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実は離職の一因? 経営層も女性も知っておきたい「男性更年期」の事実

近年、フェムケア意識の高まりと共に、企業内において女性の生理や更年期への配慮が求められている。その一方で「男性の更年期」に関しては、ほとんど知られていないのが実情だ。マネージメントを担う40~50代の男性に発生しやすい健康課題は、本人や周囲にどのような影響があるのだろうか。 該当世代の男性はもちろん、若手社員や女性も知っておきたい、男性更年期について検証する。

そもそも、男性に「更年期」は存在するのか?

「集中力が続かない」「仕事のパフォーマンスが落ちた」「気分が落ち込みやすい」「突然発汗する」、40代以上の男性で、このような事柄が思い当たる人はいるだろうか。その裏側には、「男性ホルモンの急激な低下」が関係している可能性がある。

順天堂大学医学部浦安病院 泌尿器科の辻村晃教授は「男性ホルモンの95%を占める『テストステロン』は、20歳頃をピークに減少していきます。それに伴って生じる各種の症状を『加齢男性性腺機能低下症(LOH症候群)』と定義している。これは女性の更年期に基づいて生まれた概念であり、症状は女性の更年期とほぼ共通しています」と話す。

女性と同じく、ホルモンの低下によって発生する症状を「男性更年期と呼んでいる」のが現状のようだ。具体的な症状としては、①精神的な症状(鬱、イライラなど)、②身体的な症状(ほてり、筋力低下など)、③性機能の低下(性欲の低下など)に分けられる。

「患者の訴えとして最も多いのは①の精神的な症状で、約4割を占める印象です。落ち込み、不安、パニック、集中力低下などですね。イライラして周囲に当たり散らすケースもありますが、大多数は『活力低下』『鬱』方向の悩みであり、深刻な場合は離職につながることもあります」

②の身体的な症状としては、ほてりや発汗、身体が疲れやすくなること。テストステロンは筋肉を作るホルモンであり、運動能力の低下や、太りやすくなることも該当する。③は文字通り性欲の低下や、朝の勃起回数が減ることなどだ。

30代も他人事ではない? 男性更年期診断の難しさ

女性の更年期は、閉経を挟んだ前後5年と定義されており、40代後半~50代で経験する人が多い。しかし男性には「閉経」のような明確な区切りがないため、経験する年代や症状に関して、個人差が大きいという。

「テストステロンは一定速度で減少する人もいれば、ある年代で急激にガクンと減る人もいる。30代で『自分は更年期ではないか』と疑って受診する人もいますし、60代の患者もいます。40~50代中心とはいえ、どの年代でも起こり得る印象です」と、辻村教授は話す。

その理由の1つは、テストステロンが「ストレス」と深く関係していることだ。職場や家庭において強いストレスを受けると、若い世代でも一時的にテストステロン値が低下することがある。

「ところが、血液検査をしてみると実際にテストステロン値が低い患者は、全体の約3分の1程度に過ぎません。残り3分の2は、数値は悪くないのに、何らかの症状で苦しんでいる。なぜかというと、テストステロン値は『同年代に比べて、高いか低いか』は分かるものの、『本人の1年前と比べてどうか』は、分からないからです。最近急激に低下したのであれば、なんらかの症状が発生しても不思議ではありません」

テストステロンは、毎年(健康診断などで)測るようなものではなく、男性更年期の症状が出てはじめて測ることがほとんどだ。本人の過去と比較できないことも、診断を難しくしているという。

男性特有の「弱みを見せない」メンタル構造
昇進をきっかけに不調に陥ることも

どの年代にも発生する可能性があるとはいえ、男女共に更年期症状が多いのは40~50代にかけて。バリバリに仕事をこなす働き盛りの世代である。

「アンファー(ANGFA)」で男性の健康課題に着目したオムテックブランドの責任者を務める長内尚執行役員は、「40~50代になると、マネジメント層も一定数います。自身のパフォーマンス低下が、ともすれば部署全体の業績に関係してしまう。男女含めての話ではありますが、更年期の離職による経済損失は6300億円にのぼるという試算もあります」と話す。

この試算は、労働政策研究・研修機構「NHK実施『更年期と仕事に関する調査2021』」に基づいたものだ。このデータによると、「現在更年期症状を経験している人」のうち、男性は管理職比率が高く、50~54歳では実に42.6%にのぼる。

【40~50代の就業状態と更年期経験者の就業状態】

「更年期症状を経験中の男性を対象としたインタビューでは、『昇進』をきっかけに不調に陥る人が散見しました。若手で仕事内容が限定されていた頃は、人前でのプレゼンも平気だったのに、責任ある立場になったとたん緊張するようになった例もある。恐らくプレッシャーやストレスが関係しているのでしょう。もう1つ、男性は総じて『他人に弱みを見せたくない』『誰かに相談せず、自己解決する』傾向が強いように感じます。そのため、周囲に更年期が理解されにくい面もありそうです」と長内執行役員は話す。

辻村教授も「男性更年期の認知の低さ」によって生じる問題点を指摘する。「これまでのように仕事が回せないと、同僚に対して引け目を感じます。朝起きられない、休みがちになる、そうした場合、家族に更年期に対する理解がないと、サボっているように見えてしまう。このような事柄が、患者を精神的に追い詰めていくのです」

更年期と言われて“安堵”する男性たち
職場における今後の課題とは?

個人的に意外だったのは、辻村教授からも長内執行役員からも、「男性は更年期と診断されると、ある種の安堵を覚える」という話が出たことだ。女性の場合「あなたは更年期です」と言われて、ポジティブな感情を抱くことはまずないように思う。どちらかというと、更年期はいつか向き合う憂鬱な事柄で「ついにきたか」と思うのではないだろうか。

「男性の場合、不調の要因をネットで調べ、更年期を疑って受診する人が多い。実際に更年期と診断されると、『やはり』と腑に落ちるんですね。原因が分かれば安心材料になりますし、次の段階として治療や生活面の対策も考えられる。逆に検査でテストステロン値が高いと『この不調の原因は何なのか』と悩みが深くなってしまいます」と辻村教授は話す。

長内執行役員も同意見だ。「特に落ち込みやイライラなどメンタル面の不調は、一歩間違うと『自身の性格に起因する話し』になってしまう。そうではなく、誰にでも起こりうる症状だと理解すると、気持ちが楽になるという人が目立ちます」。

男性更年期の認知が低いせいで、「原因が分からず」「誰にも相談できず」、不調の沼で苦しんでいる男性が多いのではないだろうか。前述の労働政策研究・研修機構の調査によると、「職場で求められる更年期の取り扱い方」として、男女ともに最も多かったのが「症状や対処法について理解できる研修」だった。

【更年期の職場における取り扱い方への希望】

さらに、男女に共通する希望として「職場において直属の上司に相談できる環境」も上位に上がっている。これは今後、マネジメント層の課題となるかもしれない。

「マネジメント層はもちろんですが、若手や女性も含めて、周囲の理解があることも重要だと感じます。女性と同じように、男性にも特有の悩みがあると知っていただき、お互いにサポートしあえる環境が理想ではないでしょうか」と、長内執行役員は話す。

まずは該当世代の男性が更年期か否かを知る手がかりとして、別記事でチェックリストを作成した。さらに、辻村教授に聞いた、クリニックにおける治療法や生活習慣のアドバイスも記したいと思う。当事者である男性はもちろん、家族や同僚の不調が気になる女性も、ぜひチェックしてみて欲しい。

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