ファッション

目指すのは“現代のコーヒーハウス” 「美味しいコーヒー」に魅せられたバリスタのあくなき挑戦

 17世紀半ばにイギリスで生まれた文化、コーヒーハウス。そこにはさまざまな階級や職業の人々が集まって議論を交わし、社会にも大きな影響を及ぼしたという。そんなコーヒーハウスの現代版を目指すのが、コーヒーの福利厚生サービス「ワーク(WORC)」だ。契約を結んだ法人のオフィスや従業員の自宅へ、手軽に美味しく飲めるコーヒーを毎日、日替わりで届ける仕組みを取っている。同サービスを始めたのは、吉祥寺や下北沢、渋谷PARCOに店舗を構えるコーヒー店「ライトアップコーヒー(LIGHT UP COFFEE)」のオーナー、川野優馬氏だ。カフェのオーナーはなぜ、対法人用のコーヒーサービスを始め、これからどのようにして“現代のコーヒーハウス”を作り上げるつもりなのか。川野氏に話を聞いた。

 「ワーク」スタートの理由は、2014年の「ライトアップコーヒー」創業にまで遡る。当時、川野氏は大学生。大手チェーンのカフェでアルバイトをしていた。「正直、当時は『コーヒーって苦いものなんだな』と思っていて、牛乳とかを入れないと飲めなかったんです。だからラテは好きだったんですけど、ブラックは苦手でした」と当時を振り返る。そんな彼の考えを変えたのが、趣味のカフェ巡りで見つけた一杯だ。「最初にラテを頼んだら、今まで飲んできたラテと全然味が違ったんです。なんだこれ?と驚いて、試しにブラックも頼んでみたら、全然苦くなく、むしろフルーティな味で美味しい。いろいろなカフェを巡っているうちに、そういったお店が何軒かありました。気になってスタッフの方達に話を聞いて行くうちに、僕も美味しいコーヒーを自分で作ってみたいと思うようになりました」。

 そこで川野氏はすぐに銀行で融資を受け、焙煎機を購入。ウェブショップを開設し、コーヒー豆を売り始める。さらには大学の長期休暇を利用して、自分で焼いた豆を持って、海外へ渡航。ノルウェーやロンドンに趣き、現地のコーヒーショップの店長らに試飲してもらってフィードバックを得つつ、コーヒービジネスの実態を知っていく。「もともと、飲食のビジネスには興味を持っていたのと同時に、自分が儲けた分、誰かが悲しむ商売はしたくないとも思っていました。そんな中で、生産者が頑張って作った美味しいコーヒーを提供すれば飲む人は喜んでくれるし、飲む人を増やせば流通量が増え、生産者にもお金が回る仕組みが作れる。ビジネスとしてやりがいを感じました」と川野氏。

 そうして川野氏は14年に、「ライトアップコーヒー」の1号店を吉祥寺にオープン。「美味しいコーヒーをより多くの人に届け、知ってもらいたい」という考えのもと、「飲み比べセット」といった独特なメニューの提供や、セミナーなどのイベントも実施。顧客を順調に獲得していき現在、3店舗を構えるまでになった。一見順調そうに見えるが、川野氏の中には焦りがあったという。「より多くの人に届けるためには、コーヒーを飲む機会が多いであろう、ビジネスマンたちにも訴求する必要がありました。でも、仕事で忙しくてカフェに行けない人も多い。その矛盾をどう解決するのかが、僕の中での課題でした」。

「ワーク」始動もコロナ禍に 対策は?

 川野氏のそんな思いから、「ワーク」はスタート。19年10月1日に法人化し、3000万円の資金調達を行なった。当初は注ぐだけで美味しいコーヒーが飲めるポットを導入先の企業へ毎日配達。導入先とはスラック(Slack)も連携し、お届け方法からコーヒー関連の情報、採用イベントとの協業に関する連絡までを行っている。「会社の中にコーヒーショップを作っているような感覚ですね。スラックの連携や、注ぐだけで簡単にコーヒーを楽しめるようにすることで、かつてのコーヒーハウスのように、気軽にさまざまな人が集まったり、会話をしたりする環境を整えたいと考えています」。簡単にコーヒーが飲める点や、味の点などで人気を博し、サービスローンチ後の初速は順調。当面は導入企業数3000社を目標にしつつ、配送拠点兼店舗をビジネス街へ出すことも視野に入れているという。

 しかし現在、予期せぬ事態が発生している。新型コロナウイルスだ。企業のテレワーク推進が進み、さまざまな面が不透明になった。導入先からも、「テレワークになるため配送は一旦ストップしてほしい」といった申し出があったという。そんな中で同社が始めたのが、「おうち福利厚生」だ。バリスタが抽出したエスプレッソを急速冷凍した“エスプレッソキューブ”や“コーヒーバッグ”を、契約先のオフィスはもちろん、従業員への自宅にまで届けるプランを新たにスタートした。「ワインと同じように、誰もが美味しいコーヒーを飲める・知っている状態にしたいんです。そのために、『ワーク』としても、『ライトアップコーヒー』としても美味しいコーヒーを楽しめる場所を圧倒的に増やしていきたい。コロナ禍で始めた施策も、冷凍や真空化などは基本的な技術の組み合わせですが、美味しい体験を作るための工夫。僕にはカフェやコーヒー農園を手がけ、研究してきた中で生み出してきた“美味しさ”には絶対的な自信がある。これからも多くの人に美味しいコーヒーを届けられるよう、努力を続けて行くつもりです」。

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