ファッション

「英国の美大発」「ロンドン起業」「透湿防水テキスタイル開発」、異色づくめの起業家、亀井潤が目指す先

亀井潤/アンフィコCEO

PROFILE:(かめい・じゅん)大阪府出身。東北大学工学部化学バイオ工学を卒業後、2015年に英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に留学。バイオミミクリー(生物模倣/生体工学)デザイナーとして活動を開始。18年11月にアンフィコを設立。2022年4月に英国王チャールズ3世と元アップルのデザイン最高責任者サー・ジョニー・アイヴが設立したTerra Carta Design Lab賞を受賞。現在はロンドンと日本を行き来している PHOTO:Beetle Rhind

 繊維商社の豊島は、英国のスタートアップ企業アンフィコ(AMPHICO)に出資した。アンフィコは、日本人の亀井潤が英国の名門美術大学であるロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下、RCA)での研究をスピンアウトして起業した異色のスタートアップ企業で、豊島はこれまで数々のスタートアップ企業へ出資してきたCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を通じて出資する。研究者から転身した異色の起業家である亀井潤氏の目指す先を聞いた。

WWD:ベースとなっているキャリアは?

亀井潤(以下、亀井):研究者としてのキャリアは、東北大学でのポリマーサイエンスです。いわゆるゴムやフィルム、プラスチックなどの素材の原料となるポリマーを研究していました。大学や大学院の同期は帝人や旭化成、東レなどの企業に就職していました。

WWD:2015年にデザイン系の大学院大学であるRCAに留学した。転機は?

亀井:ポリマーサイエンス自体の研究はやりがいもあったし、楽しかった。ただ、小さい頃から社会貢献に興味があって、もっとダイレクトに世の中の役に立ちたいという思いがあった。やっぱり材料科学、あるいはアカデミアの世界にいると、研究して論文を書いて特許を取って、と実際に世の中に出ていくまでが遠い。そこで材料科学から離れて、より事業化に近いプロダクトデザインの世界に飛び込もう、と。

WWD:RCAに留学して感じたことは?

亀井:2015年RCAに留学して、イノベーションエンジニアリングを主に研究&実践しました。正直、楽しかったですね。ポリマーサイエンス自体には、ものすごい可能性があるんですよ。「アンフィコ」の代名詞となっているリサイクル可能な透湿防水テキスタイルに関しても、実はポリマーサイエンス分野の研究者からするとそれほど目新しいやり方でないかもしれませんが、フッ素規制で新たな透湿防水素材が求められる中で、繊維業種ではまさにベストマッチ。これまで誰も試したことのないやり方でした。ポリマーサイエンスはプロダクトアウト的な要素も強くて、「いい素材が作れたから用途を探す」というのが一般的です。一方でプロダクトデザインの世界では、特定の用途やニーズをターゲットに作るという順番になる。どちらがいいというものではなく、考え方の違いです。

亀井:「ポリマーサイエンス」は例えるなら「料理」です。異なるポリマーを組み合わせることで、無限に近い可能性がある。ちょうど私が留学した2015年は、日本の人工タンパク質素材のスパイバーを筆頭に、米国サンフランシスコでは人工タンパク質素材のボルトスレッズ(BOLT THREADS)、人工レザーのモダンメドウ(MODERN MEADOW)など、素材のスタートアップが世界で同時多発的に台頭していました。数十年ぶりとも称される「素材革命」が世界で注目されていました。一方でポリマーサイエンスと聞くと難しく聞こえるかもしれませんが、実際にやっていることの一部はペースト状の樹脂材料を混ぜたり、反応させたりして新しい材料を作ることもある。私の立場だと、「農地で必要な野菜を作って料理する」みたいなやり方になるのでそこは他のプロダクトデザイナーと比べても強みになっていたと思います。

WWD:豊島からの出資の経緯は?

亀井:18年10月に豊島と東京大学生産技術研究所がスタートした豊島寄付研究部門で教鞭を取っていたマイルス・ペニントン(Miles Pennington)教授が、RCA時代の教授だったことがきっかけです。なので豊島とは起業直後から、ペニントン教授から紹介を受け、交流を続けていました。

WWD:スタートアップ起業だが、なぜ「ゴアテックス」を筆頭に競合がひしめく「透湿防水素材」の開発を?

亀井:いわゆる「透湿防水素材」は、フッ素規制によって「ゴア一強」の時代が崩れて、さまざまな代替素材が登場する、群雄割拠の「戦国時代」に入りつつあります。引き続きデザインとリサーチ、販売に関してはロンドンを拠点にしつつ、モノづくりに関しては日本及びアジアで、というやり方です。イギリスにいると、合繊素材に関しては、北陸(石川県、福井県、富山県)企業が今なお世界屈指の高い生産技術力を有していることを実感しています。世界的に有力なスポーツ・アウトドアブランドと話していますが「北陸で開発&生産する」というだけで商談が前に進む。豊島を通じて日本企業と組めるのは、世界展開を考えれば強力な武器になっています。


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