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語られ始めた更年期 多くの女性が悩む尿もれに対峙する日米のCEOが対談

フェムテック、フェムケアという言葉が浸透し、生理や女性ホルモンにまつわる女性のからだの変化について語られる機会も増えてきた。その一方で更年期の症状、特に尿もれについては代表的な症状であるにも関わらず話題に上がることは少ない。多くの女性が悩むその問題解決に向けて商品を開発したのが、吸水ショーツブランド「ベア(BE-A)」と骨盤底筋トレーニングアイテム「ケーゲルベル(KEGELBELL)」だ。2月に開催された「フェムテック フェス!(FEMTECH FES!)」に出展した両者に、タブー視されがちな尿もれに対する課題や2人が目指す将来像について語ってもらった。

――尿もれに着目した経緯は?

ステファニー・スコール=ケーゲルベルCEO(以下、スコール):母が骨盤底筋の外科手術で慢性的な症状を負ったことを機に、多くの女性が骨盤底筋に関する問題を抱えているにもかかわらず、根本的な解決方法に出合えていないことを知りました。それがきっかけとなり、2016年に創業し骨盤底筋トレーニングアイテムの「ケーゲルベル」を開発しました。

髙橋くみベアジャパンCEO(以下、髙橋):「ベア」はこれまではサニタリーショーツを販売していましたが、2月に発売した“ベア シグネチャー ショーツ04”は、ニオイ対策など尿もれにも安心して使える機能を備えました。ただそれだけでは根本的な解決にはなりません。同時に骨盤底筋を鍛える大切さもステファニーさんと一緒に伝えていきたい。

――初対面ですぐに意気投合したと聞いた。

髙橋:ステファニーさんは元哲学の大学教授で、私はロンドン大学で哲学を専攻していた事から勝手に親近感を持っていました。「哲学者は起業家に向いているのかも?」と話をしたり、私が家族と住むロサンゼルスと日本を行き来している話をしたりして、盛り上がりましたね。

表には出てこない、尿もれに悩む人の多さ

――「ベア」の吸水ショーツを見た感想は?

スコール:環境にも配慮した素晴らしい商品です。女性が一生のうちに使用するプラスチック製の生理用品や尿もれパットなどは莫大な量で、使い捨て生理用品は海洋プラスチックゴミの第5位と言われていますから、その解決の一助にもなりますね。

髙橋:1回の周期で使用する生理用ナプキンを25枚として、約40年間使用すると1万2000枚になりますから、それだけでも莫大な量ですし、金額的にもかなりの負担です。

――ケーゲルベルのビジネスの広がりは?

ステファニー・スコール/ケーゲルベル発明者CEO博士 プロフィール

アメリカ ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるテンプル大学で哲学の教授を務める。自身の母が骨盤底筋の外科手術で慢性的な症状を負ったことがきっかけに、今まで目を向けられてこなかった骨盤底筋の弱さに起因する課題を解決すべく、2016年にケーゲルベルを創業

スコール:はじめは調査と開発に3年を費やし、19年にアメリカで医療機器として認可されました。その後ある見本市に出展したところ、インフルエンサーに注目され、コストコのバイヤーの目に留まりました。商談に呼ばれたものの、当時は開発に25000ドル(約367万円)かけやっと商品化した直後でバイヤーにサンプルを渡せないほどお金がなかったんです(笑)。コストコの基準は厳しく、会社の倫理観なども問われましたが、無事に20年にはコストコオンラインで発売できました。その後はコロナ禍となり、予定していたホテルでの販売がキャンセルになるなどありましたが、人々の在宅時間が増えるなか、TikTokに投稿した「ケーゲルベル」の動画が200万回再生されるなど、SNSを中心に商品の認知度がぐんと上がりました。

――購入者層の中心は、やはり更年期世代?

スコール:たしかに40代が最もリーチしやすい年代ですが、出産をきっかけに尿もれに悩むようになったり、パートナーと性的により良い関係を築くために使用したりと目的はさまざまで購入者は20〜50代と幅広いですね。

髙橋:当社が10〜60代の女性192人を対象には実施したアンケートでは、75%が「尿もれした事がある」との回答に。さらにその半数が20〜30代で初めての尿もれを経験し、中には10代で「スポーツしている時に経験した」という回答もありました。表に出てこない、とても言いにくいトピックなのだと思います。

スコール:アメリカでは肥満の人が尿もれしやすいと言われ、10代、20代でも悩んでいる人は多いですね。20代で20%、30代では30%、40代では40%の人が悩んでいるというデータもあります。

ナオミ・ワッツらセレブの影響で更年期の話題がオープンに

――ケーゲルベルを創業した2016年当時と今では、更年期についての捉え方は変わりましたか?

スコール:変わりましたね。とくにここ1年の変化は大きいと思います。きっかけはミッシェル・オバマ(Michelle Obama)やオプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)、ナオミ・ワッツ(Naomi Watts)などの著名人がメディアで更年期について語るようになったこと。とくに影響力の強いオプラが自分のトーク番組にセレブを招いて更年期を話題にするようになってから、「オープンに話していいのね」という空気が広がっています。

髙橋くみ/ベア ジャパン代表取締役CEO プロフィール

UCL(ロンドン大学)卒業後、外資系映画会社、外資系アパレル会社を経て、山本未奈子共同経営者と共にMNCニューヨークを設立。シングルマザーに育てられた経験から「ジェンダー平等」「女性のエンパワーメント」には人一倍の関心と持論を持つ。 2020 年 3月にはベア ジャパンを設立。家族と住むアメリカ・ロサンゼルスと日本を行き来しながら経営を行う傍ら、生理や女性活躍推進に関してのセミナー等を積極的に行っている

髙橋:日本でも人口の多い団塊ジュニアが更年期世代に差し掛かったことで、空気が変わってきましたよね。経済産業省調べで生理や不妊治療、女性特有の疾患、更年期などによる経済損失は毎年6兆3700億円にも上ると数字を出していますし、人口減少もあり「そこをきちんとやらなければ」と考える大企業の経営者が増えていると感じます。実は取引先のバイヤーからは「生理の次はベアさんの力で尿もれについてもオープンに語れるように啓発して欲しい」と言われています。

スコール:啓発していくこと、話せる空気を作ることが何より大切。そのために、お互いやる事はたくさんありますね。

――今後、挑戦することは?

スコール:まだ日本では販売されていませんが、「ケーゲルベル」の半分の価格で購入できる「ケーゲルカップ」を開発しました。重りの替わりにペットボトルを使用するもので、これをアメリカの貧困層、インドやアフリカにも広げたいと思っています。ゆくゆくは現地のNGOと連携して、それぞれの地域で製造する道も模索しています。それが体の健康に役立つだけでなく、雇用の機会も生まれ、女性の人権を守る事につながると考えます。

髙橋:当社も、エチオピアの方に吸水ショーツについて知ってもらい、日本の縫製技術を学んでもらう取り組みを始めました。エチオピアでは生理用品の購入が困難な事から、古布をあてて生理期間をしのぎ、洋服を汚す不安から学校に行くのを止めてしまう少女達がいるんです。将来は吸水ショーツを自分達で製造し、それが自立への道を広げる一助になる事を願っています。生理についても尿もれについても、正しい知識を持ってもらうことがとにかく大事。女性のからだに起こる当たり前の事であり、それを解決できる選択肢がある。解決する方法があるのに、知らずに悩み続けるという環境を変えていきたいですね。

スコール:100%賛成です!哲学者としても、女性達が必要以上の苦しみを背負う事がないよう願います。

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