ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、美容部員に求められる変化とフェムテックに足りないツールの話。
【賢者が選んだ注目ニュース】
資生堂のトップメーキャップクリエイターから美容部員に転身
「生理痛」「冷え性」など女性の不調の理解を深めるゲームが登場
昨年から現在まで新型コロナウイルスの影響を受け、国内では百貨店や商業施設が休業、そして現在もコスメフロアでは美容部員によるタッチアップ自粛が続いているカウンターも多い。そして急速なデジタル化の流れも受け、今美容部員の働き方や対応の仕方に変化が求められている。記事内の「シセイドウ」グローバル フラッグシップ ストアのLBC兼副店長の河井しのぶさんはコロナ禍において、ライブ配信の構成から台本作りまで自身で担当し、月1回のペースでライブ配信を始めたそうだ。こうした美容部員自らライブコマースやチャットサービスなどデジタルツールを通して客にビューティアドバイスを行うという流れは、客との新たなタッチポイントの場の一つとして定着しつつある。
化粧品購入者は二極化
そこで感じたのが、この先は“効率的に化粧品を購入したい人”と“じっくり話を聞いて購入したい人”の両極端になるのではないかということ。例えばファッション通販サイト「ゾゾタウン」がコスメ市場参入と同時に独自開発した肌色計測ツール「ゾゾグラス」は、肌の色を計測して個々にあったパーソナルカラーや肌の色に近いファンデーションの色をおすすめしてくれる。計測時間は約1分と簡単かつ手軽で、時間を効率的に使いたい人には向いているサービスだ。一方で、人の力=親切な接客を求める人ももちろんいるだろう。
今までは肌測定器などデジタルツールを使い、親切丁寧に説明してくれる美容部員がフォーカスされていた。しかしAIが美容部員の仕事とされてきた業務の一部を代替できるようになる中で、美容部員はデジタルにできないことを模索しなければ、“人”としての価値が最大化できなくなってしまう。
2015年の野村総合研究所とオックスフォード大学のマイケル A・オズボーン准教授、カール・ベネディクト・フレイ博士の共同研究では、国内601種類の職業について、それぞれ人工知能やロボットなどで代替される確率を試算。その結果、10〜20年後に日本の労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能との推計結果が得られている。そして東京大学の川口大司博士たちの11年の研究では、世界中で今非正規雇用者が増えており、近年の非正規雇用者の増加分の半数以上は、デジタル化によって起こっていることがわかった。
AIでまかなえるため、企業が人を雇わなくても稼働できる状況にもなってきている。だからこそ人工知能がまだくみ取れない、客一人一人に合った価値を提案する“人だからこそできること”を、危機感を持って企業も美容部員も追求していかなければいけない。
コミュニケーションツールとしての
フェムテック
21年の新語・流行語大賞にもノミネートされるほど“フェムテック”が盛り上がっている。矢野経済研究所によると、20年のフェムケア&フェムテック市場規模は、前年比3.9%増の597億800万円だった。そして市場の4分の1が月経に関すること、4分の1が妊娠や産後ケア、4分の1が更年期ケアで成り立っており、全世代の女性の悩みに寄り添う形となっている。タブー視されていた女性特有の悩みや課題がテレビ番組で取り上げられたり、“生理の貧困”が社会問題として注目されたりしたことから一般の認知度や理解も深まり、オープンに話せる環境がくるのはとてもうれしいことだ。
私自身も普段からアプリで生理周期をチェックし、「ここはイライラするタイミングかもしれない」など周りとのコミュニケーションを図っている。このように周りに理解を求めるのは自分の努力次第だった。そんな、周囲に“体の不調の理解を促すためのツール”が足りなかった中で、クラシエ薬品の“人にやさしくなるゲーム”が登場。ゲームは、プレーヤーが「体調不良の人」と「周りの人」に分かれ、自分の体の不調に気付いていない設定の「体調不良の人」が、「周りの人」からかけられる「セラピーワード」をヒントにして、自分の症状に気がつくことを目指すもの。人に“やさしくなること”を楽しむことで互いの理解を深め、それぞれが自分らしく生きられるようにという思いが込められている。
同ゲームは生理痛や冷え症など女性の体調にフォーカスしているが、実は男性も更年期や不妊治療など悩みを抱えている。男性版への展開や、カードではなくアプリ開発などさらなる広がりも感じさせる。相手に寄り添い相手の気持ちを考える、コミュニケーションツールとしてのフェムテック市場がこれから盛り上がることに期待している。