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「クリスチャン ディオール」2015-16年秋冬オートクチュール・コレクション

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エロチックな禁断の果実が転がる“ディオールの庭”

限りなくアートに近い服。ラフ・シモンズが「クリスチャン ディオール」の、特にオートクチュール・コレクションの中で一貫して追求しているその方向性は、今季もクリアだ。ロダン美術館の中庭に建てたテントは、透明のパネルで覆われ、一枚一枚に無数の点が手描きされていた。インスピレーション源の一つは、フランドル地方の絵画の巨匠たち。フランドル地方は、ラフの故郷ベルギーとフランスの間に位置するエリアである。また会場内では、妖艶な紫色のランウエイに赤やピンクに塗った椰子の実が無造作に転がっていた。フランドルの画家たちもたびたび題材に選んだ「禁断の果実」のイメージだ。

白地に淡いブルーやグリーンなど、抽象画風プリントに見える生地の多くは、一点一点筆で描かれたもの。いわば着る点描画だ。淡い色彩は遠目には優しくロマンティックだが、近くで手に取り、コツコツとした作業の上に成り立つ一点物であることを知ると、その印象は凄みに変わる。フワフワ揺れる無垢なフレアドレスやシンプルなテーラードコートなだけに、そのギャップに驚かされ、こだわりが狂気にも見えてくる。

床まで届くマキシ丈のスカートやマント風コート、首元の詰まったフレアドレスや極太のパンツなどで肌の露出は少なく、肌が透けるシルクシフォンのドレスやブラウスにはニットのベストを合わせて胸を覆う。前身頃をつかみ、胸を隠すようなモデルの仕草が禁欲的な印象を助長する。ただし、前から見れば露出が少なくとも背中は大きく開いていたり、肌が見えそうで見えないカッティングであったりと、“隠す”と“見せる”のギャップは随所に見られる。「純真や無垢と、ラグジュアリーやデカダンス。その両極のイメージを“ディオールの庭”に閉じ込めた」とラフ・シモンズは言う。

パリのメゾンを手がけるデザイナーにとって、セクシーの表現は避けては通れない必須課題のようなもの。セクシーをどう解釈し、ブランドの世界観につなげるかが腕の見せ所であり、その力量が計られる物差しでもある。

ラフ・シモンズは2015-16秋冬プレタポルテで、アニマルプリントやロックテイストを通じて「ディオール」ウーマンのワイルド&セクシーな一面を表現したが、それは決してラフが得意とするアプローチではなかった。「ジル・サンダー」時代もそうであったように、ラフが得意とするのは女性の純真さに光を当て、そこから官能的な表現へとつなげるアプローチだ。ピュアネスやミステリアスといった言葉が服と重なり、アートの要素が加わったとき、コレクションは高い完成度を見せてきた。そういった意味で今季の「クリスチャン ディオール」は、ラフ流の“セクシー”が花開いた内容と言えるだろう。そして、あけすけな“セクシー”を得意としない日本の女性にとって親しみやいスタイルでもある。

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