ファッション

店舗販売員がデジタル上で月8000万円売る時代 「スタッフスタート」を活用した売り方の一歩先

 コロナ禍で店舗が休業を余儀なくされていたとき、販売員はどう過ごしていたのだろうか?――「自宅からでも販売員が『スタッフスタート(STAFF START)』を活用して商品を販売できていたかどうかで、その店舗の、引いてはブランドや企業の売り上げには大きく差が出ていた」と話すのは、実店舗の販売スタッフのオムニチャネル化を推進するアプリケーションサービス、「スタッフスタート」を運営するバニッシュ・スタンダードの小野里寧晃社長だ。

 “販売スタッフのオムニチャネル化”とはどういうことかというと、販売スタッフが着用したコーディネート写真をブランドのECサイトや各個人のインスタグラムなどのSNSに投稿するというもの。商品の下げ札に付いているバーコードを読み取るだけで、投稿写真に簡単に商品情報をひも付けることができ、購入につなげられる。ポイントとなるのは商品が売れた場合、売り上げの数パーセントがインセンティブ(成果報酬)として給与に加算されるのと同時に、その販売スタッフが所属する店舗の売り上げとして計上されるということだ。インセンティブのパーセンテージは、契約するブランドや企業によっても異なるが、最大で7%で設定しているところもあるという(一部、インセンティブを設けていない導入ブランドもある)。2020年4月にはこの「スタッフスタート」の評価システムが特許を取得した。

 現在、導入ブランド数は800を超え、「スタッフスタート」を活用して月額売り上げ最高約8000万円を記録する販売スタッフも出てきた。1回の投稿における売り上げ最高額は約600万円。コロナ禍で店舗が閉まっていた際には、自宅に商品を発送してコーディネートを投稿することで、ECの売り上げを伸ばしたブランドもあった。コーディネート写真の投稿数はコロナ前後比(19年11月から2020年1月と、20年2月から4月の各3カ月)で、284%に増加。同時に「スタッフスタート」経由の商品売り上げもほぼ2倍になった。

 16年9月にサービスをスタートして以降、「スタッフスタート」の導入数は年々増え、19年1~12月の「スタッフスタート」経由の流通総額は前年同期比3倍の約412億円。アダストリア、オンワードホールディングス、ベイクルーズ、フリークスストア、パルなど大手アパレルやセレクトショップを中心に導入されている。年内1000億円も視野にはいってきた。

 小野里社長は、「かつては実店舗とECサイトの在庫を一元化して、より実店舗に近いECサイトを作ろうとしていました。でも実際のところは、数億円かけて一元化しても店舗の販売員がECでの売り上げになることを嫌がり、ECサイトへの誘導をとめていた。そこで気づいたのは、『評価のオムニチャネル化』が重要であり、それが本当の意味での店舗とデジタルの一体化につながるということ。コロナ禍でさまざまなことがスピードアップし、販売員は店舗だけではなくデジタル上でも販売することで、本当の意味でのウェブとリアルの融合に近づいたのだと思います。同時にこのコロナ禍でも自宅で販売できたため、雇用を維持することにもつながった」と話す。

 この「スタッフスタート」が特徴的なのは、売り上げ上位者ランキングや自分の順位がスマホでいつでも確認できることだ。「これによってモチベーションにもつながる。面白いのは、都心のショップスタッフより地方のスタッフの方が上位にいることが多いということです。というのも、トラフィックの多い都心の駅周辺の店などは次から次へと来店する顧客に随時対応しなければならず、一方、地方ではゆっくり接客できるので、その合間に『スタッフスタート』を活用して売り上げを伸ばすことができるのです」。地域性やトラフィックの多い少ないにかかわらず、自分の努力次第で結果が出せるというわけだ。「また自分の投稿によって売れた場合、プッシュ通知が来るようになっているためうれしくなる。上からの指示命令でなく能動的に動けるようになる」と小野里社長。売り上げの効果測定にかんしては、コーディネートなどのデジタル接客のみならず、SNSからの集客や売り上げ、店頭でのQRメモ経由(店頭で顧客が気に入った商品をQRコードに変換し、顧客のスマホへECサイトの商品URLを案内すること)の売り上げ全てが計測できるようになっている。

 では、実際に売り上げ上位ランキングのトップにいる人たちは、ほかの販売スタッフと比べて何かが秀でているのだろうか。「実はいたって普通の人たちです(笑)。キーワードは“共感”。消費者は実際に試着できない場合、なおさら自分の体形に合った人を探すので、ぽっちゃりしている人でも、コンプレックスがある人でも売れる。同じように悩んでいる人がいるのですから」と小野里社長。

