ファッション

山本寛斎の弟子が渋谷スクランブル交差点で前代未聞のショー 「一歩踏み出す決意表明」

 渋谷からファッションとアートを発信する「渋谷ファッションウイーク2021春」が3月15日に開幕した。31日までの期間中、商業施設や路面店などを活用してアートを展示する回遊型イベントや、街中の壁面にルック画像を貼り付ける企画などを実施する。

 初日には、初参加の「カンサイ ヤマモト(KANSAI YAMAMOTO)」が渋谷スクランブル交差点を舞台とした無観客ショーを配信した。新作とアーカイブで構成したコレクション“TOMORROW”を着用したモデルたちが、深夜の渋谷を闊歩する映像だ。コレクションは、渋谷駅の通路に展示されている岡本太郎の作品「明日の神話」(1968-69年制作)に着想した。

 同ブランドは山本寛斎が他界した昨年7月以降、山本と活動を共にしてきたデザインチームがブランド事業を継続。今回もデザインチームが中心となりコレクションを制作した。ブランドを受け継いだクリエイティブ・ディレクターの1人、高谷健太にファッションウイーク参加の経緯と同コレクションに込めた思いを聞いた。(記事最後でコレクション動画を視聴可能)

師匠の言葉に突き動かれた
前代未聞への挑戦

WWD:渋谷ファッションウイークへの参加を決めた経緯は?

高谷健太クリエイティブディレクター(以下、高谷):渋谷ファッションウイークを運営する東急さんからのオファーがきっかけだ。昨年手掛けた「渋谷スクランブルスクエア」のクリスマスツリーの演出も評価してもらい、「目玉企画のランウエイショーをぜひお願いしたい」と熱い依頼を受けた。われわれは「誰もやったことのないことにチャレンジすること」と「世の中に元気を届けること」を目指し、企画を実施してきた。コロナでネガティブなイメージさえ生まれる渋谷をもっと元気にしたいと、ファッション・ウイークへの参加を決めた。

WWD:今回のランウエイの演出の肝は?

高谷:渋谷スクランブル交差点というロケーションだ。オファーを受けた翌日、800枚以上の写真を撮りながら渋谷を歩き回り、あらゆる場所で街のエネルギーをもらった。セルリアンタワーには能楽堂があり、文化村ではオペラ鑑賞ができる。その中間には欲望渦巻く円山町が位置する。形状は起伏に富み、谷底の交差点で人と文化が自然と重なり合う。渋谷を象徴する交差点でやりたいと思うのは自然な流れだった。通常なら撮影許可が下りない場所だが、多くの人に協力いただき、撮影にこぎつけることができた。本当に感謝している。

WWD:ルックの半分をアーカイブから選出した意図は?

高谷:アーカイブと新作は、いわば過去と未来。新たな一歩を踏み出す“決意表明”のようなコレクションにしたかった。アーカイブは、ファッション・ウイークのテーマ“CROSS OVER”を意識し、チベット密教の柄からロシアのイコン画の刺しゅう、インドの刺し子、江戸時代のボロなど、時代と場所を超越したモチーフのアイテムを選んだ。新作は、第五福竜丸(“明日の神話”に描かれた船)に着想した竜や渋谷の写真をコラージュしたグラフィック、街中の落書きをイメージしたタギング、明治神宮に咲く花菖蒲の柄など、自分たちが渋谷の街で発見したエネルギーあふれるモチーフを散りばめた。デザイン構想に時間をかけた分、服作りは2~3週間の突貫工事。でも、だからこそぜい肉がそぎ落とされ、純度の高いクリエイションになった。

WWD:寛斎さんのデザインをどのように受け継いでいく?

高谷:寛斎のクリエイションは継承できるものではないと考えている。生前「あなたは私になれないし、私はあなたになれない」と言っていた。これが全てだ。ただ、僕は寛斎と23年一緒に動いてきたし、他のクリエイティブ・ディレクターも同じくらいの時間を共にしてきた。意識せずとも、寛斎に似た部分がにじむだろう。

WWD:寛斎さんとの思い出は?一番刺激を受けた言葉は?

高谷:「苦しくても前へ前へ」というメッセージ。あとは、「人が財産」という言葉だ。寛斎が亡くなっても絶えず仕事の依頼が舞い込んでくるのは、彼から刺激を受け、面白いと感じてくれた人がいるから。今回のショーも「寛斎さんのためなら」と、モデルや関係者が手弁当で作り上げたものだ。「何事も最後は人なのだ」と痛感している。思い出はたくさんありすぎて、どれを言えば良いかわからない(笑)。最後に同行した海外出張は、2019年10月に訪れたスコットランド・ダンディだった。そこには隈研吾さんが設計した博物館ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム ダンディ(V&A Dundee)があり、「ここで来年ショーをやるぞ」と意気込んでいた。コロナによる渡航規制も重なり、寛斎の生前でのショーはついに叶わなかったが、われわれが必ず実現してみせる。彼の意志が消えることはない。

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