ファッション

タクシー運転手が誇らしげに語るファッションでありたい エディターズレター(2021年7月20日配信分)

※この記事は2021年07月20日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

タクシー運転手が誇らしげに語るファッションでありたい

 この1週間で2度、京都を訪れました。一回は「トモ コイズミ」のショーで、舞台は二条城。もう一回は「グッチ」の100周年記念のエキシビションで、有形文化財の旧家を「グッチ」の折衷主義で再生した“グッチ バンブーハウス”と、9世紀に創建された仁和寺の御殿でのハイジュエリーコレクション、そして清水寺での新作“アリアコレクション”の発表という驚愕のスケールでした。

 京都といえば歴史深く、一見さんには近寄りがたい世界、だからこそ世界中を魅了しているのだと思っていましたが、今回の取材で認識がかなり変わりました。変わらないから価値があるのではなく、前衛を受け入れようと折衷し続けているから今がある。土地の人の誇りであり続けているから今がある。100年前の京都も、200年、300年前の京都もこの日の夜のように新しい才能や異文化との出会いがあり、それを当時の人たちも楽しんでいたんじゃないかと思えたのです。「グッチ」のコレクションとともに舞が披露された夜の清水寺では、本殿の上に見えない気が立ち上がり、何かが息吹く瞬間に立ち会うようでした。大げさに聞こえるかもしれませんが、私の中では本当です。

 そう思えたのは多くの京都の人と話す機会があったからでもあります。そのひとりが移動のタクシーの運転手さんです。車内では「トモ コイズミ」のショーに香りを提供した約300年の歴史がある松栄堂の話になりました。その和の香りは今も私の鼻腔に残っており、ショーの光景を記憶の奥深くに定着させています。「松栄堂さん、有名ですよね」と尋ねると、気の良い運転手さんは目を剥いて「有名?もちろんですよ。香りの世界で松栄堂は日本一、いや、世界一ですよ」と胸を張って即答し、それから約10分間、松栄堂の香木がどれだけ素晴らしいかなど、嬉しそう語ってくれました。

 話の中身もそうですが、誇らしげに語る運転手さんの姿に私はグッときて、ふとミラノで長年お世話になっているドライバーのアントニオのことを思い出していました。全く英語を解さないアントニオですが、ある時運転中に一言「キング!」とつぶやきました。前を見るとそこには道を歩くデザイナーのジョルジオ・アルマーニの姿が。アントニオの反射的な一言と目の輝きを見てミスター・アルマーニの存在がイタリアの人にいかに特別であるかを知ったのでした。

 2人の運転手さんはいずれも、その香りをまとうわけではなく、その服を着ているわけでもありません。それらのブランドが自分の街の経済を支え、文化を作っていることが誇りなのですよね。いずれの時も聞いているこちらが嬉しくなりました。東京のファッションではこういうことはないな、と寂しい気持ちになりつつ、京都、もっと知りたいという気持ちがムクムク。海外からの観光客が少ない今だからこそチャンスです。

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