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特集 メディア特集2023 第2回 / 全6回

コンデナストはカルチャー、「レオン」は経済圏 メディアはイベントで生み出すものとは?

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コンデナストはカルチャー、「レオン」は経済圏 メディアはイベントで生み出すものとは?

アフターコロナ時代を迎え、ファッションやビューティ業界では、イベントが百花繚乱だ。イベントに積極的なのは、そんな業界に寄り添ってきたファッション&ビューティメディアでも変わらない。今秋は、周年のお祝いから社会的な課題に対するアティチュードの発信まで、多くのメディアがほぼ毎週、都内のどこかでイベントを開催。より小さなクローズドイベントにも積極的らしい。そこで、今年のメディア特集は、イベントにフォーカス。さまざまなイベント取材と編集長たちのインタビューから見えてきたのは、好きなときに好きなように、360度全方位的に、没入できるイマーシブなメディアを目指すことによる「自立」への気運だ。(この記事は「WWDJAPAN」2023年11月27日号からの抜粋です)

イベントの最終目標は、
カルチャーや経済圏の構築

イベントで“らしさ”やアティチュードを発信し、参加者には体感してもらい、ムードを醸し出して、誌面やウェブで読者に伝える先には、何が待っているのだろう?

コンデナスト・ジャパンの北田淳社長は、「カルチャーを作りたい」という。北田社長は、「私たちは、イベントビジネスではなく、IP(Intellectual Property. 知的財産権の意味)ビジネスと呼んでいる。イベントは、それぞれのメディアのカルチャーを作るIPビジネスの一部だ。『ヴォーグ ジャパン(VOGUE JAPAN)』と『GQ ジャパン(GQ JAPAN)』『ワイアード(WIRED)』は、イベントを単発の事業ではなく、IPを最大化するための機会と捉え、これからずっとやるし、やれるものを開発し続ける」という。長らくコンテンツを生み出してきた同社は今後、カルチャーメーカーとして進化する。コンデナスト・ジャパンの3メディアは、雑誌の特集カレンダーではなく、カルチュアル・カレンダーを制作。例えば「GQ JAPAN」は、スポーツやアートサロンに関するイベントを含むプロジェクトを計画している。いずれも誌面やウェブ、SNSでスポーツやアートに関するコンテンツを発信しながらイベントへの気運を盛り上げ、イベントではフィーチャーした人物が登壇、コンテンツに触れて興味・関心を抱いた読者が参加することでコミュニティーの姿を可視化させるとともに、誌面やウェブ、SNSにリポートという形で還元する。北田社長は、アカデミー賞の前後に「ヴァニティフェア(VANITY FAIR)」が行うレッドカーペットイベントが1つの好例と話す。「ヴァニティフェア」は毎年、アカデミー賞の前にハリウッド特集号を刊行。この中で取り上げられて、アカデミー賞の前に「ヴァニティフェア」が開催するイベントに呼ばれるか否かは、映画関係者にとって大きな意味を持つという。雑誌からイベントまでの一連のプロジェクトは、「ヴァニティフェア」が業界関係者やアカデミー賞、そして映画産業と密接に結びついていることを示しつつ、カルチャーを創出。それが「ヴァニティフェア」を独自のポジションに導いていると分析する。あらゆるステークホルダーを巻き込むからこそ、クライアントはもちろん、業界全体が無視できない存在になることを目指し、「究極は、メットガラ(MET GALA)。3〜5年かけて作り上げることができれば、みんなが喜ぶカルチャーになっているのでは?」と夢見る。

レオン(LEON)」は、北田社長が「IPビジネス」と呼ぶものを「『レオン』経済圏」と捉える。上述の通り、「レオン」は、「ラグジュアリーを楽しみながら消費する」ことを誌面やウェブ、ECの「買えるLEON」、そしてイベントで叶える。イベントでは必ずドレスコードを設定。「買えるLEON」でドレスコードに即した品ぞろえを強化すると、参加者は購入した商品に身を包み、華やかな会場で、「レオン」らしいエンターテインメントを堪能。その場でも、思わず財布のひもが緩んでいく。「掲載商品が売れるか?大きな反響があるか?は常に考えてきた」(石井編集長)という「レオン」のイベントだからこそ成立した「レオン」経済圏は、「花も、実も取りたい」クライアントからの支持が高い。「ヴィヴィ(ViVi)」は、いち早くイベントを中核とするカルチャーの醸成に成功しつつあるメディアの1つだ。秋に開いた創刊40周年イベントは、リアル会場の人数など「昔のような価値観」(高橋絵里子・第二事業本部ViVi事業部長 「ViVi」編集長)に縛られず、デジタルリーチに注力。発信者はメディアやリアル会場を訪れたファンのみならず、デジタル視聴者におよび、「ViVi」のコミュニティーで、新しい、何かが起こっているムードを生んだ。

