ファッション
連載 新50〜60代“主役世代”に注目

「60代女性を満足させる商品がない」 神下敬子「素敵なあの人」編集長が語る“素敵世代”マーケットの今

有料会員限定記事

 60代からの大人の装いを紹介すべく宝島社が2019年に創刊した月刊誌「素敵なあの人」は、“雑誌離れ”が叫ばれる中でも読者に支持され、発行部数を伸ばしている。好調の理由を「60代女性に着目したことが大きい」と話す神下敬子「素敵なあの人」編集長に、60代(同編集部では“素敵世代”とネーミング)のニーズと消費行動について聞いた。

WWD:創刊のきっかけは?

神下敬子「素敵なあの人」編集長(以下、神下):創刊以前から、60代女性に向けた単発のファッションムックを何度か発売したのですが、軒並み売れ行きがよかったんです。それだけでなく、電話やハガキなどによる読者からの反響がとても大きく、月刊誌として創刊することを決めました。

WWD:60代女性に着目した理由は?

神下:50代向けまでのファッション誌は、既に市場にありました。しかしその上の世代向けとなると、ハイエンドな雑誌か、70代以上に向けた健康雑誌になってしまい、気楽に読めておしゃれや美容の悩みを解決できる雑誌がなかったんです。今の60代は、若い頃から雑誌を読んできた“マニュアル世代”なのに、「60代になったら自分たちのための雑誌がなくなって困っている」という声が多くありました。

WWD:ほかに、創刊へと背中を押した声はある?

神下:もう1つの声として特徴的だったのが、「私たちのための商品がない」という声です。メーカーなど企業の方には、「若い人に目を向けていないとブランドが継続できない」と考えている人が多い。また、商品を企画している人には30~40代が多いので、「シニアってこんな感じでしょ」という思い込みで商品を作ってしまう。そうすると、今の60代は感覚が若いので、自分たちのモノと感じられないんです。この雑誌を作ることで、消費者と企業とのチューニングアップができるような存在になりたいと思いました。

WWD:50代と60代とではニーズが違う?

神下:違いますね。50代は若く、おしゃれに関して言えば普通にヒールが履けるし、体重もダイエットでまだ落とせるんです。でも60代になると足に外反母趾が出てきたり、基礎代謝が落ちてダイエットが難しくなったりと、健康や体型の悩みが深くなるんです。そうなったときに、若い世代向けの雑誌では対応できない。だから「素敵なあの人」では、ファッションと美容、それに健康の3本柱で特集を組んでいます。

WWD:中でも最も注力しているのは?

神下:ファッションですね。ファッションが“あなたたちのための雑誌です”と印象付けるのに分かりやすいんです。ただ、これが“いかにもシニア”といったテイストになってしまうと、読者層から「私たちの情報はないかも」と思われてしまうので気を遣っています。実際、読者には自分に合うファッションに悩んでいる人が多く、「素敵なあの人」を頼ってくれています。一度、「今は自宅にいる時間が長くて外出しないから」と思い、特集をライフスタイルに寄せた号があったのですが、「もっとファッションを見せてほしい」というハガキが多く届きました。また、情報収集のために読者を招待して“お茶会”を開くのですが、ファッションの話を聞くと目を輝かせて話してくれます。

WWD:“お茶会”で出てくるファッションに関する悩みは?

神下:「(60代女性がよく行く)百貨店などで服を買うと“よそ行きの服”ばかりになってしまう」という悩みはよく聞きます。誌面にもよくご登場いただく元ファッション誌の編集長がおっしゃっていたのですが、企画で60代女性の“クローゼット診断”を行うと、“よそ行きの服”でいっぱいになっているケースが多いそうです。そうした服は特徴的なあしらいがあるので何度も着れないし、着回しもきかないので、どんどん増えてしまうんです。今は時代的に、世代関係なくカジュアル化していて、60代女性も日常着の情報を知りたいんです。日常着をコーディネートして、電車で出掛けられるようにアレンジしたい、というニーズが高い。そのため、カジュアル服の着回しなどの企画が大人気です。

WWD:なぜ“よそ行きの服”ばかりになる?

