
1月のメンズに続き、2月のミラノにも台頭した「愛着」や「懐かしさ」という感覚を軸にした表現は、パリでも広がりを見せた。不安が渦巻く時代だからこそ、人は古き良きものや親しみのあるものを無意識に求めるのかもしれない。目を引いたのは、民俗的な刺しゅうやクロシェ編み、ゴブラン織といった伝統的な技法をモダンに取り入れたデザイン。着込んだような風合いやシワ、ほつれ、褪せた色といった不完全さも、服への愛おしさを示す要素になる。(この記事は「WWDJAPAN」2026年3月23日号からの抜粋です)
「クロエ(CHLOE)」
母が紡ぐ「献身」の物語
テーマは、「献身」。母が娘に示す思いやりや、1つのコミュニティーが育んだカルチャーを後進に託す願いなどを表現した。軽やかなシフォンにたっぷりのフリルやラッフルを仕込んだワンピースにボヘミアンなスパイスといういつものスタイルに加えたのは、フォークロアな手刺しゅう。母が一針一針に娘への思いをのせた刺しゅう、先人が伝承のために色とりどりの糸で描いた刺しゅうを表現し、今シーズンの大きな価値観として台頭した「愛着」のムードを表現した。
DESIGNER'S COMMENT
人間性や道徳、一体感、コミュニティーについて考えることが重要。そこで民俗学について調べた。私にとっての民俗とは、共有のコミュニティー。精神や一体感、共感を世代を超えて受け継ぎ、私たちを結びつけるものにとても強く惹かれた。北欧のさまざまな国の伝統的な衣装を調べると、そこにはどれだけの献身と努力、時間、そして人間の手が注ぎ込まれているかを感じることができる。不規則で不完全という人間的な側面も、これまで以上に重要だ。また母から娘へと受け継がれるスキルや家族の絆、一体感はとても強い。そこで手作りに力を入れた。手編みのニットや手刺しゅうのブラウス、そして手描きを元にしたジュエリー。そこには私が注入したかった人間の温かみがたくさんある。
「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」
制服と多様な要素の折衷で描く
自己発見の過程
学校の体育館を舞台に描いたのは、ティーンエイジャーのアイデンティティーが形成されゆく過程。タイドアップしたシャツや紋章やパイピングをあしらったブレザー、ダッフルコートなど学生服を想起させるアイテムをベースに、多様な要素を織り交ぜた。キープリントの1680年代のフランドル静物画は、そのまま服にのせたり、ピクセル化したり。ニットは子どものころからの愛着を感じさせ、ゴブラン織をはじめとする花柄のジャカードや金色の装飾的な刺しゅうは歴史を呼び起こす。異なる時代や文化を折衷しながらもエフォートレスにまとめ上げる才能は創業者に通じるものだが、ジュリアン・クロスナー(Julian Klausner)のルーツや若い感性によって新たな「ドリス ヴァン ノッテン」らしさを築いている。
DESIGNER'S COMMENT
始まりは、昨年9月のショー翌日にチームと共に今回の会場となった学校を訪れたこと。授業が終わり、学生たちが一斉に入ってくる光景を見て、学生時代を振り返るという感覚がどれほど皆に共通する普遍的なものなのかを考えた。そこから、自己発見の過程で服がいかに重要な役割を果たすかを話し合った。学生時代は、それぞれが制服の中に小さな個性を加える方法を見つけ、自分のスタイルを試したり、自己を形成したりする瞬間だから。また、ティーンエイジャーは自信や反抗心を持つ一方で、とても繊細。彼らの感情の中にある“もろさ”は、フランドルの静物画に見られる美や生命のはかなさに通じると感じた。ピクセルの表現も、ある種の戸惑いがあり、周りの世界を完全には理解できないことがある多感な時期を反映したものだ。
「ミュウミュウ(MIU MIU)」
シワ感とラフな風合いが生む
優しさや親密さ
ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)が目を向けたのは、「私たちを取り巻く世界の広大さに対する、人間の体の小ささ」。自分自身に意識を向けて大切にすることを表現するため、細身のテーラリングやコンパクトなシルエットのミニドレスを軸に据えた。レザーやコットン、カシミヤに洗いをかけて生み出したシワ感とラフな風合いは、さながらビンテージ。愛着を持って長年着込まれたよう雰囲気を通して、優しさや親密さを表現した。
「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」
積み重ねてきたヘリテージから
描く未来
設立30周年を迎えるにあたり、2010年にロンドンのケンジントン宮殿内にあるスノードン卿のアパートメントで開いたショーを思い返しつつ、ブランドのヘリテージから未来を描いた。そのためか、中心となったのはクラシックなエレガンスを感じさせるスタイル。そこに独自の捻りを加えた。例えば、チェックジャケットは、襟の付け根に入れたスリットに頭を通して着られるデザインに。シルクスカーフはスカートに作り変えたり、引き延ばして首から垂らしたりして自由にアレンジしている。
「ラバンヌ(RABANNE)」
懐かしさ漂うアイテムの
自由なレイヤード
「磨き上げられすぎた完璧さから距離を置く姿勢」こそがモダンなフェミニニティーと考えるジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)は、個性を際立たせる自由なレイヤードスタイルを見せた。カギは、レトロなプリントをのせた1940年代風のティードレスやボウタイ付きのブラウス、英国チェックのスーツ、フェアアイルニットといった懐かしさを感じるアイテム。メタルメッシュやスパンコール、ビーズ刺しゅう、アイレットといった装飾的な要素を交えることで、日常着を「ラバンヌ」らしく仕上げた。