
訪日客のキャラクターや地域が多様化する中で、インバウンド消費に強いブランドや店舗も変わりつつある。主要都市の路面店ではインバウンド比率が3〜5割にまで高まる中で、施策はどうあるべきか。渋谷パルコから原宿の「アットコスメトーキョー(@cosme TOKYO)」「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」まで、銀座や表参道、渋谷、心斎橋、福岡の主要都市の12店舗・ブランドの動向をまとめた。(この記事は「WWDJAPAN」2024年5月20日号からの抜粋です)
免税売り上げ比率
2024年3〜4月
30%
好調ブランド
「コスメデコルテ」「クレ・ド・ポー ボーテ」「シセイドウ」など
大量買いは落ち着き
日本人と同様の接客体験を求める
アイスタイルグループが運営する「アットコスメストア」初の旗艦店「アットコスメトーキョー」は、原宿駅の目の前という好立地にある。売り場面積約1322㎡。1〜2階の2フロア構成で、ドラッグ・バラエティーストア向けから百貨店向けまで、約700ブランド、2万5000アイテムをそろえる。“ネットとリアルの融合”をテーマにさまざまな仕掛けを実施する店舗として注目を集めたものの、2020年1月20日オープン直後に日本で新型コロナウイルス感染者が出始め、いきなり向かい風が吹いた。「22年末ごろから日本人客が戻り始めた。外出機会が増え始めた時期で化粧品を買い直す最初の店舗に選んでもらったようで、他店舗と比較しても前年比が飛躍的に伸びた」と北尾悠樹アイスタイルリテール取締役店舗カンパニー カンパニー長は語る。訪日客の来店は22年秋ごろから戻り、23年1月時点の訪日客売り上げ比率は17%になった。
23年4月から日本人客、訪日客とも急増し、コロナが5類に移行した23年5月以降は勢いが止まらず23年には初年度の売り上げ目標に掲げていた40億円をクリアした。週末の来店客数は1万人を超える。訪日客の来店比率は10%程度だが、3〜4月の訪日客の売り上げ比率は約30%に拡大。国別では中国、台湾、アメリカの順となる。訪日客の客単価は2万円弱。購入個数は10個程度。「店舗の品ぞろえの特徴であるプチプラからデパコスまでを購入するケースが目立つ。日本人客の客単価は6000円前後で購入個数は3個程度」という。また、訪日客の買い方にも変化がある。「コロナ前は1アイテムを100個購入するなど、個数制限をしないと店舗の在庫が切れてしまうこともあった。現在は自分や身近な友人、家族が使うものを求める傾向が強い。よりよい商品を探し日本語を理解しようと努力する人が増えた」(中原絢子アイスタイルリテール店舗カンパニーTOKYO事業部副部長)。
入り口正面に配置するベストコスメの商品を集めた“ベスコスタワー”は、訪日客が足を止める場所で、撮影したり購入する商品を探したりする場としてにぎわっている。1〜3月のブランド別の売り上げトップ3は1位が「コスメデコルテ(DECORTE)」、2位「クレ・ド・ポー ボーテ(CLE DE PEAU BEAUTE)」、3位「シセイドウ(SHISEIDO)」。各ブランドともベストセラー商品が支持を集める。販売個数のトップ3は、1位が「クオリティファースト(QUALITY 1ST)」“ダーマレーザー スーパー VC100マスク”、2位が「なめらか本舗」“リンクルアイクリーム N”、3位が「ヒロインメイク(HEROINE MAKE)」“スピーディーマスカラリムーバー”。いずれも訪日客だけでなく日本人客の購入も多い。
訪日客の接客には、ブランドが用意した接客ツールを活用するほか、約30人の全販売スタッフにiPadを付与し翻訳機能を駆使したり、アプリ「みえる通訳」を活用したりする。「みえる通訳」は遠隔で通訳が対応するもので、より細かな接客が必要な際に使用する。
訪日客売り上げも貢献し、店舗全体の1〜3月売上高は前年同期比40%増と伸長する。「訪日客は日本人客の買い物体験を求めていることから、訪日客向けのキットや売り場作りはあえてしない」(北尾取締役)。そのほか「取り扱いブランド・アイテム数が多く迷路みたいな配置にあえてしているのは、歩くと新たなブランドとの出合いを創出するため」(中原副部長)と飽きさせない店作りを維持し、訪日客も魅了し続ける。