ファッション
連載 コレクション日記

帰ってきたメンズコレドタバタ日記Vol.8 殺気立つほど大混雑の「ディオール」が今季ベストか?「オム プリュス」は黒を封印!?

10:25 コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン

 パリメンズの金曜日は、通称“ギャルソンデー”。朝と夕方、「コム デ ギャルソン」の2ブランドがショーを開催するからです。

 先陣を切ったのは、「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン(COMME DES GARCONS JUNYA WATANABE MAN)」。毎回、オジさんモデルが思い思いにランウエイを歩き、その演技力とリアルクローズが拍手喝采を浴びています。

 今回の舞台は、イタリア。「ジュンヤ マン」らしいハイブリッドウエアも、肩を入れ、ウエストをギュッと絞ったイタリアンシェイプに仕上がりました。ウールは伝統的なチェック柄を中心としたダークトーン、そこにカラフルなナイロン素材を組み合わせます。「フェラーリ(FERRARI)」など、イタリアの名門スポーツカーブランドのワッペンもあしらいました。クラシコイタリアを愛しながら最新のエンジンを搭載したイタリアンカーにも夢中という、無邪気な子どもみたいなオジさん。いろんな2面性を、確立した不動のスタイルで描きます。

10:40 サルバム

 同じ会場の地下で開かれた「サルバム(SULVAM)」のプレゼンテーションは、暗い(笑)。写真を撮るのも大変ですが、そのムードがまた最近の「サルバム」らしい、ほんの~り退廃的なセクシーエレガンスのムードを掻き立てます。

 最近の「サルバム」が好きなのは、とっても肩の力が抜けたところ。どのブランドも大抵そうなのですが、日本勢はどうしても海外に打って出るとき気合いを入れすぎてしまうもの。若干の“気難しさ”みたいなものが支持層を少しずつ広げて海外にというブランドの場合、海外コレの序盤はメチャクチャ気難しくて、正直独りよがりで、共感しがたいコレクションが生まれてしまうケースも少なくありません。でも最近の「サルバム」からは、そんな面影を感じなくなりました。漆黒のレザーブルゾンには、クリーンなデニム。もう切り裂いてないジャケット(笑)には、スタンドカラーのミニマルシャツ。フェイクファーのブラックコートには、キャップを被ってハズしのスタイリング。ハラに何かありそうだけど、誰もが「カッコいいね」と思える共感性も高い。進化しています。

11:50 アン ドゥムルメステール

 さぁ、ここからは西から東に大移動。早くも1時間近くスケジュールから遅れ、「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」のショーが始まりました。ナイーブなブランドは、今シーズンもとっても繊細。中盤以降はチュールやシフォン、レースにレザーパンツやゴートファーのコートというスタイリングです。葉っぱの冠を被った少年たちは、なんだか神話に出てくる神々のよう。

12:40 ジュン. J

 今度は北から南へ(ヒィ、シンドいw)。「ジュン. J(JUUN. J)」は、今シーズンもデカい(笑)!!このブランドのモデルは、ちゃんと筋トレをやらないと務まりません。肩が張り出したオーバーサイズのジャケットの上にコートやブルゾンを羽織って、ピタピタのレザーパンツはサイハイブーツにイン。フィナーレはレザーマスク。呼吸困難。迫力満点ではあります。

13:30 ベルルッティ

 お次はオペラ座ガルニエ宮で、「ベルルッティ(BERLUTI)」。パリ一番の観光名所に入ると、鮮やかな花々がズラリ。就任以来、「パティーヌ」と呼ぶメゾン独自の染色技巧をコアバリューにコレクションを組み立てようと、鮮やかな色を連発し続けるクリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)らしいおもてなしです。

 洋服は花々同様、今回も目が覚めるほどの色に染まりました。ショッキングピンクは、本当にショッキングなレベルでピンク(笑)。クロコダイルバッグまでショッキングピンクだったときは、正直「マジですか⁉︎」と思いました(笑)。提案するのは、単色の色を思い思いにまとい、十人十色、自分なりのスタイルを作り上げる価値観。コレがクリスの「ベルルッティ」です。

14:30 メゾン ミハラヤスヒロ

 さぁ、お次は「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)のハズですが、今回はその前にサプライズ。「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」のミニショーから始りました。三原康裕さんが、後輩分にあたる「ベッドフォード」の山岸慎平デザイナーにチャンスを与えた形です。なんてステキなんでしょう!洋服も、コーデュロイなのに美しくキレイに仕立てたスーツ、洗ったベルベットのセットアップなど、ステキでした。「サルバム」同様、このブランドからも“気難しさ”が消えつつあり、共感できるようになっています。

 で、いよいよ「ミハラ」のコレクション。BGMは、管弦楽団によるクラシックの演奏ですが、ハッキリ言ってベリー下手(笑)。聞けば美術を志す学生に1カ月練習してもらって録音した音なのだそうです。そしてショーの間は、やっぱり美術学生がランウエイをスケッチするのですが、コレもなかなか味わい深いタッチでした。

 きっと三原さんのメッセージは、「完璧じゃなくていいよね~。それが、ヒトっぽいんじゃない?」ということなんだろうと思います。そんな思いが詰まった洋服は、得意技の前と後ろが全然違うハイブリッド。2着を1着にしてるから、どうにも着られる一方、完璧には着られない。「正解」はないのです。それは、下手っぴなBGMや、味わい深いスケッチと同じ。“らしい”のが一番なのです。そんな多様性を訴えます。

15:00 ヨシオクボ

 メトロに乗って「ヨシオ クボ(YOSHIO KUBO)」のプレゼンテーションへ。琴が鳴り響く空間には、現れました!「アンダーカバー(UNDERCOVER)」以来のサムライです。

