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グランドスタッフからアパレルへ 前職の「同僚もお客さま」が導くスーパー販売員への道 ラグナムーン仮屋麻衣

 15年以上ショップスタッフ取材をしていると色んな職歴の人に出会う。元歯科助手、元ホテルマン、元保育士などなど、キャリアの描き方は様々だ。今回インタビューしたマークスタイラーの「ラグナムーン(LAGUNAMOON)」エリアマネージャーリーダーを務める仮屋麻衣さんもその一人だ。空港のグランドスタッフからショップスタッフへ転身した。人々の安全輸送に関わる空港のグランドスタッフには、高いサービススキルが求められる。アパレルの販売職との共通項やスキルの伸ばし方、サービスの本質などについて聞いた。

―空港のグランドスタッフとして働きたいと思った理由は?

仮屋麻衣さん(以下、仮屋): 高校時代から飛行機そのものや、空港の雰囲気と空間が好きだったんです。

―空港の雰囲気というのは?

仮屋:いろんな人が、いろんな思いを持って過ごしている雰囲気が好きで、いつのころからか空港で働くことに憧れるようになりました。毎日いろんな方と触れあって、毎日が刺激的で新鮮だろうな、と。そういう変化が好きなんです。

―その点では今のファッション販売職と一緒ですね。

仮屋:そうなんです!扱っている商品が空港は“飛行機に乗ること”とそれに付随するサービス、ファッションは“洋服”やそれに付随するコーディネート提案をするというだけで、航空業界とアパレル業界は全く違うようでいて、お客さまが希望するものを提供するという一貫性は変わりません。それに高校時代にもう一つ考えていた職業がショップスタッフでした。好きなものが「飛行機」「空港」「ファッション」の3軸あり、その中からまずは航空業界を選びました。

―実際にファッション業界へ入ってみていかがでしたか?航空系の専門学校や前職の経験は生きましたか?

仮屋:はい。専門学校でトレーニングした表情や所作、言葉使い、会話など。中でもお客さまの表情を読み取って、機転を利かして行動するという点は、とても生かされています。

―いろんな方が訪れる場所だからこそ、学校でそんなトレーニングもするんですね。接客力があるショップスタッフに話をうかがうと「表情を読み取る」ことが大切とよく言います。ですが、それを後進に伝えるのが難しいと…。

仮屋:実際にスタッフ育成に携わっていると、確かにそれを感覚として伝えることは難しいと感じています。専門学校ではグループトレーニングで同じグループ内の人の変化に気づけるかといったトレーニングが日頃からありました。航空会社へ入社後、お金を払ってくださる人だけがお客さまではなく、社内のスタッフでも業務を通じて会社に貢献するお客さまである、という意識が浸透していたので、お客さまだけでなく一緒に働くスタッフに対しても表情を読み取って、相手の求めていることを汲み取って仕事していました。

お客さまの場合は接客のひと時だけ接することになりますが、スタッフは常に一緒にいる仲間。その仲間にして、表情を読み取り手助けできなければ、一瞬しか出会わないお客さまに対しても同じことはできない。今はスタッフたちにそう伝えています。

同じお店で働くスタッフに「大変そうだから手伝おうとか」、表情が曇っていれば「体調が悪いの?」と一声かける気づきがあってこそ、それがサービスにも直結していくと教えています。

―確かにいつも一緒に働くスタッフにも気づけないなら、一瞬しか接しないお客さまの表情の機微に気が付けるか?ということですね。やはり、表情を読み取るには日ごろの訓練が必要ですか?

仮屋:表情が読み取れないという場合は、チェックする視点が体得できていない可能性が大いにあります。ここを見ると良いという感覚を掴み、体感して覚えていくといいのですが、その感覚を教えるのが難しい。これはスタッフ自身に実感してもらうしかないです。

自分自身が気づく前に、誰かが先回りして動いてくれていると嬉しいですよね。反対に自分が気づいたら率先して手伝う。その積み重ねです。気づきのある環境で「次は私が!」というサイクルを作ることがトレーニングになると思います。

―話は変わりますが、グランドスタッフを続ける選択肢もあったと思いますが、なぜファッション業界へ?

仮屋:働き始めて2年半経ったころ、どの業界にもあるキャリアアップで、お客さまと接する現場から、事務所内でインカムを付けスタッフの業務をコントロールする業務に異動したことがきっかけでした。どちらかというとずっと現場の空気を味わっていたかったのですが、新人もどんどん入社してきますので席を譲らないと(笑)。そこで、もう一つやりたかったファッションの道に進むことにしました。この2つの業界は、絶対的に自分の人生で実現させたいと思っていたので。

―強い思いがあったのですね。仮屋さんの考える、アパレル販売員の良いところを教えてください。

仮屋:やはり、毎日違うお客さまと出会えることですね。よくスタッフに伝えているのは、「お客さまのスタイリストだと思って悩みを聞き、お客さまは誰のために服を着たいのかだったり、お客さまのライフスタイルに寄り添ったりして提案することが私たちの存在意義だよ」と。それができたときにお客さまが喜んでくれたり、お客さまから「自分では選ばなかった」と言ってくださるときに、ありきたりですがやりがいを感じます。あと、「ラグナムーン」で働き始めたころは店に商品が届くのが楽しみの一つでした。ですが、長く働くと売り上げや予算などビジネスライクなことも付きまとい、徐々にときめきが薄れるスタッフも見てきました。そもそもショップスタッフの仕事は接客をして、その結果として売り上げがついてくるものなのですが、結果ばかり気になってしまうスタッフも多いので、もっと売り上げにつながるプロセスを楽しんでもらえるようにしたいですね。

―確かに、接客が上手くいったからこそ、対価として売上が付いてくるというプロセスを忘れてしまいがちです。しかも、ネット通販も便利になり、「接客は必要ない」という意見もあります。

仮屋:今はECでお買い物ができますし、情報もいくらでも収集できます。だからこそ「人間だからできること」、例えば表情を読み取り、気づけることが大切になるし、対話を通してお客さまにワクワクする気持ちを感じていただくことが、これからリアル店舗に求められることだと思います。こんな時代だからこそ“人間味”が必要なんです。

―人にしかできないことがあるということですね。今は福岡を拠点としながらブランドリーダーとエリアマネージャーを兼務されているとのことですが…。

仮屋: 店頭にも立ちながら、「ラグナムーン」に在籍している販売スタッフの人事やエリアマネージャーの育成を主に担当しています。福岡在住で責任ある仕事を任せていただけることはレアケースだと思いますし、恵まれていると思います。この役職をやらせていただけている以上は、これからもがんばらなければと思っています。

―これからの目標は?

仮屋:結婚して妊娠、出産、子育てとライフステージが変わったとしても、働いていける姿をスタッフたちに見せていきたいですね。今は女性が輝いて働ける時代になったとはいえ、まだまだ結婚がゴールだと考えているショップスタッフもいます。結婚や子供を産むタイミングなど、自分の人生プランを考えながら暮らしていける時代になったからこそ、子育てしながらも現場に立って毎日、刺激的な日々を過ごすスーパー販売員になって、スタッフからも「これからもこの仕事を続けられる」と感じてもらえるようになりたいです。

苫米地香織:服が作れて、グラフィックデザインができて、写真が撮れるファッションビジネスライター。高校でインテリア、専門学校で服飾を学び、販売員として働き始める。その後、アパレル企画会社へ転職し、商品企画、デザイン、マーケティング、業界誌への執筆などに携わる。自他ともに認める“日本で一番アパレル販売員を取材しているライター”