各メディアは、カルチャーや経済圏の構築を通して、読者はもちろん、クライアントとのタッチポイントを増やしてコンサルタントのような存在に進化することを目指している。「日本の上質を世界へ」をコンセプトに、食や旅、伝統文化、モノ作りなど心豊かな“特別”を発信するオンラインメディアの「プレミアムジャパン(PREMIUM JAPAN)」は、食と日本文化が融合するイベントを企画。すると「百貨店から他媒体まで、VIP顧客を最高の形でもてなしたい企業が参画してくれて、招待客を楽しませたシェフには次の展望が見えてくる」と島村美緒編集長。この場合、百貨店や他媒体、シェフにとってコンサルタントのような役割を担っている。「『私たちはコンサルタント』くらいの気構えを持って、それぞれが点で頑張っている伝統工芸や伝統文化を束ねると、みんながハッピーな形で業界が活性化していきます」と続ける。「プレミアムジャパン」のウェブサイトは、広告枠が2つしか存在せず、運用型の広告とも距離を置いている。それでもマネタイズが成立しているのは、「プレミアムジャパン」経済圏が成立しつつあることで、VIP顧客に向けたイベントサポートなど、広告とは違う形のクライアントワークを担っているからだ。

イベントビジネスは、
「メディアが強くなければ洒落にならない」

このように各社はイベントに傾倒しているが、コンデナスト・ジャパンの北田社長は、「IPを成熟させるには、メディアが強くなければ洒落にならない。例えばイベントに人が集まらなかったり、協賛クライアントが集まらなかったりの場合は、大元に戻って、媒体の“怪我を治す”ことを優先すべきだ」と話す。「レオン」の石井編集長も、消費を喚起できるのは、「メディアが羅針盤的な信頼の元に成り立っているから。メディアの強みを活かさなければ」と話す。イベントやその前後で消費が喚起できるのは、毎月の雑誌や日々のウェブ・SNSで発信するコンテンツの信頼度があってこそだ。

情報を発信するのは昨今、メディアのみならずブランド、インフルエンサーやKOL、エンドユーザーにまで広がっているが、石井編集長が話す通り、各社は信頼できるコンテンツを発信しているからこそ、それはあらゆるフォーマットでも通用するし、イベントにつながる可能性があると捉えている。「美的(BITEKI)」の中野瑠美編集長は、「カロリーをかけて取材しているからこそ安心感を提供できている誌面のコンテンツは、ウェブに転載しても多くの皆さんが楽しんでいる」と話すし、「ターザン(Tarzan)」もコロナ禍で浸透した“おうちフィットネス”の習慣に“らしく”科学的にアプローチすることで、雑誌やウェブの人気コンテンツをオンラインプログラムとして展開したり、オンラインで人気のプログラムを雑誌やウェブで深掘りしたりの循環を生んだ。

取材で体感したのは、メディアが開催するイベントの参加者のエンゲージメントの高さだ。「リー(LEE)」が開催した40周年の記念イベントでは、誰もが登壇者の一挙手一投足に夢中。ついついスマホに目移りするような参加者は皆無だった。「ハーパーズ バザー(Harper's BAZAAR)」がアートの特別号発売に合わせて開催したトークショーを含め、来場者は多くのイベントで登壇者のコメントに逐一うなずいてくれる。

メディアが時間と手間、そしてカロリーを費やして築いた信頼感がなければ、多くのメディアがこの先さらなる成熟を目指すイベントの成功はあり得ない。SNSやウェブから誌面、そしてイベントとあらゆる手段で、360度全方位的に、時には気軽に、時には没入するほどの体験を提供するイマーシブなメディアが次々生まれようとしている。

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