ファッション
連載 コレクション日記

実際に服に触れ、デザイナーと対面で話せる喜びを再認識 ドキドキワクワクのクチュール初体験記 Vol.2

 みなさん、こんにちは。WWDJAPANヨーロッパ通信員の藪野です。7月5〜8日に開催された2021-22年オートクチュール・ファッション・ウイーク取材のため、久々にパリを訪れました。街には活気が戻り、夕方になるとホテルの近くにあるカフェのテラスはどこも満席状態。屋外と言えど、かな〜り密なのは少し気になりましたが、“日常”が戻ってきているように感じられるのは嬉しいですね。2日目からはショールームでのアポも続々と入り、ある意味“ファッション・ウイークらしい”1時間刻みのスケジュールが始まります。

6日10:30 ロナルド ファン デル ケンプ

 朝一番に訪れたのは、オランダ大使館。アムステルダムを拠点にする「RVDK ロナルド ファン デル ケンプ(RVDK RONALD VAN DER KEMP)」のプレゼンテーションを見に行ってきました。エントランスには注射器が置かれていたのですが、今季のテーマは“マインド ワクチン(Mind Vaccine)”。デザイナーのロナルドは、ヨーロッパでは新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、皆が解放感を感じると共に急速に元の生活に戻ろうとしていることを不安にも感じたそう。そこで、実際に気持ちを落ち着かせてくれるCBDオイルベースのペーストを開発。限定販売するらしく、「史上初のデザイナードラッグだよ。でも、合法でエシカルなやつね(笑)」と話していました。

 “責任ある快楽主義”を掲げ、サステナブルなアプローチにこだわる彼は、今回も古着やストック素材のみを使用してクチュールを制作。スタイル自体はグラマラスですが、細く切ったデニムを編み込んでいたり、異なる素材を組み合わせたり。特に気になったのは、白いリングを繋いだケープ。こちらは繊維ゴミを再生したフェルトで作られていて、クチュールだけでなく、外部企業と提携して同じ素材を使用したバッグやアクセサリーも販売するそうです。

6日13:00 ルイ・ヴィトン

 今回のパリは天候が悪くて風邪を引きそうなのでセーヌ川沿いの「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」でストールを急遽購入し、6月に映像で発表された「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」22年クルーズ・コレクションを見にショールームへ。皆さんはショー映像をもうご覧になりましたか?彫刻家の故ダニ・カラヴァン(Dani Karavan)氏が手掛けたアックス・マジャール(大都市軸)が舞台になっているのですが、「パリ郊外にこんな素敵なロケーションがあるんだ!」と思わず唸る壮大な映像は必見です。ショールームでも、その一部である赤い歩道橋のデザインが再現されていました。コレクションは、マーチングバンドを想起させるスタイルや鮮やかな色使いが印象的。ビニールでコーティングしたようなツイードや角度によってストライプが動くような視覚効果のあるホログラム素材など、間近で見るとやはり新たな発見があります。ショーには登場しませんでしたが、ゴツいチェーンをあしらったサンダルやローファーも気になります。

6日14:00 ヴィクター&ロルフ

 7日に映像を公開する「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR & ROLF)」のコレクションを一足先に見せてもらうため、1日限りのプレゼンテーションのための準備をしている贖罪教会へ。08年にイギリス・ロンドンのバービカンセンターで開催された展覧会「ザ ハウス オブ ヴィクター&ロルフ」も、18年にオランダ・ロッテルダムのクンストハルで開催された25周年の回顧展にも足を運んだ自分としては、デザイナーの2人に実際会えることに超ワクワク。会場に行ったら、ロッテルダムの展覧会を手掛けたカナダ人キュレーターのティエリー・マキシム・ロリオ(Thierry-Maxime Loriot)さんが今回のプレゼンテーションにも関わっているということでちょうど会場にいて、なんとも贅沢な時間でした。

 ユーモアやアイロニーを感じるテーマを掲げることが多い「ヴィクター&ロルフ」ですが、今シーズンのテーマは“ザ ニュー ロイヤル(The New Royal)”。体裁を保ちながらも人間らしさが垣間見える新世代のロイヤルファミリーから着想を得たそう。「ファッション業界にも確固たるヒエラルキーがあり、それは王室や階級制に通じる。あえて“フェイク”と呼ばれるものを使って、高揚感のあるコレクションを作りたかった」とヴィクターは話していました。その言葉通り、上流階級を象徴するようなスタイルを、人工ファー(生分解可能なものだそう)やラフィア、キッチュなビジューやパール、「メリッサ(MELISSA)」とのコラボバッグやシューズなど伝統的なクチュールとはかけ離れた素材や装飾で解釈しているところが、“ファッション・アーティスト”と呼ばれる彼ららしいですね。“SIZE QUEEN”や“Don’t be Drag just be a QUEEN”など、コートの上にかけたサッシュのフレーズもウィットに富んでいます。

6日15:00 スキャパレリ

 バイデン大統領の就任式でレディー・ガガ(Lady Gaga)が着用したことも記憶に新しいダニエル・ローズベリー(Daniel Roseberry)による「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」の展示会のために、ヴァンドーム広場へ。先シーズンはムッキムキの筋肉ドレスで度肝を抜きましたが、今季も型にはまらない世界観が炸裂!「ザ マタドール(The Matador)」と題されたコレクションは、闘牛士のジャケットや牛の角を想起させるシェイプが目を引きます。そこにあしらわれた煌びやかな装飾や組み合わせるアクセサリーには、乳房や目、鼻、耳、口、手など体のパーツのモチーフが溶け込んでいて、インパクト絶大。エンターテインメントの世界から愛されるのも納得です。発表の約1週間後には早速、モデルのベラ・ハディッド(Bella Hadid)がカンヌ映画祭で着用していましたね。

