくエンタメ系がいいかも」「(大阪にある「太陽の塔」の内部を限定公開中ということで)岡本太郎とか?」「一部の表紙を真っ白にしてわからなくしても面白いよね」などと、どんどんアイデアが出てくる。力丸部長も「カフェメニューを作家さんに書いてもらいたいなとか考えてて」と話し、鈴木マネジャーが「脚本家いい人いますよ!」と答える。そんなにぎやかな会議はたったの30分ほどで解散となった。力丸部長いわく「僕の会議は一瞬で終わる」そうだ。なお、開業後の店舗を見てみると、本の選定に“鰻谷”は生かされなかったようだが、「ブックアンドベッド」の世界観に合う約2000冊の本が無事納品されていた。

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