 「アンダーカバー」は西洋のアイテムで日本のサムライスタイルを作りましたが、「ヨシオ クボ」はもっとガチです。流石に素材はフランネルでしたが、本当に手甲や脚絆まで登場(笑)。琴が不協和音を奏でる中のサムライ。カッコ良かったです。


16:00 カサブランカ

 さぁ、お次はオペラ座(の目の前)まで戻って、「カサブランカ(CASABLANCA)」。コレがとっても良かったのです。カサブランカ生まれパリ育ち、「ピガール(PIGALLE)」で経験を積んだデザイナー、シャラフ・タジェル(Charaf Tajer)によるコレクションは、専属ペインターが風光明媚なカサブランカの街並みを描いたシルクシャツがキーアイテム。それをジャージーと合わせちゃうストリートマインドも持ち合わせています。レトロなスーツに合わせるも良し、Tシャツ&デニムに取り入れるも良し!!そんなスタイリングでダイバーシティーでした。

17:20 コム デ ギャルソン・オム プリュス

 本日のメインディッシュの始まりです。まずは、「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」。毎回「プリュス」のショーは開演まで真っ暗なことも多く、それが眠気を誘うこともあって困りモノなのですが(笑)、今回は明るい。助かります~。

 で、出てきた洋服も、底抜けに明るい感じに仕上がっておりました。黒、ほとんどナシ。ブリティッシュチェックにレオパード、パイソン、ロゴ、マルチカラーのボーダー、花柄、アーガイル、ピンストライプ、星柄を組み合わせたジャケットやパンツ、スカートが登場します。裾に別の布をつなげたり、肩口で生地を留めて背中に翼のように流したり、ラペルだけを切り取ってストールのように掛けてみたり、今シーズンは工作みたいなアプローチ。「ベルルッティ」同様、好きなモノを好きなように着るのが一番「強い」というメッセージなように思えます。モデルのウォーキングもお決まりのコースはなくって、ランウエイを前に後ろに左に右にユラユラ。最近の「プリュス」、定番の演出です。

18:30 ディオール

 さぁ今度は「ディオール(DIOR)」。巨大な特設テントは、殺気立ったムードさえ漂うくらい大混雑しています!!ゲストも多いしセレブも多い、だからファンがメチャクチャ多い。人混みで入り口の場所が分からない(苦笑)。そのくらいの大混雑なのです。

 でも、その試練を乗り越えて見た甲斐がありました!!もう最高、今季ベスト(今のところ)。2018年に亡くなったイギリスのスタイリスト兼ジュエリー・アーティストのジュディ・ブレイム(Judy Blame)にオマージュを捧げたコレクションは、貧しいがゆえに蚤の市でガラクタを買い漁り、それを帽子やラペルにジャラジャラと組み合わせていたジュディのスタイルを再現。ピカピカのシルバージュエリーをジャラジャラ組み合わせる大胆さは、トップメゾンの気品とイマドキなストリートマインドの双方を同時に表現します。ジュエリーで言えば、パール使いも大きな特徴。これは、メゾンの3代目デザイナー、マルク・ボアン(Marc Bohan)に捧げたオマージュ。シャツのボタンやカフス、スカーフリング、そしてモデルの目元にもパールをあしらっています。カワイイ。ロンググローブも、マルク・ボアンのスタイル。ビジューを散りばめたロングシャツとのコーディネイトは、マルク・ボアンが女性に捧げたドレスのようにも思え、メゾンの遺産を継承しつつ、現代の価値観を反映してジェンダーの既成概念を超越しようとするキムの心意気が伺えるのです。ジャケットは、ラペルをウールとサテン、ベルベットで切り返すなど、クラフツマンシップ満載。「コレは、明日の展示会でディテールをチェックしなくっちゃ!!」と思わずにはいられません。

 バッグは、定番“サドル”バッグが絨毯のようなモコモコ素材で登場。同じくサドル型のフラップを持つビジネスバッグ。大小2つのケースが連なるボディバッグなど、相変わらずキャッチーでした。基本を残しながら、いや、むしろ増しながらコンテンポラリーに仕上げるこの才能。キム、やっぱスゴいです。

20:15 ヴェトモン

 さぁ、本日ラストは「ヴェトモン(VETEMENTS)」。デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)退任後、初めてのランウエイショーです。ショーの前、日本で一番「ヴェトモン」を買い付けている長谷川左希子マネジング・ディレクターにバッタリ会って、「どうよ、ぶっちゃけ、どうよ?デムナがいなくなって大丈夫?」と聞いてみると、「むしろ期待。正直最近は、子どもっぽいストリートばっかりだったから。メゾンはいろんなスタイルを提案したかったみたいだけれど、『バレンシアガ(BALENCIAGA)』でも働いているデムナは、『ヴェトモン』では好きなようにやりたかったみたいで、なかなか上手く変われなかった」と教えてくれます。なるほど。こりゃ、楽しみだ。

 コレクションは、左希チャンの言う通り、変わろうとするメゾンの心意気を感じさせるものでした。もちろん、まだフーディーやTシャツもあるけれど、全体的には大人の階段を1段登った感じ。特にブラックドレスは意識的に美しく仕上げたように感じます。肩パッドを入れて構築的なシルエットに仕上げたフーディーにチュールのミニスカートの組み合わせは、今までとこれからの「ヴェトモン」のハイブリッドのよう。他のバイヤーに話を聞いても、「変わったようで、変わっていないようで。でも変わったかな、やっぱり」と笑っていました(笑)。

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