ファッション

中国の有望株「エンジェル チェン」 ミラノコレを断念した後に実現したバーチャルショーの手応えは?

 上海を拠点にする「エンジェル チェン(ANGEL CHEN)」は、セント・マーチン美術大学(Central Saint Martins)で学んだ中国人デザイナーのエンジェル・チェン(Angel Chen)が2014年に立ち上げたブランドだ。現在中国内外に50アカウント以上の卸先を持つほか、「H&M」や「M・A・C」とのコラボレーションも手掛け、最近ではネットフリックス(NETFLIX)の番組「ネクスト・イン・ファッション(NEXT IN FASHION)」に出演するなど認知度を高めている。

 そんな国際的な活躍を目指す彼女は、17年からミラノやニューヨークのファッション・ウイークでコレクションを発表してきた。しかし、2020-21年秋冬シーズンは中国内での新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日時も会場も決まっていたミラノコレでのショーを断念。すぐにデジタルへと方向転換し、3月末にオンラインで開催された上海ファッション・ウイークでのバーチャル・ランウエイショーを実現した。準備期間は1カ月ほどしかなかったが、「ミラノでの発表を諦めたとき、すでにショーのためにCGポスターは完成していたし、私のテーマと今季の着想源であるアニメ映画『アキラ』のドラマチックで未来的なコンセプトはバーチャルでの表現にぴったりだと感じた。そこからすぐに監督やCGチーム、撮影チームを集め、実現に向けた話し合いをスタート。時間が限られていたので皆にとって大きな挑戦だったけれど、やってみる価値はあると思い進めた。私自身、もともとテクノロジーを取り入れるのが好きだし、すでにプロモーションのためにオンラインツールの新たな使い方やデジタルの可能性を探求していたこともあり、方向性を決めてからのプロセスは明確だった」と振り返る。

 渡航制限や外出自粛の状況下で最も困難だったのはキャスティングだった。「国外から来た場合は自宅やホテルに14日間待機しなければならず、中国人でも故郷や他の都市にいて上海に来ることができないモデルが多かった」というが、最終的になんとか上海にいた4人のモデルを起用。仕上がったコレクションを着せ、スタジオでクロマキー合成のための撮影を行った。そこに“夜の無人の闘技場”や“大爆発に巻き込まれる街”“柔らかな色合いで描かれた広い大地”などCGで制作した5つのシーンを組み合わせることで、現実にはあり得ないような空間の中での6分弱のショー映像が完成。異なるアングルやスローモーションを織り交ぜ、ダイナミックに仕上げた。

 ショーは、アリババ(ALIBABA)が運営する「Tモール(T MALL)」のライブコマース・プラットフォームとブランドのインスタグラムなどSNSで配信した。延べ3万5000人以上が視聴したというアリババでの配信では、「観客とより親密につながるため、与えられた1時間の中でショーの映像だけでなく、『M・A・C』のアーティストを招いてメイクについて語ってもらうなどバックステージを見せるようなコンテンツも用意」するなど、単調にならないように工夫。またライブコマース機能を生かし、一般消費者向けにオンシーズン(20年春夏)商品の販売も行った。一方、バイヤー向けにはショールームから直接ビデオでセールスを行ったほか、ライブ配信中にもリアルタイムで質問に答え、その後オーダーを受ける態勢を整えた。

 バーチャルショーを終えた今、物理的なコレクション発表に対する考えを尋ねると、「現在のような状況下では、バーチャルショーとライブ配信は、ブランドと観客を結びつけるいい方法だと考えている。ただコレクションは、スクリーン上だけではなく、実際に動く服を生で見たり生地に触れたりすることで伝わるもの。なので、デジタル技術だけに頼るわけにはいかない」とチェン=デザイナー。「世界の状況がよくなった後、ライブ配信やCG、VRなどを組み合わせた物理的なショーは、より完成度の高いものになると信じている」と話す。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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