「WWDジャパン」4月6日号は毎年恒例の新入社員向け特集だ。今年はファッション基礎知識や業界マップだけでなく、アパレル企業で実際に活躍する若手社員にもフォーカス。人気SPAから総合アパレル、最大手ECまで全8社の若手を取材し、彼・彼女たちのリアルな仕事ぶりに迫った。ウェブではその一部を連載形式で掲載する。第3回はワールド編をお届け。
ワールドが2018年3月にスタートした、同社のティーン向けブランド「ピンクラテ」の名を冠したユーチューブチャンネル「ピンクラテ ティービィー」は現在、チャンネル登録者6万人を超える人気番組に成長した。流行りの音楽にあわせ、ティーンモデルがダンスを踊る動画番組では、コメント欄は「超かわいい」「めっちゃ上手」といった100件以上の書き込みであふれる。番組をプロデュースするのが、入社5年目でデジタルマーケティングラボ所属の松本千広さん(26)だ。
同チャンネルの発足は18年3月。番組の企画立案から構成、キャスティング、撮影までが松本さんの仕事だ。番組内容は「スマホなしで待ち合わせ」「1日OL 体験」など。着ている服ではなく、あくまでモデルが主役の“コト”が中心なのは「視聴者は服への興味ではなくモデルへのあこがれで観てくれている」からだ。
有名ユーチューバーの番組において離脱率(視聴者全体のうち、番組途中で視聴をやめる人の割合)が平均70%とされる中、「ピンクラテ ティービィー」は50%代。自身もお姉さん役の「ぴてぃーさん」として番組に出演する。「キャストはまだ小中学生。質問や提案などを投げ掛けることで、(番組が)単調にならないよう、制作側も工夫する」。番組の外では、インスタでモデルや服のかっこよさを見せ、撮影の舞台裏をツイッターでつぶやくなどファンを飽きさせない。
同じオフィスの従業員と全く違う働き方をしているため、「自分がアパレル企業で働いていることを忘れる」と笑う。そもそもアパレル業界志望ではなかった松本さん。ワールド入社を選んだのは「表参道にオフィスがあるという、単なるミーハー心」から。学生時代は企業ブランディングを学び、広告代理店への就職を考えていた。だが、SNSの発達やユーチューバーなどの台頭が、その考えを変えることになる。「これまではあらゆる発信の担い手がマスコミだったけれど、思いを持った企業や個人が主役になる時代が来ると思った。だから企業の熱意や価値を、内側から発信できる仕事を選びました」。
実現のチャンスは、3年目(18年)にしてつかんだ。社内ではSNSを使った宣伝販促強化の動きが出始めたが、「遅いよ、と思いました。すでに流れは動画だし、ちゅうちょしていたら乗り遅れる」。動画メディアのスタートを、ピンクラテの上層部に直談判した。「同時に私が問題意識を持っていたのが、“ティーン向けメディアの空白化”でした。今の小中学生にとっては、『ジッパー』が廃刊になり『ニコラ』くらいしかファッション雑誌がない。ティーンモデルたちも仕事が少なくなる一方。そこで『ピンクラテ』のブランディングと市場の活性化を主眼に、モデルたちも輝けるような動画のプラットフォームを作ろうと提案しました」。
番組のファンからは連日、色鉛筆やペンでデザインした手作り感満載の手紙がオフィスに届く。「ぴてぃーさん」宛のファンレターは宝物だ。「私はこれから、番組を通じて小さな“神”をたくさんプロデュースしたいんです」と松本さんは目を輝かせる。“神”の代表的な例が、インフルエンサーのけみおという。「今は誰でも有名になれるチャンスがあるけれど、ブログが人気だったころの『人気ブロガー』みたいに、人が表舞台から儚く消えてしまう時代でもある。けみおさんは、インスタグラマーでもなくティックトッカーでもない。“何者でもない”けど存在感があるから生き残れる」。
先の時代を見据え、「ピンクラテ」と出演モデルを「ユーチューブの中だけで終わらせない」ことが目標だ。「もちろん私も、『ワールドの松本』で終わりません。肩書がなくても価値がある人間になるため、会社を超えてさまざまなことにチャレンジします」。