アトモスの創業者・本明秀文さんの独自の目線と経験から、商売のヒントを探る連載。京都で物件を探していた本明さんは、長屋の外観を確認しようとして転倒し、手首を骨折。結果、購入には至らず、まさに“骨折り損”となったかに思われたが、ただでは転ばない。その京都で改めて実感したのが、円安がもたらすインバウンド需要の強さだった。京都以外にも、日本各地の観光地はかつてない活況を見せている。インバウンドが“旅の記念”に求めるものから、これからの商売を考える。(この記事は「WWDJAPAN」2026年6月8日号からの抜粋です)
本明秀文(以下、本明):インフレはしばらく続くと思う。ここ30年は、お金の価値がほとんど変わらなかったから、現金を持っておいても損することはなかったけど、最近のインフレを見て、いろいろ考えるようになった。周りの若い連中が、日本でもUSDC(米ドル連動型ステーブルコイン)で決済しているのを見ると、日本円がどんどんパッシングされているのを感じる。それは日本にいても、価値の基準が円ではなくドルになり始めているってことだよね。だから、とりあえず持っている日本円を何かモノに変えたいと思って、最近は京都の物件を見ている。スニーカーはこれからメーカーがさらに供給量を増やしていくから、持っていても価値が下がり続けることが見えてきた。一方で、これだけインバウンドが増えると、地方でも素通りされない都市にはまだまだ可能性があると思う。先日も京都で長屋を内見した。昔ながらの京町家は間口が狭く、家同士が隣接していて全貌が見えにくい。近くのコインパーキングから外観を眺めようとしたら、ロック板につまずいて、手首を骨折し、あばら骨にもヒビが入った。
──「アトモス」のターニングポイントになった新宿店の物件も、転んで肩を骨折したのがきっかけで見つけたんですよね。今回は長屋を買えたんですか?
本明:今回は買ってない。そもそも物件が全然出てこないのと、出てきてもすぐ争奪戦になる。特に、商売するなら観光客が集まる場所は限られているから、まさに“狭き門”だよ。京都は建築ルールが厳しい。建築基準法に加えて、京都市独自の景観や高さに関する規制もある。マンションの高さもエリアごとに制限されているから、不動産業者は天井高を抑えて階数を確保することもあると聞く。景観を乱すような派手な色も禁止。その徹底した街づくりこそが京都の魅力であり、インバウンドに人気の理由でもある。飲食でも、京都に拠点があるというだけで、大手スーパーが取り扱う理由になることもあるらしい。
──京都そのものがネームバリューになっているんですね。以前も、観光地に出すなら「お土産屋」じゃないと、という話をされていました。地方の観光地の一等地は、“よそ者”だと物件を借りること自体が難しいとも聞きます。
本明:そう。まず物件が表に出てこない。だから地元の人と組んで、FCにせざるを得ないんだよね。これからは地方の豪族がもっとキーマンになると思う。原宿に「スリータイズ(THREE TIDES)」というタトゥーショップがあるんだけど、昨年12月に白馬に出店した。白馬は今、“第二のニセコ”と呼ばれるほどインバウンドバブル。すると外国人が旅の記念としてタトゥーをバンバン入れて帰るから、年間の売り上げ目標を3カ月で達成したと。
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