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イケアの「カタログ廃止」と三陽商会の「カタログ発行」 エディターズレター(2020年12月14日配信分)

※この記事は2020年12月14日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

イケアの「カタログ廃止」と三陽商会の「カタログ発行」

 スウェーデンのイケアが紙のカタログの発行をやめると発表しました。今後はデジタルに一本化するそうです。

 私は自宅がイケアの日本1号店であるTOKYO-BAY店(千葉県船橋市)にわりと近いため、一時期は郵便受けにカタログがポスティングされていました。家具やインテリアのコーディネート例が豊富で、ぱらぱらめくるのが楽しかった。カタログで見た商品を買いに行ったこともあります。イケアが日本でネット通販を始めたのは2017年。けっこう最近なのです。

 イケアのカタログは70年もの歴史があり、ピーク時の16年には32カ国で2億部以上を発行していました。報道によると、聖書やコーラン、「ハリーポッター」シリーズと比較されるほどの印刷部数だったとか。さすが売上高4兆円以上の巨大企業。単独ブランドのカタログとしてはおそらく世界最大だと思われます。イケアはカタログも大事な商品と位置づけ、スウェーデンには大規模な自社スタジオを設けていました。

 徐々に減らしていたとはいえ、これだけの印刷物をやめるのは大きな決断です。日本でも昨年、女性下着のピーチ・ジョンが紙のカタログから撤退しました。かつて季節の変わり目になるとコンビニや書店にピーチ・ジョンをはじめとした通販カタログが山積みになっていた時代もありましたが、今はあまり見かけなくなりました。

 ただ、カタログ廃止とは異なる動きもあるようです。

 イケアのカタログ撤退の発表の前日、三陽商会のニュースリリースに目が止まりました。婦人服「エヴェックス バイ クリツィア」で、電話注文できるファッションマガジンを発行したとの発表でした。

 コロナ下でのテストマーケティングとして、A4版12ページの印刷物を各エリアの店舗から顧客に配布したそうです。雑誌風のカタログはモデルを使ったコーディネート例だけでなく、素材や手入れの方法など商品内容をわかりやすく掲載し、人出の多い百貨店への外出を控えている顧客にアピールするものです。

 気に入った服があればQRコードから三陽商会のオンラインサイトに移動することができる。なじみの販売員から詳しく説明やアドバイスを受けたい場合には、店舗に電話をかけてそこから注文することもできる。クレジット決済に抵抗のある人には、現金による引換発送も行う。顧客の選択肢を増やしているのがポイントです。

 同ブランドには高齢の顧客も少なくありません。EC販売も三陽商会の他のブランドに比べて伸び悩んでいました。外出は控えたいけど、ECは使いづらいと考えている顧客に届ける方法はないものか。その一つの答えがカタログとなじみの販売員への電話注文でした。コールセンターで受け付けるよりも、顔見知りの販売員を通じて買い物をしたいといった要望に応えつつ、店舗の販売員のモチベーションも高めるやり方です。顧客からは「EC購入は難しそうと思っていたが、購入方法も商品内容も分かりやすい」「久しぶりに買い物ができて気分転換になった」との声が寄せられているそうです。

 大事なのは紙かデジタルかの二択ではなく、顧客の選択肢を増やして満足度を高めることだと気づかせてくれる事例です。

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