ファッション

「ロエベ」が“奇妙な”メンズ服を作る理由 23-24年秋冬は静止する服、動き出す服

 「ロエベ(LOEWE)」は、2023-24年秋冬メンズ・コレクションをパリで現地時間1月21日に発表した。真っ白な会場内でゲストを待っていたのは、コンテンポラリーアーティストのジュリアン・グエン(Julien Nguyen)が描いた2枚のデジタルペインティングだ。スクリーンに映し出された作品は、最新技術で遠目からだと油絵に見える。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)=クリエイティブ・ディレクターは今季、伝統的な画材とテクノロジーを掛け合わせた彼の作品と技法に着想を得た。

 アンダーソンの服作りは、シルエットの探求を常に掲げている。今季はそこに、素材と構造の開発も加わった。ランウエイに登場したのは、まるで時が止まったかのように静止する、着用可能な彫刻作品の数々だ。レザーを石炭で覆ってプレスしたTシャツは、グエンが絵画作品に用いるベラム(皮紙)がインスピレーション源。製帽の技術を用いて、ターラタンとカシミアジャージーを重ねて加工し、動きを封じたジャケットもある。着ているというより、人が洋服に身を収めている異質な雰囲気である。「ブランドのロゴを身につけて大衆の一部になることを、人々が避けているように思う。だから私自身も服作りを純粋に楽しむべきで、メンズウエアには実験的な場としての土壌がある」と、ショー後のバックステージでアンダーソンは語った。

 彫刻家エリー・ヒルシュ(Elie Hirsch)と共作したメタルのシングルブレストジャケットは、銅板を切断して熱と手工具で成形。風に吹かれて波打った瞬間を形状記憶したような様相である。一方で、マキシ丈のダブルブレストコートや、サテンのブラウスとボクサーショーツの流動性が、時の流れを感じさせる。軽量なスエードのボトムと球根型シルエットのシアリングは、皮革工房をルーツにもつ「ロエベ」の職人技術を象徴する仕上がりである。

 ほかにも、セーターに生えたメタルの天使の羽、ネックラインを浮かせて肩をすくめたように見せるYシャツ、赤や白のコンタクトレンズを入れたモデルの表情、深いカウルネックラインのウールドレスから片手を出して、古典的な肖像画を想起させるアティチュード。なじみある洋服や景色が、常識外れの構造とシルエットによってシュールな世界観を生み出す。

 特筆すべきは、これらが装飾ではなくあくまで“服”であること。素肌にウエアを重ねたのは、服そのものに視点を集中させるためだ。数日前にミラノで発表したアンダーソン自身のブランドは“削ぎ落とし”をテーマだった。そこに共通するアイデアが、今回の「ロエベ」にも含まれている。「“レス・イズ・モア”の精神を現代に感じている。奇妙なことが起こっている“今”を投影させたかった」とアンダーソン。その奇妙さを、時が止まったウエアと、流動的に波打つウエアという対照的な服を通じて表現する。「“何もなく、全てがある状態”こそが私が感じる現代であり、その奇妙さを楽観的に捉えている。不快感を取り除き、新しさを見つける最中にあるからだ。だって、自分自身を再発見したいと願うのはいいことなのだから」。

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