アダストリアのSC(ショッピングセンター)向けブランド「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」で、“ウツクシルエットパンツ”(主力品番は税込4290円)が売れている。2015年の発売からの累計販売枚数が8月で250万枚に達する見込み。同商品がけん引し、「値引きすることなくプロパー価格で商品が売れている」(太田訓グローバルワーク営業本部長)ことで、同ブランドの22年2月期は利益面で過去最高を記録した。パンツは1度サイズ感やシルエットを気に入ると、シーズンごとのリピート購入につながりやすい商品。セット買いも期待できるため、SC市場では、ウィメンズも売り出した「ユニクロ(UNIQLO)」の“感動パンツ”をはじめ、パンツ開発に力を入れるブランドは多い。競合多数の中で“ウツクシルエットパンツ”が売れる仕組みを取材した。(この記事はWWDジャパン2022年7月4日号からの抜粋に加筆をしています)
“ウツクシルエットパンツ”のヒットの要因は、大きく分けると①自社生産による高コスパな商品、②ECレビューの分析をもとにしたシーズンごとの改善、③分かりやすさ・伝わりやすさにこだわった発信の3軸。まず①だが、アダストリアは生産会社を13年に統合しており、現在自社生産と商社を通した生産の比率は全社で半々。ただし、同社最大規模の「グローバルワーク」は多くが自社生産で、価格に対して価値の高い高コスパ商品を作れる背景があるという。だからこそ、「具体的にどんな価値が客に求められているのか」をしっかり把握する(=②)と共に、その価値を反映した商品だということを分かりやすく客に伝える(=③)ことがカギになる。「一口に高付加価値といっても、吸汗速乾、スタイルがよく見える、手入れが楽など、考えられる切り口はさまざま。女性が本当に求めている価値が何かを突き詰めないといけない」と太田本部長は話す。
“ウツクシルエットパンツ”も、春夏物ではドライタッチなどさまざまな機能を盛り込んでいるが、メーンで打ち出している価値はその名の通り、はいたときのシルエットだ。“ウツクシルエットパンツ”の前身となる商品は15年に発売していたが、18年ごろに商品企画担当者が自社ECのレビューを読み込む中で、シルエットについての言及が多いことに気づいた。そこで、求められている価値=打ち出す価値としてシルエットにフォーカスし、パターン改良などを開始したのが、ヒットの原点だ。
そのような、担当者による人海戦術でのレビュー分析から大きく仕組みが進化したのは19年。本格的に立ち上がった社内のデータ分析チームと連動し、15年の発売以来のECレビューを精査するようになった。それにより、改めてシルエットの美しさを求める声が多いと確信すると共に、「この機能とあの機能でどちらが重視されているか」といった比較も可能になった。データ分析の母数となる“ウツクシルエットパンツ”のECレビュー投稿数はこの5月で700件、6月で600件という規模。データ分析チームから月ごとにレビュー分析が共有される仕組みを構築し、同時に深く調べたい事柄があれば事業部から分析チームに持ちかける。そうやって浮き上がってきた傾向をもとに、商品のどこを改良するか、もしくは変えないかを検討。年間4回の素材替えのタイミングごとに、改善を重ねてきた。
キャッチーな商品名への変更もカギ
こうした客の声を分析・反映したモノ作りの仕組みは、競合の「ユニクロ」が猛烈に強化している分野でもある。「確かに仕組みとしては近いものかもしれないが、(より幅広い層を対象とする『ユニクロ』に比べ)「グローバルワーク」の顧客対象は絞られている。データをもとにしつつも、(マスの最大公約数的なデザインではない)ちょっとした時代感やファッション性を狙っていくことができるのがわれわれの強み」と、太田本部長は話す。例えば鮮やかな色への支持が高まっていた22年春夏の“ウツクシルエットパンツ”は、ベーシックカラーを減らして、赤や緑、パープル、黄といった色をバリエーションで打ち出し、反響につなげた。
いい商品を作っても、その価値が客に伝わらなければ意味がない。その点でも“ウツクシルエットパンツ”はさまざまな試行錯誤を重ねてきた。一番大きな改善点は商品名。“ウツクシルエットパンツ”の発売当初の名称は“TRテーパードパンツ”。TRはポリエステル・レーヨン素材を指すファッション業界用語で、業界人ならこの名前からなんとなく商品をイメージできるが、一般消費者には全く響かない。太田本部長が事業部に参画した18年以降、こうした売り手視点だった商品名を順次切り替え、商品ごとに最も伝えたい価値を名称に反映するようにした。その結果、“TRテーパードパンツ”は19年に“シルエット美人”に変更。さらなるキャッチーさを求め、20年に“ウツクシルエットパンツ”に行き着いた。
「店頭POPやECの商品紹介などにも、あらゆる価値説明を盛り込もうとしがち。でも、全て詰め込むと一番伝えたい価値が薄まってしまう」と太田本部長。例えばカラーバリエーションが売りだと伝えるなら、「POPで書き込むよりも、店頭VMDやECのサムネイル画像で表現した方が伝わりやすい」。商品を企画する段階で、店頭やECでどう見せるかといった販促面も同時に想定するように事業部の意識を変えたことで、「価値をいかに分かりやすく伝えるかといった面が強化された」という。
社内向けオリジナル素材展で競争力アップ
「グローバルワーク」2022-23年秋冬は、引き続き“ウツクシルエットパンツ”を秋冬らしい色柄で打ち出すと共に、ニットとアウターを強化商品に据え、分かりやすく商品価値を伝えていく。ニットは、肌触りのよさや着心地の滑らかさを連想しやすい“メルティーニット”という商品名で消費者にアピール。アウターでは、“軽やかストレッチコート”と名付けた、ウール調に見えるレーヨン・ポリエステル素材のコートが一押し商品だ。
ウツクシルエットパンツやメルティーニット、軽やかストレッチコートは、どれも素材メーカーと組んで、生地や糸からアダストリア独自で作り込むことで、競争力につなげている。アダストリアでは、こうしたオリジナル素材の開発を近年強化しており、シーズン毎に素材開発部が各事業部に向けて社内で素材展を行っている。自社オリジナル素材を使いたいというブランドが社内でいくつかまとまれば、それだけスケールメリットが出せる。「原材料がこれだけ高騰している中では、こうした取り組みがさらに重要になる」と、アダストリアの中村直樹・生産部部長兼素材開発部長は話す。例えば23年春夏には、綿花のさらなる高騰を見越し、独自開発のコットン調ポリエステルなどを社内素材展で打ち出した。