PROFILE: (左)デフネ・コジャビイコール/「ナキエ」共同創業者兼共同クリエイティブ・ディレクター (右)バサック・コジャビイコール/「ナキエ」共同創業者兼共同クリエイティブ・ディレクター

2019年にイスタンブールを拠点に誕生したファッションブランド「ナキエ(NACKIYE)」は、東地中海の文化に着想を得て、構築的なシルエットやコントラストの効いた色使い、刺しゅうなどをデザインに取り入れている。モダンかつ、エキゾチックなスパイスを感じさせる同ブランドは、現在はパリとイスタンブールを拠点に活動し、ニューヨークの高級百貨店バーグドルフ・グッドマンなどのほか、日本では、24年秋冬シーズンからロンハーマン(RON HERMAN)がエクスクルーシブで取り扱う。
このたび、姉妹デザイナーのバサック・コジャビイコール(Basak Kocabiyikoglu)とデフネ・コジャビイコール(Defne Kocabiyikoglu)がロンハーマン京都店の10周年を記念し、刺しゅうイベント開催のために来日。二人に話を聞いた。
WWD:ブランドを立ち上げたきっかけは?
バサック・コジャビイコール「ナキエ」共同創業者兼共同クリエイティブ・ディレクター(以下、バサック): 私たちは美しいものが大好きで、幼少期はほとんど絵を描いて過ごしていた。陶芸や、編み物、刺しゅうも大好きだった。学校を卒業して、それぞれバイヤーとコンサルタントとして、ファッション業界で15年間キャリアを築いてきたが、自分たちが本当にやりたいのはブランドを作ることだと感じ、2019年に「ナキエ」を立ち上げた。
WWD:曾祖母の人物像と東地中海の文化が「ナキエ」の着想源だと聞いた。
バサック:トルコ人は伝統に強く結びつき、家族を重んじる。私たちは家族の女性たちに育てられ、特に曾祖母のナキエから影響を受けた。彼女は典型的なトルコ人で、トルコらしい自分なりの美しさを持ちつつも、同時に西洋式の教育も受け両方の文化に浸っていた。彼女は理想の女性像だったので、名前にちなみブランド名をつけた。また、トルコの文化は西洋の教育やライフスタイルとも融合させているので、曾祖母のストーリーをデザインに落としみながら、東地中海の文化も取り入れる。
WWD:東地中海の文化とは?
デフネ・コジャビイコール「ナキエ」共同創業者兼共同クリエイティブ・ディレクター(以下、デフネ): 東地中海の魅力と西ヨーロッパ的な現代性が混ざり合ったものだ。つまり、両方の要素を少しずつ持っており、静けさとカオスが融和したものでもあると思う。
WWD:それは「ナキエ」のデザインにどう落とし込んでいる?
バサック:ミニマリズムと脱構築スタイルを軸としながら、トルコらしさを落とし込んでいる。例えば、ハーレムパンツ、丸い肩のカフタン、トルコ語で「ミンタン」と呼ぶシャツなどオスマンやアナトリアの要素を入れたものがある。また、自然には完璧なものは存在せず、自発性や物事が少しずれている状態が好きだから、トルコの文化を1つ象徴する「カオス」もデザインに取り入れている。例えば、肩のラインが少し落ちすぎていたり、ハーレムパンツがほんの少し丸すぎたり、ボタンが少し大きすぎたりしてね。日常に寄り添うデザインでありながら、少しの遊び心を加えるバランス感が日本でも受け入れられている理由だと思う。
WWD:現代的なアプローチで伝統を再解釈している。
デフネ:地元の職人やクラフトをサポートしないと、すぐに退屈になってしまう。また、「ナキエ」との協業で彼らが新しい視点を得ることもある。例えば、トルコの陶器の皿でピンク色はほとんどなかった。理由は、高温で焼くために、思ったような色が出せないかもしれないから。しかし今、一緒に働いているアトリエは、そのピンクを気に入り、喜んで作り始めてくれた。私たちとの取り組みを通して、「ああ、そんな考え方もあったのか」と気付くことが、彼らのモチベーションにつながり、新しい挑戦も生まれた。
すべての行動に理由を
日常に必要とされるモノ作り
WWD:ブランドを運営する上で重視していることは?
バサック:「全ての行動に理由を持つこと」を心がけている。私たちは「問う」という行為が好き。意味のない服は世の中に出さない。生産過程において、素材を慎重に選び、時間や人間の動きと共に美しくなじむデザインを大切にしている。
デフネ:各アイテムに対して「どこで着るか」「本当に必要か」「日常生活の中でどんな役割を果たすか」などを問いかけ、人が日常で必要とするモノ作りをする。
WWD:「ナキエ」は2024年に日本へ上陸した。日本市場に対してどう思う?
バサック:とても親近感のある場所だと感じる。日本人の体型はトルコ人とかなり似ており、サイズ感も共通している。日本人の、伝統に敬意を称し、日常に取り入れていく感性も「ナキエ」と通ずる部分だと思う。
デフネ:この8月にはロンハーマン京都店の10周年を記念して、トルコの刺しゅう職人を招いたイベントを開催した。こうして現地のクラフツマンシップを身近に感じてもらえるようなイベントを通じて、ブランドへの理解を深めていきたい。
WWD:これからの「ナキエ」はどう歩んでいく?
バサック:トルコの伝統文化の美しさを広めることに注力し続けたい。例えば、トルコの陶器である「チニ」や刺しゅうを「ナキエ」らしい手法で再解釈し、伝統を現代的なアプローチで支援していく。そしてすばらしい人々に出会い、「ナキエ」のコミュニティーを育んでいくことが一番の楽しみだ。