神下:やはり企業サイドに、“昔売れたものから脱却できない”“成功体験から同じような服を作ってしまう”といった体質がまだあるのだと思います。大人向けのブランドなのに、ティーンの外国人モデルを起用しているケースが多いのも、“素敵世代”にしっかりと向き合えていないからだと思います。先ほど「若い人に目を向けていないとブランドが継続できない、と考えている人が多い」と話しましたが、「継続できない」どころか、60代マーケットは未来あふれる市場。今人口の多い40代も、すぐに60代になります。今の40代が「私たちがそこに行けば、こういう素敵な服を着られるんだ」と思えるような市場を作ることが大事だと思うのですが……。

WWD:ビューティに関しては?

神下:メイクアップの“ビフォー&アフター”企画が人気で、常に読者アンケートで1~2位になります。撮影にはコツがあって、ビフォーとアフターで、絶対にライティングは変えないんです。髪型も変えないで、並べて見せる。作り込んだものではなく、“自然体”で見せることが大事で、そのキーワードは登場するモデル選びにも共通しています。創刊直後はモデル事務所からの紹介もあったのですが、立ち姿が“いかにも”という感じのモデルが多く、ちょっと違うかなと。大事なのは自然体で共感してもらうことなので、モデルは“足”で地道に探しました。最初のモデルはスタッフの友人のお母さんで、それから“素敵な人の友だちは素敵”ということで、紹介で増やしていきました。今の60代は「美魔女に見られるのは恥ずかしい」と思っていて、若作りはNG。若返りたいわけではなく、年齢は受け入れていて、「今の年齢で一番素敵になりたい」と考えています。

WWD:ビューティで他の人気企画は?

神下:今の60代には、若い頃にはまだ存在しなかったからか、“美容誌”を読んで来なかった人が多いんです。だから他の世代と比べて美容に関する知識が乏しい。例えば“ビタミンC誘導体”といった成分1つをとっても、どうして肌に良いかが分からないので、“お勉強ページ”を作るとすごく好評で、購入までつながるケースも多いです。逆に、ラグジュアリーな雰囲気だけでキラキラしたぺージを作ったことがあるのですが、反応はイマイチでしたね。

WWD:ほかに60代の特徴は?

神下:下の世代と比べると、情報収集の仕方が違います。50代はネットを使って買い物もできるけれど、60代以上は既婚率の高い“専業主婦世代”で、結婚と同時に仕事を辞めている人が多いため、ネットに触れていない人も少なくない。百貨店で通販企画を行ったとき、同世代の約8割が電話注文だったと聞きました。センスは若々しいけれども、情報収集の面ではハンデも抱えている。でもだからこそ、雑誌に信頼をおいてくれる世代でもあります。

WWD:今後取り組みたいことは?

神下:60代に向けたフェムテック企画です。年齢を重ねるにつれ女性ホルモンが減りますが、症状が出てくるのは60代といわれています。実際、尿漏れや肌の乾燥トラブルに悩んでいる読者がとても多いんです。そうした方が、悩みを解消して、これからの人生をより楽しめるサポートをしていきたいと考えています。

「WWDJAPAN」5月10日号は、「主役世代(50〜60代)特集」。今の50〜60代女性のリアルなニーズや消費行動を探ります。


【「新50〜60代“主役世代”に注目」その他記事】
■「ドゥーズィエム クラス」成長の立役者が実践する、“常識破り”な大人女性向けファッション
■世代別マーケのプロ、伊藤忠ファッションシステムが解説 注目の新50〜60代市場のつかみ方
■ヘア・ネイル・洋服・写真をパッケージで提案 巣鴨のシニア向け美容室に予約殺到!
■バブル期を20代で経験した“スパークリングブーマー”に着目した「ヘレナ ルビンスタイン」
■ハマれば投資を惜しまない! 50~60代おしゃれ女性による“ぶっちゃけ座談会”
■パルの“安心できる50代服”「プラス オトハ」 20年前に赤文字ブームを盛り上げた2人が開始

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

“カワイイ”エボリューション! 2026年春夏ウィメンズリアルトレンド特集

「クワイエット・ラグジュアリー」の静寂を破り、2026年春夏のウィメンズ市場に“カワイイ”が帰ってきました。しかし、大人がいま手に取るべきは、かつての「甘さ」をそのまま繰り返すことではありません。求めているのは、甘さに知性と物語を宿した、進化した“カワイイ”です。「WWDJAPAN」12月15日号は、「“カワイイ”エボリューション!」と題し、来る2026年春夏シーズンのウィメンズリアルトレンドを徹…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。