ファッション
連載 ヒキタミワの水玉上海 第13回

上海の友人宅とデザイン上海で「ノリタケ」に出合う【ヒキタミワの水玉上海】

1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの連載「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回は上海で開催されたデザイン見本市「デザイン上海2025」で出合った日本の陶磁器ブランド「ノリタケ」について。上海で感じた日本発のグローバルなテーブルウエア「ノリタケ」の魅力とは?

ある日、中国人の友人宅を訪れたとき、「Noritake」と記された大きな箱が目に留まった。日本で長年親しまれてきた陶磁器ブランドが、上海でも選ばれていることに驚き、そのことを尋ねると、友人は「ブランド自体は知らなかったが、別の友人に勧められて静安寺の久光百貨店で32ピース中華セット(6人分)を購入した」という。家族が多いため、質の高い食器を一度に揃えたかったそうだ。使い心地も非常によく、細部の仕上げに感心している様子だった。

数日後、私は「デザイン上海2025」を訪れた。2025年6月4日から7日まで、上海万博展示館にて開催されたこの展示会は、第12回を迎えたアジア有数の国際デザインイベントである。4つの展示エリア、3つのフォーラム、7つの特別企画を通じて、世界30カ国以上から600を超えるデザインブランドが集まり、来場者数は7万6000人を超えた。デザインの革新と人間性への配慮が融合する場として、年々注目を集めている。

日本ブランドも数多く出展していたが、冒頭のエピソードがあったからか、特に「Noritake」のブースが目に留まった。そこで、中国総代理店を務める深水エリナ氏と、日本から来場していたノリタケの桐山美紀氏のお二人に話をうかがう機会を得た。

ノリタケは、2024年に創業120周年を迎えた日本を代表する陶磁器ブランドである。本社は愛知県名古屋市にあり、食器をはじめ、砥石やセラミック材料なども製造・販売している。その製品は、美しさと品質の高さから世界中で評価されてきた。

4組の世界的なデザインスタジオとコラボ
上海とミラノで発表

今回の出展では、ミラノ・デザインウィークとほぼ同様の展示品が採用され、世界的デザイナー4組とのコラボレーションによるテーブルウェアが紹介された。テーマ性と美しさを兼ね備えた多様な作品が揃っている。

一組目のデザイナーであるヤブ・プシェルバーグ(Yabu Pushelberg)は、ジョージ・ヤブ(George Yabu)とグレン・プシェルバーグ(Glenn Pushelberg)という2人組のデザインスタジオで、トロントとNYを拠点に建築や家具、グラフィックまでを網羅する。「HOSHIKAGE」と題したシリーズは、宇宙や星空を思わせる幻想的なビジュアルで、ノリタケが独自に開発した薄くて丈夫な白磁プレミアムホワイトの器に、焼成の段階で独特の風合いや質感を生み出す窯変釉や、金彩風の模様を手作業で施している。

2組目のエービーコンセプト(AB Concept)は軽井沢在住の香港人デザイナー、エド・ウンとテレンス・ウガンによるユニット。ジュエリーのバングルをモチーフにした「BANGLE」シリーズは、使わないときでもオブジェのように美しい存在感を放つ。続いて3組のオーストラリア出身のマーク・ニューソン(Marc Newson)は、カンタス航空のビジネスクラス用にデザインした「AIR」シリーズを発表。収納性と軽やかさを兼ね備えた機能美が魅力で、10年以上たった今も新鮮な印象を与える。最後にアメリカの建築家フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)へのオマージュが込められた「IMPERIAL PEACOCK」シリーズは、各アイテムにあしらわれた意匠に自然との調和をへの思いが込められ、ライトが1915年に東京帝国ホテルに構想したビジョンが体現されている。

会場では、「Design Shanghai Picks」特別賞が発表された。これは、優れたデザイン理念・創造性・技術を称える賞で、審査員による現地審査を経て29点の作品・展示が選出された。ノリタケは上記にもある「AB Concept」とのコラボレーションによる「BANGLE」シリーズで受賞を果たした。このシリーズはジュエリーのような洗練されたエレガンスをテーマにしたテーブルウェアであり、特に第一弾として紹介されたデザイン「Ocean」では、海胆や貝殻のような海のテクスチャーから着想を得たデザインが施されていた。芸術性と機能美を兼ね備えたこの作品は、多くの来場者の目を引いていた。

ノリタケはグローバル共通の商品展開に加え、中国市場向けの製品開発にも注力している。レンゲやスープボウル、ライスボウルなど、中国の食文化に適したアイテムも手掛けている。また、上海限定で販売している「Shanghai Mug」シリーズもその一例である。このマグは、2010年より上海を拠点に活動する建築デザイナー・国分拓郎氏が手がけたもので、「1920年代の装飾窓越しに現代の高層ビル群を望む」というコンセプトのもと、都市の歴史と現代性を金銀の模様で表現している。私もこのペアカップを一目で気に入り、日本の友人に贈ったところ、とても喜んでいただけた。上海土産の定番になりつつある商品だ。

なお、第13回「デザイン上海」は26年3月12〜15日、再び上海展覧センターにて開催予定だ。歴史的建築と都市の中心という立地が融合するこの会場で、イベントはさらなる深化と洗練を目指す。デザインの原点に立ち返りつつ、新たな価値を発信する場となるだろう。

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