ファッション

「ゴアテックス」のサステナ担当に聞く 毒性フッ素化合物の廃絶

 「ゴアテックス(GORE-TEX)」で知られる高機能テキスタイルのゴア(W. L. GORE & ASSOCIATES)社は2017年、23年末までに全製品、全製造工程において環境への影響に懸念のあるフッ素化合物の一つである低分子量フッ素化合物(以下、PFCEC)を廃絶するという目標を掲げた。これは、高機能はっ水加工において、PFCECが放出されていることに加えて、「フッ素化合物(PFC)は悪」という誤った認識があったこともある。ゴア社は16年から環境NGOのグリーンピース(GREEN PEACE)と1年以上の対話を経て、PFCの中でも何が害を及ぼし、何が無害なのか線引きをして、害があると仕分けたPFCECの廃絶を決めた。

 PFCECは現在、一部の耐久はっ水加工のメンブレン(膜)の製造工程で放出されており、また、過酷な環境の対応した高性能な耐久はっ水加工の薬剤に使われている。

 ゴア社は、PFCEC廃絶に向け数百万ドルを投資して、18年にはPFCECフリーの耐久はっ水加工を施した初の“ゴアテックス ラミネート”を発売し、同部門の一般アウトドア製品の50%以上に採用した。これはスキーやハイキングなど一般的なアウトドア活動に求められる機能をクリアしている。19-20年秋冬向けでは、新たな高性能PFCECフリーの耐久はっ水加工を発表するなど、PFCECフリーに向けた開発に余念がない。来日したバーナード・キール(Bernhad Kiehl)=サステイナビリティー・リーダーに技術開発の進捗を聞いた。

「フッ素化合物は一緒くたにされがちだが、それは違う」

WWDジャパン(以下、WWD):はっ水加工の工程で放出される毒性のあるPFCが問題となっているが、その廃絶に向けてどのように取り組んでいるのか。

バーナード・キール=サステイナビリティー・リーダー(以下、キール):メンブレン製造工程のポリマーを重合させるプロセスで、PFCECが放出されることは確かであり、その破壊のための環境的制御技術を採用してきた。これによって当社は、フッ素化材料の責任ある使用において業界をリードしてきたという自負がある。現在は一部のサプライチェーンで少量のPFCECが放出されている可能性があるため、その廃絶に取り組んでいる。また、過酷な環境に対応した高性能な耐久はっ水加工の薬剤の成分に一部PFCECが用いられている。まず知っていただきたいのは、PFCにはいろんな性質を持ったものがあり、どのタイプのPFCであるかを知ることが重要だということ。PFCが一つの鍋に入れられて一緒くたにされがちだが、それは違う。害を与えるものもあるが、医学的な治療に用いられて人命を救っているものもある。これまでも製品自体の安全は保障されていたが、当社の目標は、原材料の製造から最終処分までの環境フットプリントを改善することであり、グリーンピースとの対話は重要なステップと見なしている。

WWD:今回廃絶するPFCECとは、06年に米政府が排出と製品含有を15年までに廃絶する計画を発表していたPFOA(パーフルオロオクタン酸)以外の成分も含まれるのか?

キール:PFOAは生殖障害を含む健康リスクをもたらす可能性があるためすでに多くの企業が制限している。当社は13年に製品およびサプライチェーンから廃絶した。グリーンピースとの対話では、より広範囲のPFCを含んでいる。

WWD:現在の進捗は?

キール:計画通りに進んでいる。20年までに、一般消費者向けに出荷される最終製品(ジャケット、靴、グローブ、アクセサリー)の約85%相当分がPFCECフリーになる。過酷な環境下用の高機能メンブレンにおいてはPFCECフリーのものを研究開発中で、目標を達成するために、学生も含めた広いコミュニティーに協力を呼び掛けてアイデアを募集した。そのロードマップを作成して、厳しいテストを行いながら試行錯誤しているところだ。製品化の目標は23年を目指しているが、もう少し早まるかもしれない。

「国際認証マークで消費者に簡単に安全性を示す」

WWD:PFCECが問題になっているが、高機能テキスタイルのリーディングカンパニーとして、現在、何を問題と感じていて、それに対してどういった解決策を考えているのか。

キール:サステイナビリティーの追求は戦略の一つだが、範囲が広くすべてにおいて課題はある。いま取り組んでいるのは、テキスタイルに残留化学物質が残っていないという認証「ブルーサイン(BLUE SIGN)」(スイスに拠点を置くブルーサイン・テクノロジーズによる認証。テキスタイル産業のサプライチェーン各段階において環境、労働者、消費者にとって安全な化学物質と加工工程および製品を認証する。世界でも厳しい認証の一つと言われている)の取得だ。現在、一般消費者向けのガーメント製品の80%以上が「ブルーサイン」認証を得ている。

ブルーサイン」取得のためのモチベーションは、消費者とのコミュニケーションだ。なぜなら直接的で簡単に安全性を示すことができ、信頼を得ることにつながるから。消費者は化学の細かいことを理解したいわけではなく、安全かどうかを知りたい。もちろん、当社には毒物学者がいて、自信を持って安全だと伝えることができるが、(第三者機関による認証は)より簡単に消費者に伝えることができるし、化学記号で伝えるよりもいいだろう。

「正しいものを作るから、消費者にも正しい選択をしてほしい」

WWD:あなたが考えるサステイナブルな高機能素材とは?

キール:機能性を持った製品でありながら環境に負荷を与えないもの。そのバランスを見つけながら製品作りをしている。20年以上、ライフスタイルアセスメント(LCA:製品の“一生”、またはその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法)について取り組んでいるが、その中で長く使えるものが環境への負荷が低いことがわかった。プロダクトのサイクルが短い製品は、環境に優しくない。長く使えるものを長く使うことが重要だ。そのために手入れの仕方やリペアサービス、リサイクル方法などを消費者に伝える努力をしている。製造者と使用者はペアでないと成り立たない。われわれは素材と技術の会社。正しいものを作るから消費者には正しい選択をしてほしいと思う。環境を守りながらすばらしい製品を提供するのでその両方に魅力を感じてもらいたい。近年リサイクル糸を用いながら、高い耐久性を保持したモノ作りにも取り組んでいる。

WWD:サステイナブルな観点から見たアパレル産業における課題は?

キール:産業としては、原材料と水をたくさん使う業界である。また、労働条件も考慮する必要がある。グローバル企業として、協業する会社とさまざまな問題を解決するために、サステイナビリティー・パフォーマンスの想定法や評価法が必要であり、その共通指標となる測定値が必要だと考える。当社は、サプライヤーやパートナー企業の評価に評価ツールのヒグインデックス(Higg Index)を用いている。ヒグインデックスには現在約200社が登録していて、その売り上げは合計で年間5000億ドル(約53兆5000億円)。今は業界内で数字が公開されているが、20年には消費者向けにも開示する予定で、より透明性を持って消費者がわかるようになる。当社はヒグインデックスの創設メンバーでもあり、それを推進していきたい。

 “ゴアテックス”は1969年に誕生した、防風性・防水性・透湿性(汗の水蒸気を逃がし、衣類内のムレを防ぐ)を兼ね備えた機能素材。ゴア(W. L. GORE & ASSOCIATES)社は1958年創業で、売上高は30億ドル(約3210億円)を超える。

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