ファッション

「マックスマーラ」好調の立役者に聞く“高品質とはつまり、素材と仕上げの最良の使い方のこと“

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「マックスマーラ」クリエイティブ・ディレクター 英国生まれ。マンチェスターでアートとデザインを学ぶ。当時の音楽シーンはニューウェーブ全盛期であり、それは今なお彼に多大な影響を与え続けている。当初は建築を専攻したが、後にファッションに転向。マンチェスターの学校を首席で卒業し、ロンドンのロイヤル カレッジ オブ アート(RCA)の修士課程に進学。RCAにおける初期のプロジェクトの一つが「マックスマーラ」主催のコンクールで、同コンクールでの優勝をきっかけに1987年に卒業と同時にマックスマーラに入社。9年前に現職に就任し、以降世界各地から集結したデザインチームを統括している。活動の拠点はロンドン、イタリア、スペイン。1992年から2000年にかけてキングストン大学ファッション学科のディレクターを務める。近年はRCAの客員教授を務め、また、マンチェスター・メトロポリタン大学から名誉博士号を授与されるなど産業と教育の密接な関係作りにも尽力している。

「マックスマーラ(MAX MARA)」は売上高を公開していないが、新興市場を含む100カ国以上に2500店舗以上を展開しており、そのビジネススケールがファッション産業のトップグループに属していることは明らかだ。主力市場の一つである日本では、“テディベア”コートをはじめ、人気アイテムがけん引し、“好調ブランド”として名前を挙げる百貨店が、特にここ数年増えている。その立役者が、「マックスマーラ」のデザイナーとして今年で36年目を迎えるイアン・グリフィス(Ian Griffiths)クリエイティブ・ディレクターだ。9年前に彼が同職に就き、表に出始めてからブランドの存在感は確実に増している。2024年リゾートコレクションを発表したスウェーデン・ストックホルムで聞いた。

WWD:2024年リゾートコレクションの発表場所にストックホルムを選んだ理由は?

イアン・グリフィス「マックスマーラ」クリエイティブ・ディレクター(以下、イアン):一昨年は南イタリア、昨年はリスボンと南欧が続いたから、今年は北を目指した。ブランドの多くは今、大切なイベントを開催するために、まだ誰も開催したことがない場所を探す、ちょっとしたゲームを行っている。今回、北を目指した決め手の一つがそれだった。ストックホルムで大きなファッションイベントが開催されたことはないからね。誰もが知っている場所に新たな光を当てることで、新たな次元、新たな視点を生み出したい。スカンジナビア諸国は最近、観光地として人気が再熱している。この先、注目がさらに高まり、その文化、歴史、芸術、建築、神話、自然景観などに人々が再び興味をもつようになるだろう。

WWD:スカンジナビア文化はコレクションにどう反映された?

イアン:北欧デザインに見られる民主的なアプローチは、「マックスマーラ」の特徴と言われている“アクセシビリティ”に近しいものがある。“アクセシビリティ”は単に価格の話ではない、ウエアラブルであるということ、そこに多くの人から共感を得るという意味だ。戦後、スウェーデンでは、結婚する若いカップルのために、政府から家具を購入するための補助金が支給されたことを知っているだろうか?加えて、良い家具の選び方の指導も受けたそうだ。それは、「マックスマーラ」のデザインに対する民主的なアプローチに近しいものがある。

そして、スカンジナビアは、シェイクスピアに次ぐ劇作家と言われるヘンリック・イプセンの生誕地だ。彼の劇は全て、新しい女性、近代的精神の覚醒をテーマにしており、このテーマは19世紀初頭、芸術家や思想家たちが集まるこの都市のネットワークの中で探求されていった。

もう一つ、スカンジナビアには雄大な自然の風景もあり、これは「マックスマーラ」に新しい影響を与えてくれた。今回のコレクションは、おとぎ話的な要素を含んでおり、「マックスマーラ」の新しい方向性を示している。

WWD:具体的にはアイデアをどのようにデザインに反映するのか?

イアン:私はミュージシャンや画家ではなくデザイナー。アイデアを現実の服に反映させることが仕事だ。そこで、一人の女性を研究した。女性で初めてノーベル文学賞を受賞したスウェーデンの小説家、セルマ・ラーゲルレーヴだ。彼女はポートレートの中で、20世紀初頭の近代化に関する全てのアイデアを凝縮したかのような服を着ている。気品を備えたシンプルな男性用シャツとネクタイを着用しているんだ。だからそのシャツを現代に再現した。

WWD:スモッキングドレスなど民俗的なアプローチは珍しい。

イアン:夏至祭を彩る7種の花は儀式や民俗学的な感覚を取り入れる一つのアイデアだった。夏至祭をテーマにしたホラー映画「ミッドサマー」を観ただろうか?そこで描かれている土地に根付いた儀式は、見た目は美しいけれど犠牲の精神があり、外部の人間が簡単には入れない、抑圧された何かもある。“テディベア”コートにフォークロアの要素である黒いタッセルを飾っていることから感じられるだろう。

WWD:あなたは女性たちの“ウォンツ”をどうやってとらえているのか。

イアン:そこに科学的なアプローチはない。将来的には、世界2500店舗からのフィードバックを分析してコレクションを作成する人工知能が登場して私は仕事を失うかもしれない。でも今はまだ「自分がどう感じるか」が重要だ。「マックスマーラ」にとって正しい戦略とはすなわち、「マックスマーラ」スタイルを開発し続けることであり、強いデザインに注意を払うこと。常に最高の品質を保ち、築いてきた遺産を守ることなんだ。

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