PROFILE: 福田十詩子/「ジジ」「マリュス」 / デザイナー

「ジジ(GIGI)」は、デザイナーの福田十詩子が手掛けるジュエリーブランドだ。同ブランドは2013年スタート。歴史的に意味を持つビンテージジュエリーを着想源に、職人がひとつ一つ手仕事で仕上げるジュエリーを提案している。販売は、表参道のサロンと自社EC、「エストネーション」や「イエナ」などのセレクトショップ約100店舗以上。創業時からポップアップショップは行わず、受注生産を軸に販売するため、在庫も最小限という無駄のないビジネススタイルを確立。“売る”より“育てる”という選択で、着実にビジネスを成長させてきた。デザイナーの福田にクリエイションおよびビジネスについて聞いた。
“自分で育てるビンテージ”ジュエリー
福田は、「貴族が家紋やイニシャルを刻み、自らの帰属性を示したように、ジュエリーは“アイデンティティー”を宿す存在だった」と話す。彼女はそのロマンに魅せられて、ビンテージジュエリーを買い集めるようになったが、ある違和感もあった。「ビンテージには以前の持ち主の思いが強く宿っている。それを自分が“引き継ぐ”よりは、“私自身のビンテージ”を育てたいという思いが芽生えた」。その思いを反映したのが「ジジ」だ。福田が提案するジュエリーは華やかさを誇示するものではなく、静かに持ち主の内面に寄り添う存在だ。「ジュエリーは、ただの装飾ではなく、持ち主の記憶や価値観を映し出すもの。着ける人と共に歴史を刻み、その人のアイデンティティーとなるジュエリーを提案したい」。その思想が、ブランドのコンセプト“ミーニングジュエリー(持ち主にとって意味のあるジュエリー)”につながっている。
一過性のトレンドではない“本物”を届ける
「ジジ」のシグニチャーは、創業当時から提案しているコインネックレスやシグネットリングなど。華奢でフェミニンなデザインのジュエリーが主流だった市場で福田は、ジュエリーの役割を“ファッションの完成度を高めるもの”と定義しジェンダーにとらわれないジュエリーを提案してきた。しかし、彼女には“トレンドを作る”という意識はない。「セレクトショップのバイヤーや顧客に選ばれたものがシグニチャーになった。それが結果として時代とリンクして市場に広がっていく、その距離感を大切にしている」と話す。
“意味のある本物”を提供するためにこだわっているのが18金素材と職人技だ。ジュエリーの9割は、九州にある工房の熟練職人が手仕事で仕上げる。また、インド特有の技術が必要なものに関しては、ジャイプールの工房の職人が制作する。「リアルなビンテージ感が宿るジュエリーにするには、繊細な手仕事が欠かせない」。
ブランドを”育てる”という明確なスタンスが信頼に
福田が設立当時から優先してきたのは、ブランドを大切に育てることだ。「在庫を積んでたくさん売るよりも、自分たちに合う形でブランドを続けることが大切だと考えた」と福田。幸運なことに、創業直後からセレクトショップの販路ができた。しかし、10年以上にわたり継続的に支持され続けるには理由がある。一過性のトレンドで売るよりも、時間をかけて「ジジ」のジュエリーのコンセプトをセレクトショップと共に顧客に伝えてきた。「それぞれのセレクトショップが『ジジ』らしい定番を育ててくれる。その積み重ねがブランドへの信頼につながっている」。
ブランドの転機となったのはコロナ禍だった。外出が制限され、ファッション需要が落ち込む中で、「ジジ」が提案してきたローマ時代のモチーフやクロス(十字架)といった歴史的に意味のあるデザインが支持されて売上高が大きく伸長。「不安なときにお守りとして身につけられるジュエリーとして選ばれた」と福田。“ミーニングジュエリー”という概念が揺らぐ時代にマッチし、消費者からの支持を得た。
姉妹ブランド設立、秋には「ジジ」の直営店出店も
18金にこだわり続ける「ジジ」にとって金相場の高騰は大きな課題。適正価格をモットーに活動してきたが、素材高騰や物流コストの上昇により、価格改定をせざるを得なくなった。そこで福田は24年、姉妹ブランド「マリュス(MARIUS)」をスタート。同ブランドではシルバーと天然ダイヤモンドを組み合わせたジュエリーをはじめ、バレッタやキーチェーンなどジュエリーの枠に囚われないアイテムを展開。「『マリュス』では、もっと自由に遊び心のあるファッションアイテムを提供する。より多くの人に楽しんでもらいたい」。中心価格帯は4ジュエリーが4万〜6万円、バッグが1万円程度、小物類は3000円程度と、気軽に購入できるのが魅力だ。
「ジジ」は、今秋に直営店をオープン予定だ。今までも出店の話はあったが、「ブランドが生きる場所であるべき」と慎重な姿勢をとってきた。やっと理想的な場所が見つかり、出店に向けて準備を進めているという。「直営店は、ブランドの世界観を表現する大切な場所。空間にもこだわり、行くべき価値のある場所にしたい」。