ファッション

「ディオール」がトラヴィス・スコットと描いた広大なアメリカ 美しきアウトサイダーは砂漠を行く

 「ディオール(DIOR)」は、2022年春夏メンズ・コレクションをパリで6月25日に発表した。今シーズンのパリ・メンズ・ファッション・ウイークはデジタルでの発表を選択するブランドが多い中、リアルなショーを開催する同ブランドは目玉といっていいほどの注目の高さである。さらにショー前日には、アメリカ人ラッパーのトラヴィス・スコット(Travis Scott)とのコラボレーションが発表され、世界中で話題となった。

会場に広がる砂漠と花の意味

 ショーは、パリ左岸にあるオテル・デ・ザンヴァリッド(L'hotel des Invalides)に作った特設ス会場で行われた。オスマン建築のパリらしい街並みが広がる光景から一転、会場内は本物の土とバラやサボテンの巨大なインスタレーションが飾られた異空間。これは、創設者クリスチャン・ディオール(Christian Dior)が幼少期に過ごした自宅のバラ園と、スコットが生まれ育ったアメリカ・テキサスのサボテンの庭園をイメージしたもの。創設者のディオールが自身のデビューコレクションを携えて1947年にアメリカへ渡った際、最初に立ち寄ったテキサスに感銘を受けたという。グランドキャニオンと広大な砂漠、アメリカのスピリットについて「人生と自信に対する熱意」という言葉を残している。キム・ジョーンズ(Kim Jones)=メンズ アーティスティック ディレクターは「ディオール」とテキサスのつながりにインスピレーションを得て、友人であるスコットと共に異なる2つの文化の対話を試みたのだ。

強さと美が共存する“カクタス ジャック ディオール”

 今季のコレクションは。スコットのレーベルであるカクタス ジャック(Cactus Jack)にちなんで“カクタス ジャック ディオール”と名付けられた。漆黒のファーストルックが登場した瞬間、この“対話”が成功であることを確信した。テーラードコートの肩のラインはなだらかで、ウエストは緩やかに曲線を描き、コレクションの大半を占めたフレアパンツのシルエットが際立つ。そして胸元に輝くカクタス(サボテン)のきらびやかなブローチや、フランスのボブハットにアメリカのビーニーを融合させた新型のハット、ボリュームのあるスニーカーといった得意のアクセサリーも存在感を放つ。ほかにも身頃の高い位置で留めるジャケット“テイラー オブリーク”をアクティブなショーツと合わせたり、トラックパンツのサイドにはカウボーイ風のゴージャスなゴールドボタンをちりばめたりと、フォーマルとストリートウエアの境界線を軽やかに越えていく。

 Tシャツやスエットを飾るプリントや刺しゅうは、スコットによる手描きのグラフィックをアレンジしたもの。ショー中盤に登場したハンドペイントシャツは、コンテンポラリーアーティストのジョージ・コンド(George Condo)が制作。この作品はショー後にオークションにかけられ、その収益は次世代のクリエイティブな才能をサポートするための奨学金に充てられる。アクセサリーは、ダブル仕様のサドルバッグのほか、1960年代のアーカイブのダイヤモンドモノグラムを配したミニトランクやバックパック、キャッチーなスニーカーやモンクストラップのサンダルなど、豊富なラインアップだ。

 コレクションを彩るモーブやカフェ、ピスタチオ、ペールールブルーといったカラーパレットは、創設者ディオールがテキサスの広大な砂漠から着想を得てオートクチュールに反映させた色彩だ。この淡く美しいトーンが漂わせるエレガンスと、ファッション界と音楽界の新たな道を開拓してきた両者の強さがスタイルを通じて滲み出し、美しきアウトサイダーたちの歩みを想起させるショーだった。

 フィナーレでは、最前列でショーを観覧していたスコットがランウエイに登場してキムと抱き合った。割れんばかりの拍手喝采で会場の熱狂がピークに達し、ショーは閉幕。キムは現職に就任以降、アーティストのカウズ(KAWS)やケニー・シャーフ(Kenny Scharf)らとシーズンごとにコラボレーションを繰り返してきたが、今シーズンもメゾンのコードをさらに拡張させることに成功したといえるだろう。クチュールメゾンの技術を継承するだけでなく、創設者のストーリーをキム自身のライフスタイルと結びつけ、過去の現在の“対話”を通じて現代に蘇らせたのだ。このコレクションは、既存顧客からヒップホップコミュニティーまで、あらゆる客層に響くだろう。創設者ディオールがテキサスを訪れたのは今から74年前――長い時を経て、テキサス出身の前衛的なミュージシャンのアイデンティティーと、パリを代表するクチュールメゾンのヘリテージが融合し、大輪の花を咲かせた。

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