6日16:00 ジャンバティスタ ヴァリ

 「ジャンバティスタ ヴァリ(GIAMBATTISTA VALLI)」は、オスカー・ニーマイヤー(Oscar Niemeyer)が設計したフランス共産党本部周辺で撮影された映像を通して発表。「クチュールはファンタジー」と語るジャンバティスタは、パリのグラマラスな“夜遊び”からヒントを得て、生き生きとしたエネルギーを表現しています。幾重にも重ねたチュールやフリルと美しいドレープで描くロマンチックなドレスや、スパンコールにフェザーを組み合わせたドラマチックなピースなど、華やかなパーティーウエアがそろっています。また、今季は初めてメンズ向けのクチュールもお披露目。先シーズンからクチュールでのメンズ提案が増えていますが、この流れは今後も広がりそうです。

 ショールームのお隣にはギャラリー・ラファイエットのシャンゼリゼ通り店があったので、ちょっと視察に。今は「ポケモン(POKEMON)」の25周年を記念して、ピカチュウだらけになっていました〜。

6日17:00 アレクサンドル ヴォチエ

 お次は、「アレクサンドル ヴォチエ(ALEXANDRE VAUTHIER)」の展示会。公開されたムービーを見ながら移動していたのですが、今季はウエスタンな雰囲気。黒とクリスタル装飾で、クールでグラマラスな世界を描きます。そのストーリーは明快で、フリンジやバンダナモチーフ、大きなバックルのベルト、カウボーイハット、ウエスタンシャツに見られるようなラインなどのデザインが印象的。ギャングスターをイメージしたというスーツや、キャバレーのダンサーをほうふつとさせるフェザーのヘアピースとミニドレスのルックなんかもありました。ただ、展示会の会場ではマネキンではなくハンガーにかかっている状態だったこともあり、服の魅力はあまり伝わってこず。やっぱりモデルが着て動く中で見たいですね。ちなみに、シューズはロック&グラマラスなスタイルで知られるシューズ界のベテラン、ジュゼッペ・ザノッティ(Giuseppe Zanotti)が手掛けています。

6日18:00 ジョルジオ アルマーニ プリヴェ

 本日唯一のリアルショー取材は、「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVE)」。コロナ後の明るい世界への思いを込めて、輝きに満ちたコレクションをイタリア大使館で披露しました。天井や壁に煌びやかな装飾が施された空間を優雅に歩くモデルを見ていて頭に浮んだのは、光がキラキラ反射する水面。光沢のあるシルクやサテン、ベルベットに加え、極細の金属糸を織り込むことで液体のような独特なきらめきを放つ生地を使い、テーマである“シャイン(Shine)”をさまざまな素材で表現しています。序盤は、ブラックやインディゴ、ブルーで描くコンパクトなジャケットとゆったりとしたパンツやロングスカートという「アルマーニ」らしいスタイル。次第に優しいパステルカラーへと移り変わっていくのですが、透けた生地の上にちりばめたクリスタルやスパンコール、ビーズの装飾がとても幻想的。繊細で儚いドレスにうっとりしました。

 ショー後は中庭に出て、アペリティフ。久々に現地在住ファッションジャーナリストの井上エリさんとキャッチアップしていたら、日本が好きだという素敵なマダム(後でパリの写真家キャスリーン・ナウンドルフ(Cathleen Naundorf)さんと発覚)も加わり、シャンパンを片手に話し込んじゃいました。ただ、こういう時間を過ごせるのも、今回のようなゆったりしたスケジュールならではです。いつもならそそくさと会場を後にして、次の取材先に向かうことが多いですから。

6日20:30 シャネル

 ホテルに帰ってからは、残念ながら現場では取材できなかった「シャネル(CHANEL)」を映像でチェック。先シーズンのクチュールも結婚式のような演出でしたが、今季もハッピーで高揚感のある雰囲気は継続です。「私は刺しゅうがあふれ、温かみを感じさせる、とりわけ色彩豊かなコレクションを心から求めていた」とヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)=アーティスティック・ディレクターが話すように、いつも以上にカラフルなコレクションは、会場となったガリエラ宮のアイボリーの背景に映えますね。

 今シーズンの軸となるのは“絵画”で、「黒や白の1880年代スタイルのドレスを身にまとったガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)のポートレートをあらためて目にした時、すぐに絵画が思い浮かんだ」そう。序盤のツイードのコートやスーツの上にはキラキラ輝くスパンコールの装飾をのせ、筆で何度も色を重ねたかのような奥行きを演出。そして、イングリッシュ・ガーデンを思い浮かべたという花のモチーフが、さまざまな刺しゅうでスカートやブラウス、ドレスを彩ります。ショーの最後には、ラストルックで登場したウエディングドレス姿のマーガレット・クアリー(Margaret Qualley)がブーケトス。観客の一人がナイスキャッチし、拍手喝采で幕を閉じました。

 ちなみにショー中盤の音楽が日本語っぽく聞こえるなーと思っていたら、1983年に岩本清顕が発表した「Love Will Tear Us Apart」を、大阪を拠点に活動する2人組ミュージシャンの千紗子と純太が2020年にリワークした楽曲が使われていました。まさか本人たちも「シャネル」のショーに使われるなんて、想像もしていなかったでしょうね〜。

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