ファッション

オランダ「ヴィクター&ロルフ」展で振り返る “ファッション・アーティスト”としての軌跡

 オランダのアーネム芸術アカデミーで出会ったヴィクター・ホスティン(Viktor Horsting)とロルフ・スノラン(Rolf Snoeren)は1992年12月1日、ドローイングを一緒にするところからコラボレーションを始めた。それから25年、2人が探求してきたのは、“ウエアラブル・アート(着用可能なアート)”というコンセプト。その世界観を堪能できる展覧会「ヴィクター&ロルフ:ファッション・アーティストの25年(VIKTOR&ROLF: FASHION ARTISTS 25 YEARS)」が現在、オランダ・ロッテルダムにあるアートスペース、クンストハル(KUNSTHAL)で開催されている(会期は9月30日まで)。

 7月にパリで発表された2018-19年秋冬オートクチュール・コレクションではこれまでの象徴的なピースを白で再解釈して見せたことも記憶に新しいが、同展では過去25年のクチュールとプレタポルテの中から厳選された作品約60点を展示。マドンナのために制作したステージ衣装や、オリジナルを忠実に縮小したウエアを着せた人形なども併せて飾られている。

 会場のエントランスでまず来場者を迎えるのは、2005-06年秋冬プレタポルテ「ベッドタイム・ストーリー」コレクションでラストを飾った枕と布団を組み合わせたようなドレス。そのインパクトのあるデザインは、見る者を一気に「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)」の世界観へといざなう。その後、発表時期とは関係なくいくつかに区切られたスペースに作品が並ぶ。

 中でも見応えがあったのは、1999-2000年秋冬クチュールの「ロシアンドール」コレクション。クチュールとはかけ離れた粗いジュートをシルクサテンと合わせたミニドレスに始まり、徐々にアイテムがクリスタルやレースの装飾で華やかさを増していくコレクションだ。会場には、ホスティンとスノラン自身が1人のモデルに全てのドレスを重ねるように着せていくショーの映像と共に、実際のアイテムが並べられた。

 他にも、アートインスタレーションのような初期のコレクションから、さながらブロードウエイの舞台転換で度肝を抜いた05年春夏プレタポルテの「フラワーボム」、重ねたチュールを部分的に切り取ったようなデザインが印象的だった10年春夏プレタポルテの「カッティングエッジ・クチュール」、ファッションとアートの関係性をダイレクトに表現した15-16年秋冬クチュールの「ウエアラブル・アート」、過去に使用した生地やビンテージウエアを活用することでサステイナブルの概念をクチュールに持ち込んだ16-17年秋冬クチュール「ヴァガボンズ」や17年春夏クチュールの「ブルーバード・オブ・ブロークン・ドリームズ」までのコレクションを間近で見ることができたのは、非常に刺激的だった。

 今回の展覧会は全てのコレクションを網羅しているわけではなく、約60点という作品数は25年を振り返るには少ないようにも感じる。しかし、「25年間の仕事を本当に厳選したものなので、これが正解ではないかもしれないし、これまでの大変な努力の全てが忘れ去られているかもしれないが、懐古的なものではない。われわれにとってこの展覧会はつながりと現代性を感じられるとともに、ある意味タイムレスなもの」だとホスティンは米「WWD」に説明している。実際、それぞれのコレクションに込められたメッセージやその背景にあるストーリーを考えながら鑑賞していると、見終わるまでに約2時間。今でもあせることなく強い存在感を放つアイテムは見応えがあり、ファッションにはやはり夢があると感じさせる展示だった。

順風満帆ではなかった25年

 ただ、印象深いコレクションの数々を生み出してきた「ヴィクター&ロルフ」の25年間の道のりは、けっして順風満帆ではなかったようだ。2人は、1993年に若手の登竜門として知られるイエール国際モード&写真フェスティバルでグランプリなど3賞を受賞し、華々しくデビューした。しかし、会場の説明には「最初の数年、2人の型破りな服へのアプローチは批評家の称賛を得たが、バイヤーやエディターからはほとんど支持されなかった」と書かれており、米「WWD」のインタビューでもホスティンは「ブランド設立当初は本当に厳しく、コレクションを作るためにたくさんの他の“おかしな”仕事もしていた。そこで得た全てをコレクションにつぎ込んでいたから極貧だった」と振り返っている。ファッション業界から支持を得られるようになったのは、1998年にパリで初のクチュールショーを開催してからだったという。

 2000年にプレタポルテに発表の場を移してからは、コンセプチュアルなアイデアとコマーシャルのバランスを探り、02年にはロレアルとフレグランスのライセンス契約を結び、03年にはメンズラインとアイウエアラインをスタートした。その後も、06年には「H&M」とのコラボを行ったり、08年には「ディーゼル(DIESEL)」や「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」などを擁するOTBの傘下に入るなど、ファッションビジネスの世界で生き残るためのさまざまな可能性を模索してきた。ファッションの芸術的な可能性を追求する彼らにとっては、難しい選択も多かったと想像する。

 そして、2013年には念願のクチュール復帰を果たした一方で、クリエイションの源泉であるクチュール・コレクションの制作に力を注ぐために15年にはプレタポルテからの撤退を発表。クチュールに加え、現在もフレグランスのライセンスなどは継続しており、新たにウエディングドレスやイブニングドレスのコレクションもスタートしたが、彼らの手掛ける服に触れる機会があまりなくなってしまったのは残念だ。しかし、ホスティンは「今われわれが目指しているのは、ファッション業界において自分たちが心地よく感じられるとともにクリエイティブ面でも成り立つ仕事の方法を考えることだ。ファッションは一種のコミュニケーション。クチュールはわれわれの仕事の中心だが、クチュールを発表する以上のことをやっていきたい」と語る。“ファッション・アーティスト”として、今後もファッション業界を刺激してくれることを期待したい。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。

最新号紹介

WWD JAPAN

コロナ禍の現地取材で見えた“パリコレ”の価値 2021年春夏コレクション続報

「WWDジャパン」10月19日号は2021年春夏コレクションの続報です。コロナ禍でデジタルシフトが進んだコレクション発表ですが、ミラノとパリではそれぞれ20ブランド前後がリアルショーを開催。誰もがインターネットを通じて同じものを見られる今、リアルショーを開催することにどんな意味があるのか?私たちはリアルショーを情熱の“増幅装置”だと考え、現地取材した全19ブランドにフォーカス。それぞれの演出やクリ…

詳細/購入はこちら