PROFILE: マティアス・マグヌソン/アクネ ストゥディオズCEO

「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」が、好調なアジアでの出店を続けている。2024年はギンザ シックスに加え、北京に3店舗目、台北に2店舗目となる直営店をオープン。25年春には渋谷パルコ、夏にはバンコクへの出店を計画するほか、7月には青山店を拡大移転し、ザ ジュエルズ オブ アオヤマ(The Jewels of Aoyama、港区南青山5-3-2)に世界最大の旗艦店を開く予定だ。27年までに年商5億ユーロ(約815億円)を目指すマティアス・マグヌソン(Mattias Magnusson)最高経営責任者(CEO)に、ブランドの今とこれからを聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2024年12月30日&25年1月6日合併号からの抜粋です)
常にクリエイティブ・ファーストであること
WWD:1996年にスタートしたクリエイティブ集団がルーツの「アクネ ストゥディオズ」は一般的なデザイナーズブランドとは異なる背景を持っているが、改めてブランドの強みやコアバリューは?
マティアス・マグヌソン=アクネ ストゥディオズCEO(以下、マグヌソン):まさにクリエイティブ集団という他とは異なる角度からスタートしたことが最大の強みだと思う。私たちの仕事において当初から礎となっているのは、クリエイティビティーに対する多角的なアプローチ。そして、スウェーデン発のブランドということもあり、独自の視点でラグジュアリーを捉えている。すなわち、それは常にクリエイティビティー・ファーストであることだ。今日のラグジュアリー業界に感じるのは、否が応でも大手グループに支配されているということ。その中にはもちろん素晴らしい才能もいるが、物事は特定の方法で行われる。一方、「アクネ ストゥディオズ」は今も独立しているので、定型的なアプローチではなく、自分たちの好きなように取り組むことができる。
WWD:時代とともにクリエイションやブランドの姿勢は変化してきたように感じる。現在の「アクネ ストゥディオズ」をどのように定義するか?
マグヌソン:ファッションというのは常に変化していくもので、社会を映す鏡でもある。また、私たちがこだわっているのは、過去ではなく今を生きること。だから、変化し、改善し、前進するために取り組み続けている。しかし同時に、設立以来ずっとジョニー・ヨハンソン(Jonny Johansson)がクリエイティブ・ディレクターを務めているので、これまで約30年間の取り組みには間違いなく一貫性がある。昔と今ではやっていることが大きく異なるというのは同感だが、核は変わっていない。
WWD:変化という点で、近年のファッションショーにはミュージシャンなど多くのセレブリティーが来場するようになった。最近では、韓国のガールズグループILLIT(アイリット)と公式デビュー前から取り組みを始め、ショーに招くだけなく、キャンペーンに起用したり、イベントを開いたりもしている。エンターテインメント界とのつながりはどのくらい重要と考えるか?
マグヌソン:とても重要だ。というのも、私たちは異なるクリエイティブな分野の“クロス・ポリネーション(相互作用)”を信じているから。キャリアが確立された人でも、ILLITのように新しい才能でも、誰かと関わるプロセスはとても興味深く、お互いに学び合えるだけでなく、新鮮な視点をもたらしてくれる。また、私たちはリスクがあっても常に新たな芽を発掘しているが、そういうブランドは少ないだろう。未来の才能を発掘し、シーンに送り出すことも「アクネ ストゥディオズ」のDNAの一部であり、長期的な関係を築くことが重要だと考えている。
WWD:もともとはジーンズからスタートしたが、年々アイテムのカテゴリーは広がっている。現在人気のアイテムは?
マグヌソン:そのジーンズが今再び高く評価され、人気を集めている。ただ面白いことに、ジーンズから始まった背景を知らない人が多い。つまり、どこかで「アクネ ストゥディオズ」を知り、ジーンズを再発見してくれているということだ。また、レザーグッズにも真剣に取り組んできたが、最近は“マルチポケット”をはじめとするバッグの人気も高まりつつある。
厳しい時代の中での成長はブランドへの評価と共感の証
WWD:2027年までに売り上げ目標5億ユーロ(約815億円)を掲げているが、ビジネスの現状は?
マグヌソン:24年8月期(23年9月〜24年8月)の売上高は、330億ユーロ(約537億9000万円)。多くのブランドが苦戦を強いられていることを耳にする中で、成長率も満足のいくものだった。今日の消費者はより思慮深く、特別なものを求め、そう感じられることや体験に投資することをいとわない。だからこそ、私たちは本当にユニークなものを提供しようと努めている。厳しい時代の中でも成長しているという事実は、人々が「アクネ ストゥディオズ」を評価するとともに共感し、その世界の一部になりたいと望んでいることの証だと思う。
WWD:グローバルでの現在の直営店舗数と卸先の数は?
マグヌソン:直営店の数は75。卸売りは約470アカウント650店舗だが、年々少なくなっている。これにはいくつか理由がある。第一に私たちは最高のパートナーとだけ取り組みたいから。そして厳しい市場環境の中、良いパートナーが年々減っているということもある。今後も増やすより、絞っていくことになるだろう。
WWD:直営店に関しては、アジアでの出店が目立つ。市場をどのように捉えているか?また、各地域の売り上げシェアは?
マグヌソン:グローバルな視点で考えているので、アジアでの出店が多いのは時期的なものだ。ただ現在はアジア全体が好調で、地域別に大きく分けるとアジアが50%、ヨーロッパが30%、北米が20%。特に中国と日本は大きな市場になっている。国ごとに固有の特徴があるのでひとまとめに語るのは難しいが、アジア市場はとてもダイナミック。うれしいことに「アクネ ストゥディオズ」の活動に好意的で、常に前進し革新的でありたいという私たちの思いが受け入れられていると感じる。中でも日本人はとても洗練されていて、品質やデザインの良し悪しに対して、独自のこだわりを持っている。だから、日本の消費者から評価を得ることは、私たちにとって究極の賛辞だ。
“東京で「アクネ ストゥディオズ」のベストを表現したい”
WWD:今回、青山店の拡大移転を決めた理由は?
マグヌソン:青山に出店したのは12年前。それ以来いろんなことがあったが、東京で「アクネ ストゥディオズ」のベストを表現したいと考えた時に、現在の店では難しいと感じた。既存の青山店は、当時開いた他の店舗同様に少し隠れた場所にあるが、今はより中心的なロケーションで、私たちが誇りに思っている仕事をもっと多くの人に見てもらいたい。その点、ザ ジュエルズ オブ アオヤマは理想的な立地だ。ただ、やるからには既にある空間に入居するだけでなく、建築も含め一から取り組むことにした。内装も今とは全く異なる。お客さまからどんな反応が得られるか楽しみだ。
WWD:今はオンラインでも簡単に買い物ができる。そんな時代に実店舗への投資を続ける理由は?
マグヌソン:オンラインは、実店舗を補完する役割では素晴らしい。しかし、私たちにとって実店舗は、ブランドの世界をどのように体験してもらいたいかの土台。製品だけの話ではなく、欲しいものを手にするまでのプロセスや体験が大切だ。だからこそ、これまでにないほど実店舗の重要性を感じている。
WWD:26年には創業30周年を迎える。今後の展望は?
マグヌソン:不思議なことに、まだスタートしたばかりのような気持ちだ。だから、最高の瞬間が訪れるのはこれからだろう。私たちが築きたいのは、最も刺激的でプログレッシブなラグジュアリーブランド。そのために日々努力しているし、今後も努力を続けていく。