事前に売れるかどうかを販売員が予想する“目利き”機能

 小野里社長から見た今のアパレル業界の課題は何だろうか。「なんといっても在庫問題。販売スタッフを起点としてアパレル業界をよくしていきたい。そこで“バイヤー機能”と“商品偏差値機能”を設けた。“バイヤー機能”とは、サンプル品を販売スタッフが売れそうか、売れなそうかをジャッジするというもので、スマホ上で簡単に評価できる。普段、顧客と一番接点の多い彼らの意見はAIよりも確かなのでは。これにより、発注の量を調整することで在庫ロスを少なくすることに貢献できるし、販売員にとっても“目利き”として評価されれば、その後のMD(マーチャンダイジング)などへのキャリアパスにつながるかもしれない」。

 一方、“商品偏差値機能”は、セールになっても売れない、つまり評価の低い商品を積極的にコーディネートに取り入れて投稿して売れた場合、販売スタッフのインセンティブも高くなるという仕組みだ。「食べログに例えると、よく売れる商品は4.5、セールになっても売れないものは2.5のように評価で分けることによって、販売スタッフが売りやすい商品ばかりを投稿することも少なくなります。商品を生産する前の“バイヤー機能”と販売後の“商品偏差値機能”により、できるだけ在庫の適正化を図れるようにしたい。“バイヤー機能”はすでに実装しており、“商品偏差値機能”は秋にスタートさせる予定」だという。

 コロナ禍では、ショップスタッフがライブコマースで商品を販売するブランドや企業も一気に増えた。ライブコマースの可能性をどう見ているのか。「動画は“過程や工程”を見せるのに有効なため、個人的にはコスメやトレーニングといった分野は動画で見せたほうが効果的で相性がよいと思っています。ただ、ファッションに関してはライブ動画にする必要性はあまり感じていません。くるっと回って服の後ろを見せたい場合はいいかもしれないですが、あえて時間拘束のあるライブにしなくてもよいのでは。“販売員のインフルエンサー化”でいえば、現在は圧倒的にインスタグラムが多いですが、ツイッターやユーチューブ、LINEの公式アカウントでも販売できるので、個々のキャラクターに合った売り方ができています」。

ファッション以外でも販売スタッフが評価されるように

 最近ではファッションのみならず、化粧品業界で初めてコーセーが「メゾン コーセー」で「スタッフスタート」を導入し、美容部員のメイクやスキンケア商品の紹介画像をサイトにアップしている。「今後は、ファッション、ビューティのみならず、ウエディング、美容室、書店、家電、ドラッグストア、ネイルサロン、ヨガ、ボディーメイクやトレーニングといった分野にも拡大させたいと考えています。例えば結婚式場でいうと、ブライダルプランナーがおすすめプランを投稿し、予約が成立すればその人の評価になるというもの」と小野里社長。

 今後は投稿場所を増やすべく、自社ECや個人のSNS以外にも、大手モールとの提携も進んでいる。現在では三井不動産が展開するECサイト「三井ショッピングパーク アンドモール(&mall)」上にも、そのブランドがテナントとして入っている場合、コーディネートを投稿できるようになっている。さらには今年2月に「メルカリ」ともコンテンツ提携し、メルカリ内のコーディネートから服を探す“コーデ機能”において、コーディネート画像から直接アパレル企業の自社ECサイトに移動できるようになった。

 「われわれは“ファッションテック”企業ではなく“スタッフテック”。常に販売起点でビジネスを考えています。“店舗をなくしちゃいけない、なくさせない、雇用も守る”――それが合言葉。これからも誰もやったことのないサービスを提案していきたい」と小野里社長。その考えのルーツとなるものは何なのか。「それはやっぱり人が好きで、販売員が好きだからなのだと思います。音楽でもファッションでも『自分が信じた好き』を信じ続けている人が諦めなくてよいようにサポートしていきたい。そして実際に商品を見たいし、行きたいし、感じたい。リアル、サイコーです(笑)」。

最新号紹介

WWD JAPAN

「セレクトショップ特集2020」今、ファッションビジネスに必要なことは?目から鱗のユニークなアイデアが満載

「WWDジャパン」11月23日号は、約1年ぶりとなる「セレクトショップ」特集です。今年は“ウィズコロナ時代にセレクトショップに必要なこと”をテーマに、ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)、ベイクルーズ(BAYCREW’S)、ビームス(BEAMS)、アーバンリサーチ(URBAN RESEARCH)、デイトナ・インターナショナル(DAYTONA INTERNATIONAL)、バーニーズ …

詳細/購入はこちら