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渋谷区長に直撃取材、2020年を目前に再開発の進む渋谷はどんな街になる?

 渋谷駅周辺の大規模再開発が次々とその全貌を見せ始め、渋谷の街が未来に向かって大きく変わりだしたという印象を受けるようになった。今後も宮下公園の再開発に代表される大きな施設開業を控える渋谷だが、今後どんな未来が待っているのだろうか。長谷部健・渋谷区長が描く渋谷像を聞いた。

WWD:渋谷駅周辺の再開発が本格化し始めた渋谷区だが、ズバリどんな街を目指すのか。

長谷部健・渋谷区長(以下、長谷部):就任当時から“ちがいをちからに変える街”をスローガンに掲げてきた。国際的な都市間競争で生き残るためにも、エンターテインメントやイノーベーションが似合う街でありたい。街自体のハード面は整備できてきたが、まだまだ道半ば。これから10年近くはかかるだろう。ただ「渋谷ストリーム」のような大きな施設もできはじめており、ここにはホールもある。代々木公園にもスタジアムを作りたいと思っており、エンタメはもちろんだが、実は災害時の避難所になるという側面もある。

WWD:再開発によって、特に渋谷駅の南側の商圏が広がっているように感じるが。

長谷部:代官山・恵比寿方面への回遊性が一気に上がった。商圏としてはもともと原宿までつながっていて、“街の際”が広がっているイメージだ。街ごとに特徴は異なり、渋谷や原宿にはない飲食店が恵比寿にあって、こうした街ごとの空気感が間で混ざってくるといいと考えている。「渋谷ブリッジ」もかなりいい場所だし、開発はうまく進んでいると思う。僕自身が生まれ育った原宿にはストリートカルチャーが根付いていて、こうした歩き回れる場所は健康的にも環境的にもいいはずだ。

WWD:こうした再開発は中心部の混雑緩和にもつながるのか?

長谷部:動き出すと思っている。でも、僕が若いころ、公園通りなんかにはもっとたくさん人がいた。最近は明治通り沿いの人通りが多いが、もうすぐ渋谷公会堂や渋谷パルコができて、山手線外側の地域が盛り上がっていくだろう。そうなればもっと人が集まるかもしれないが(笑)。

WWD:具体的にストリートカルチャーという側面では、どういった考えがあるのか。

長谷部:例えば、宮益坂をもっと歩行者中心の道にしたいと思っている。宮益坂から道玄坂へ抜ける道を表参道のような動線にしたい。世界中の道を研究していて、スコットランドのグラスゴーでは坂道に木こそないが、坂の下を見下ろすような位置にベンチが置かれていたり、一番高いところにホールがあって、そこに向かう道で路上パフォーマンスをやっていたりして、いいストリート感だと感じた。同じ坂の街として、渋谷にも歩ける場所を増やしたい。実際に道玄坂では道を拡張したり、路上駐車の停車時間を短くするなど、歩く人が優先の道を作る実験は始めている。

WWD:ストリートにまつわるカルチャーも作っていきたい?

長谷部:この街のカルチャーは民間の人が作ってきた。われわれ(行政)がカルチャーを作ってもサブいので、あくまで環境を整えることに徹するべきだ。昔は成り上がろうとするマンションメーカー(マンションの一室で洋服を販売する若きデザイナー)が人気を博して路面店を出すというような流れがあったが、最近ではそういった構図が千駄ヶ谷に移った。でも、代々木には文化学園もあって、こうした文化が北にいくのはいいことだと思っている。

実は、こうした民間の動きは広がっていて、例えば最近は北の方を“ささはたはつ(笹塚・幡ヶ谷・初台)”と呼んでいて。もともと京王線沿はあまりファッションの匂いがしない街が多かったが、京王と協定を結んで何か仕掛けられないかと考えている。初台の緑道なんて2km以上もあって、ニューヨークのハイラインに負けないような公園にリデザインしたら面白いとか、地域の声を拾ってバーベキューができるようにしてみるだとか、アイデアはいくらでもある。他にも、参宮橋側の西参道にライフスタイル系のイメージを持ち込むことで面白い街にしたいとか、こうした渋谷区らしい新しい息吹がどんどん増えると思っている。

WWD:渋谷が拡張していると。

長谷部:新宿と明大前を結ぶ水道道路にある都営アパートをリノベーションしてIT系スタートアップを集めたり、地域課題を解決するソーシャル・アントレプレナーのような人たちが集まったり、シリコンバレーとまでは言わないが、若い人が実験的な取り組みをしている場所もある。将来像は僕もまだぼんやりとしか描けていないが、行政が民間と協業することでいいベクトルに向かうと思うし、予想しなかった化学変化も起きるんじゃないかと期待している。

ハロウィン騒動から考える渋谷の“シティプライド”

WWD:そもそも、長谷部区長が考える“いい街”とは?

