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元ロリータ少女とバンドマンが自宅クローゼットで画期的な「バーチャル試着サービス」を開発するまで サリー127 鳥巣彩乃&小野沢敦

鳥巣彩乃/サリー127社長(左)、小野沢敦/サリー127取締役CTO(右)

(とす・あやの)千葉県出身。2007年に日本女子大学文学部を卒業後。人材ベンチャーなどを経て、2013年7月にリクルートマーケティングパートナーズ(現リクルート)に入社。2022年までリクルートリカレント事業の業績改革を責任者として牽引。リクルートに所属しながら、2017年12月7日にSally127を創業。22年にリクルートを退社
(おのざわ・あつし)1994年生まれ。14歳よりプログラミングに目覚め、独学で多数のゲームやツールを開発。高校・大学と情報技術専門コースへ進学した生粋のエンジニア。卒業後リクルート100%子会社のニジボックスに入社。リクルート所属の新規事業エンジニアを経て、国内最大級の就職サイト「リクナビ」にて、テクニカルディレクターを務めた。2017年サリー127共同創業。21年7月にニジボックスを退社 PHOTO:HIRONORI SAKUNAGA

サリーワンツーセブン(SALLY127以下、サリー127)は、ちょっと毛色の変わったファッション系のITスタートアップ企業だ。「ヴィヴィアン・ウエストウッド」コレクターの鳥巣彩乃が社長を、元ヘビメタロッカーでITエンジニアの小野沢敦がCTOを務める。社名の「サリー127」は、氣志團の名曲「國道127號線の白き稲妻」から取ったという。2人はともにリクルートの新規事業開発部出身。「席が近くて、2人とも『ヴィヴィアン』好きだったのですぐ意気投合した」(鳥巣社長)という。

ここまで聞くと、リクルート出身者が同窓会のノリで作ったような軽いスタートアップに聞こえるかもしれない。だが、サリー127のバーチャル試着のテクノロジーとサービスは本物だ。AR(拡張現実)技術を使う一方、アプリ不要でブラウザ上でも動く超独自技術をベースにしているのだ。「アプリ不要+ブラウザ上で使える」、ということはどんなECサイトも手軽に導入できるということ。このサービスは、小野沢CTOがプログラムからデザイン、UI/UX、データベース設計まで全て一人で、ゼロから作り上げた。鳥巣社長は「4年をかけて、コツコツと磨き上げてきた。この技術には絶対の自信がある」。

筋金入りの「ロリータ少女」はリクルートへ 転機はある新規事業の挫折

鳥巣社長は学生時代、筋金入りのロリータだった。「親友と2人で365日ロリータ服を着ていたので、巨大掲示板の2ちゃんねるに(大学のキャンパスのあった)『目白にいつも謎のロリータがいる』みたいなスレが立ったほどでした(笑)」。だが卒業後はファッション関連の仕事には就かず、人材ベンチャーなどを経て、2013年にリクルートに入社した。「働きだしてからもファッションのことはずっと好きで、稼いだお金の大半は服につぎ込んでいました」。

転機は、ある新規プロジェクトの頓挫だった。鳥巣社長は当時、社内の新規事業コンテストにてグランプリを獲得し、社内起業としてインターネットサービスを立ち上げ、責任者を務めたものの、なかなか軌道に乗らず、結局プロジェクトは終了した。「抜け殻のようになっちゃって。あるとき残業してて、ふっと横を見たら小野沢がいたので『ねえ、一緒に起業してみない?』って誘ったんです。特にやりたい事業があったわけでもないけど、気の合う小野沢とだったら面白いかなって思ったんですよ」。ただ、「いいですね」と答えた小野沢CTOに対して、鳥巣社長は自分から声をかけたにも関わらず「で、君は何ができるの?」と返したのだ。小野沢CTO曰く「僕も、そろそろ自分で事業を立ち上げたいと思っていたタイミングでした。振り返ってみると、言い方(笑)とは思いますが、当時はじゃあ何をやろうか、という壁打ち感覚でしたね」。

リクルートはルールさえ遵守すれば副業や起業が許されており、2人は17年に起業した。ただ、それから2年間はいわゆる一般的な受託サービスを続けていた。「起業後もしばらくは、実は小野沢が超優秀なエンジニアだって知らなかったんですよ。でもある時、小野沢がいわゆる、フルスタックエンジニア(複数、あるいは全分野を一人で開発できるエンジニアのこと)だと知って、そのときに『だったら、2人とも大好きな服のサービスを作ろう!』って思ったんです」。

超独自のアプリ不要の「バーチャル試着」技術の開発へ

サービスはすぐに「バーチャル試着」に決まった。2人とも服好きで、IT×服のオンラインショッピングにおいて、「試着」が常に高いハードルになっていることがすぐにわかったからだ。裏テーマは「真夜中のランウェイ」だった。「洋服好きの人なら誰でも身に覚えがあると思うのですが、夜中にふと思い立って好きな服を何着も着替えたりすることってあるじゃないですか?そんな風に使ってもらえたら嬉しいなって」。ちなみにこの「真夜中のランウェイ」というコンセプトは、同社の技術検証サイトの同名のサービスとして22年11月にスタートしている。

小野沢CTOは「かなり早い段階から、頭の中にARを使ったサービスのイメージはあった。ただ、1人で作るとなると何年かかるかは分からないことは伝えました」。鳥巣社長は、「それでもいい、というかそれだ!と思いました。全部小野沢が1人で作るならとことんこだわったプロダクトが作れる。何もない白紙の状態だったけど、その時に『自分たちだけで完成させること』と『妥協しないこと』、この2つだけを決めました」。

バーチャル試着ソフトの開発に着手後、2019年には24時間使用できる台東区のシェアオフィスを借り、終業後や週末を含めて、ほぼ毎日のように開発のためのミーティングを重ねた。「私の役割は顧客目線で使い勝手などを徹底的にリサーチ&検証すること。この部分はリクルートで叩き込まれたので」。

日中はリクルートの仕事があり、開発の仕事ができるのは平日の夜と週末だけだった。小野沢CTOは当時「鳥巣さんとコンセプトを話し合ったり、サービス設計を考える横でプログラムを書いていたので、週末も含めて、いつも朝の4時くらいまで仕事をしていました」。副業で毎日、明け方まで働く日々はどうだったのだろうか。「毎日が楽しくて。傍からだと結構激しく議論をしていたように見えたかもしれませんが、それはベースに『お客目線で良いサービスを作る』という軸があったから」。

いま2人はバーチャル試着サービスを「あとおしちゃん」というサービス名に決め、アパレル企業を回る毎日だ。「アプリ開発や高度なITの専用人材、高額の開発費が全て不要ということもあって、かなりの手応えを感じている」と鳥巣社長。

ガレージならぬ「クローゼット発」の技術で成り上がれ

「あとおしちゃん」のサンプルムービーには、鳥巣社長がピンク色の建物でバーチャル着替えをするシーンが出てくるが、これは鳥巣社長の自宅の一部を改装しており、実際の作業は小野沢CTOが行った。小野沢は「もともと父が自分でログハウスを作るほど、工作や大工みたいなことも好きで、自分もよく手伝っていました。手を動かすのが好きなんです。よく鳥巣さんが部屋の改造を思いつくと、呼び出されてクローゼットの改造を手伝っています(笑)」。GAFAMのような超大手IT企業の多くも、かつてはガレージで生まれた。ならば創業者のクローゼットから巣立つファッションテックもあっていいはずだ。CEOの自宅のクローゼットから成り上がっていく「サリー127」の物語に注目したい。

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