アトモスの創業者・本明秀文さんの独自の目線と経験から、商売のヒントを探る連載。「ナイキ(NIKE)」が大型店を構えた新宿は、巨大スポーツショップが集積するスニーカー激戦区。その中で、本明さんが今の市場を最も象徴する存在だと挙げるのが「スケッチャーズ(SKECHERS)」だ。市場のトレンドをいち早く取り込み、大衆のリアルな需要を反映している。それをパクリや後追いと片付けてしまうだけでは少々浅はか。“売るためならば何をやってもいい”とは言えないが、売れなければ明日はない。それが商売だ。(この記事は「WWDJAPAN」2026年5月11日号からの抜粋です)
本明秀文(以下、本明):JR新宿駅東口に「ナイキ」がオープンした。徒歩1分ほどの場所には「アディダス(ADIDAS)」の店舗もある。新宿といえば、年間100億円規模を売るといわれる「Alpen TOKYO」もあるし、「ABCマート」もある。先日、新宿でたまたまスニーカー業界の知り合いに会ったんだけど、「新宿ではやっぱりその辺りをチェックしている」と話していた。でも、僕は本当に見るべきなのは「スケッチャーズ」だと思っている。だから紀伊國屋書店の向かいにある「スケッチャーズ新宿店」によく行くんだけど、そのときも「これからスケッチャーズに行く」と言ったら、「え?本明君、まさかスケッチャーズなんて履くの?」って驚かれた。でも「スケッチャーズ」を見れば、今のスニーカー業界のトレンドが一瞬で分かるんだよ。「スケッチャーズ」は、自分たちで“開発しない”。市場で売れているものを徹底的に分析して、商品化している。厚底がはやれば厚底を出すし、今ならソールの側面に穴を配した「オン(ON)」の“クラウド”シリーズっぽいシューズがバーッと並んでる。過去に「ナイキ」が発売した、手を使わずに脱ぎ履きできるハンズフリーシューズも今推しているよね。
──“スリップインズ”ですね。CMもかなり打っていますよ。
本明:ハンズフリーシューズは、2021年に「ナイキ」が発売して、翌年チヨダからも登場した。チヨダのハンズフリーシューズは、おじさん、おばさんを中心に大ヒットして、累計500万足以上売れている。「スケッチャーズ」も当然、その流れは分かっている。究極の“負けない”商売は、“今売れているもの”を、できるだけ短期間で市場に投入すること。“サンバ”が流行れば“サンバ”っぽいもの、“パンダ”が流行れば白黒を最速で作る。“ちょっと”おしゃれに興味があるフツウの人が好きなものが一番儲かる。それを一番理解しているのが「スケッチャーズ」だと思う。業界の人たちもみんな「ナイキ」や「アディダス」はベンチマークするんだけど「スケッチャーズ」はスルー。でも実際ほら、「スケッチャーズ」の企業価値めちゃくちゃ高いから。
──そうですね。「スケッチャーズ」の売上高は90億ドル(約1兆4000億円)規模。25年5月には、投資ファンドの3Gキャピタルが約94億ドル(約1兆5000億円)で買収を発表し、9月に買収が完了しています。
本明:それだけすごいのに、業界の人たちですら実態をよく分かっていない。僕はすごく面白いメーカーだなと思うけど。
──ちなみに、一般的にスニーカーはデザインから生産まで最低でも8カ月ほどかかると言われますが、「スケッチャーズ」はどれくらいで商品化しているんですか?
本明:3カ月くらいじゃないかな。
──デザインを始めてから3カ月ですか?
本明:いや、デザインはしない。市場で売れているものをAIで作るんだよ。でも今は「ナイキ」だってAIを使って作ってると思うよ。それを「スケッチャーズ」は、より短期間で店頭に並べる感じ。
──なるほど。ただ、AIやデータ活用をすればするほど商品が似通ってくるわけじゃないですか。そうなると最終的には、ブランドより価格が競争力になりませんか?
本明:そう。「ナイキ」なら2万円。「スケッチャーズ」なら8000円。どこも同じような工場で作っていてクオリティーも変わらないから価格勝負の世界になっちゃうよね。高いか安いかは、“開発している”っていう付加価値。どれだけ時間を費やしているか、その“のれん代”がブランド力だったりするわけだけど、株価や業績が悪くなるとそのプレミアムがどんどん失われる。働いている人も“ブランド愛”よりも、○○出身っていう経歴が欲しいだけに見える。そういう価値観だから、「スケッチャーズ」みたいな存在を“ダサい”と決めつけて、ちゃんと見ない。でもリアルな市場を映しているのは、むしろそういうメーカーなんだよね。