「コム デ ギャルソン・オム プリュス」2018年春夏パリ・メンズ・コレクション
「強い」。
皆さんは、この言葉を聞くと、ファッションの世界では何を想像するでしょう?
おそらく大勢が、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」、もしくは川久保玲を思い出すと思います。
僕も、そんな大勢の1人です。彼女のメンズ、「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS、以下オム プリュス)」を見続けて10年になりますが、いわゆる“置きにいった”、安全パイのコレクションはありません。ある時は真夏に3重のレイヤードを見せ、多くの場合スーツは大胆に分解・再構築されランウエイに現れます。そんなコレクションの率直な感想はたいてい、「大胆」「破壊」そして「狂気」。だからこそ、ショー会場はたいてい薄暗く、演出は最小限。時にはBGMもナシというショーが多く、正直、そこから生まれる緊張感は強大。それに飲み込まれそうになることさえありました。
READ MORE 1 / 2 「強さ」の源泉が「狂気」から「楽しい」に変わった
「コム デ ギャルソン・オム プリュス」2018年春夏パリ・メンズ・コレクション
でも最近、そんな「オム プリュス」の「強さ」の源が「破壊」とか「狂気」から変わってきたように感じています。それが確信に変わったのは、今回の18年春夏メンズ。七色のライトが光るグルービーな空間で、レオパードや花柄、ラメをパッチワークしたジャケットに、「ナイキ(NIKE)」とコラボした“どピンク”スニーカーを合わせたモデルが、自由に、本当に自由に舞台を歩きポーズを決めるショーを見て、「楽しいって、『強い』な。もしかすると、死に物狂いに『破壊』するより『強い』のかもしれない」と思ったんです。だってこのコレクション、多分僕の中では、鬼気迫る「破壊」のショーよりもいつまでも心に残るでしょうし、ギャルソン社のスタッフにさえウルウルしている人がいらっしゃいました。なかなか珍しい光景です。それって、いつもより「強い」ってことでしょう?
READ MORE 2 / 2 最近は「楽しむ」結果「強い」ブランドが目白押し
「マルニ」2018年春夏ミラノ・メンズ・コレクション
「ヴァレンティノ」2018年春夏パリ・メンズ・コレクション
「ドルチェ&ガッバーナ」2018年春夏パリ・メンズ・コレクション
そう考えると、最近は「オム プリュス」のように、楽しくって「強い」ブランドが増えているように感じます。例えばフランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)が新クリエイティブ・ディレクターに就任した「マルニ(MARNI)」は、結果、スタイルがメンズのルールから逸脱しても、自由奔放な足し算のクリエイション。派手好きな僕さえ、「何か1つくらい控えた方がいいかも?」と思ってしまうくらい過剰な時もありますが、そのマインドは実に楽しく、結果のクリエイションは「強い」です。「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)の1人体制になって以来、「自分が着たいもの」を心の底から楽しんで作っていることがヒシヒシと伝わり、「強い」色や柄、シルエットを備えながらも共感できる「強い」コレクションが続いています。「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」は、ミレニアル世代との交流を楽しみ、モチーフ使いを筆頭にクリエイションは「強く」なる一方です。今回のショーは、本当に濃かった〜〜(笑)。
ほんの少し前まで、僕は、「強い」とは、ある種の制約の基に成り立っていたり、何かを禁じたり、壊したりしなければ手に入れられないと思っていました。でも今の「強い」は、そうじゃない。とことん楽しんじゃうと、案外簡単に「強く」なれるのかもしれないと思っています。
日本では再び、山本寛斎が存在感を増していますよね?彼なんてまさに、心の底から楽しんじゃうから「強い」人。彼に再び注目が集まる今は、「強さ」の意味が変わりはじめている気がします。