長谷部:“シティプライド”がたくさん集まっている街だと思う。パリでもロンドンでもニューヨークでも、“ビッグ・アップル”のようにその街を代表するような言葉があるが、その街に住んでいるというわけでは決してなくて、その街を愛している人たちを指す言葉だ。先日のハロウィンでは普段渋谷に来ない人によってああいうことが起きてしまったが、翌朝5時半に現場に戻ったら、ボランティアがたくさん来てくれて、11月1日の朝には渋谷が一年で一番綺麗になっていた。ボランティアの方々にはまさにシティプライドがあるわけだ。

WWD:ハロウィンに関しては何か対策を?

長谷部:もちろんいろんなことを考えているが、まだ公表すべきではないし、来年の夏ころまでにまとまるように進めている。

WWD:シティプライドはどのように感じられるのか。

長谷部:渋谷にいると思いを持って会社を起業する人がいたり、わざわざ学びにくる人がいたり、日々感じている。例えば、僕は子供の頃に渋谷に住んでいると言えば、だいたいうらやましいと言われた。これは僕のシティプライドを強くすることにもつながった。あの頃から渋谷という街のコンセプトは変わらずに続いていて、街の景色・見え方が変化しているだけだ。

WWD:渋谷の変わらないコンセプトとは?

長谷部:いろんな価値観や新しいカルチャーが混じり合って、それを良しとすること。そして、変わることを恐れないこと。僕が小学生の頃から街は変わり続けている。でも、大切なものは忘れない。そもそも渋谷は戦前戦後に多くの人が移り住み始めた比較的新しい街。そこに30〜40代の転出入がもっとも多いのだが、高齢者も若者もお互い交わりやすいという特徴がある。

WWD:“若者の街”に変わりはないか?

長谷部:“気持ちの若い人”が集まる街だ。

WWD:一方で多くの外国人が訪れる街でもある。

長谷部:外国人は14〜18時がピーク。新宿や池袋と比べてもナイトタイムに弱いのだが、これはひとえにホテルが少ないからだ。というのも、一時期渋谷区ラブホテル建築規制条例というものができて、あまりに規制が厳しく、一般のホテルもピタッと増えなくなった。最近になってこの要件を緩和したところ、ニーズはあるわけだから、ようやくホテルが増えてきた。今は5000室から7000室まで増えたが、それでも他の街には1万室以上あるわけだから、まだまだ足りていない。最近では「トランクホテル」も人気と聞くが、こうしたホテルが今後も増えるだろう。

WWD:2年後に迫ったオリンピックに向けた施策は?

長谷部:一番注力しているのはパラリンピック。福祉の概念が変わるチャンスだと捉えている。これまでロンドンでのパラリンピックが最高峰と言われているが、当時の広告にあった“meet the superhumans(超人を目の当たりにしろ)”というキャッチコピーが衝撃的だった。福祉はどちらかといえば手を差し伸べるイメージが強いが、彼らが尊敬の対象に変わった瞬間だと感じた。彼らも僕らと一緒で、クレバーな人もそうじゃない人もいるし、手を貸さなければいけない人ばかりではないと頭では分かっていても、それを目の当たりにすることで印象が大きく変わると思う。

ただ、全国的に障がい者スポーツの練習場が少ないなどの課題もあり、すでに渋谷区では体育館を貸し出すなどの策を講じて、公開競技をしてもらっている。こうした本番に向けての場作りを今後もしていきたい。もちろん2020年以降もこうした活動を続けることがレガシーになるし、原動力になるだろう。20年は通過点ではあるが、スイッチが入るタイミングを逃さないようにしたい。

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