PROFILE: マドモアゼル・ユリア

DJ、そして着物スタイリストとして活動するマドモアゼル・ユリアが、初の著書「きもののとりこ」(世界文化社)を刊行した。着物教室も実施するほど、和装の知識とモダンなセンスを携える彼女は、2020年のロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(Victoria & Albert Museum)の着物展のメーンビジュアルのスタイリングと着付け、25年に開催された第78回カンヌ国際映画祭ワールドプレミアムのレッドカーペットに出席した俳優の石田ひかりの着付けを担当するなど、着物スタイリストとして幅広く活動している。新書はそんな彼女らしくビジュアルブックとしても読み物としても“楽しい”一冊を目指した。さらに登場する着物や小物などは全て私物。豊富なビジュアルとともに、着物を“ファッション”として楽しむ視点と、その歴史と美しさを知ることで広がる奥行きを示す。その魅力を聞いた。
WWD:着物との出合いは?
マドモアゼル・ユリア(以下、ユリア):母も祖母も着付けをしていたので、着物は常に身近にありました。でも10代の頃はまったく興味がなかった。パンクバンドをやっていて、UKカルチャーに夢中でした。転機は、尊敬するジョン・ガリアーノ(John Galliano)やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)といったイギリスのファッションデザイナーたちが日本にインスパイアされたコレクションを発表しているのを見たこと。彼らが見ている“着物”は、私の知っているそれとは違って見えた。そこから一気に惹かれるようになったんです。
WWD:具体的に、どういったところに惹かれたか。
ユリア:着物は一枚で終わらない服。帯や帯締め、半衿まで組み合わせて完成する。形は約400年変わらないのに、柄や小物の合わせ方で無限に表現できる。その人自身が表れる装いです。ワンピースのようにデザイナーが完成させた服とは違い、平面の形だからこそ、装いの仕方によって自分で物語をつくれる。そこが面白くて楽しいなと思ったんです。
WWD:スタイリングでつくる物語とは?
ユリア:例えば海をイメージした青い着物に、波や船を想起させるモチーフを重ねる。祝いの席で縁起の良い柄を選ぶ。成人式なら決意を込める。言葉にしないメッセージを装いに託せるのが着物です。 日本らしい四季のストーリーも着物を語るに欠かせませんね。これまで季節行事に縁遠かった私が、着物を通して自然を意識するようになりました。着物に描かれた芙蓉(ふよう)の花を「実在する花なのかな」と思っていたら、夏の街に咲いているのを見つけた。世界の見え方が変わり、心が豊かになりました。くずし字を読みたくて書道を習い始めるなど、文化を知る入口にもなり、着物を通して知ったことはとても多くありますね。
WWD:着物を通した活動はいつから?
ユリア:京都芸術大学を卒業すると同時に、きものスタイリングの仕事を本格的に始めました。ファッション誌やブランドのプロジェクトでスタイリングを手がけ、音楽やファッションの世界で培った感性を着物に生かしています。SNSや雑誌、YouTubeチャンネル「ゆりあの部屋」でも発信を続けていますし、教室も主宰しています。若い世代がフラットに興味を持ってくれるのはうれしいですね。
WWD:初の著書の制作のきっかけは?
ユリア:着付け教室でスタイリングを教える中で、「こういう本があったらいいのに」と思い続けてきました。読み物としても面白く、写真としても楽しめる。洋服が好きな人が入り口として手に取り、すでに着物を楽しんでいる人にも発見がある本。実は本が決まる前から、考えたことを文章にして温めていたんです。着物の本は、どうしても“好きな人”が手に取るものになりがち。でも私は、まずファッションとして見てほしかった。本に掲載した着物はすべて私物です。自分が心から惹かれて集めてきたものだけで構成しました。
WWD:反響はどうか。
ユリア:12月11日の発売後、予想を上回る売れ行きで約1カ月で重版が決まりました。きもの本は通常、発売から1年ほどで重版がかかることが多いと聞きますが、今回は早い段階での増刷となりました。読者層も幅広いと感じています。着物を着ないけれどファッションやアート、日本文化に興味がある方にも届いている。従来のきもの本よりも、入り口が広い一冊になったのではないかと思います。
着物×洋服の自由なルールも自己流に楽しんで
WWD:服との違いと共通点は?
ユリア:洋服はデザイナーが作った形の面白さを楽しむもの。着物は決まった平面の形から、自分でシルエットを作れる。作家はいますが、最終的にどう見せるかは自分次第。生地や刺繍など、服飾好きが楽しめる要素も多い。 アンティークは大正〜昭和初期の柄に時代性があり、自由度が高い。当時の洋服はサイズが小さいけれど、着物は手縫いなので解いて仕立て直せる。そこも大きな違いです。
WWD:着物のルールについては?
ユリア:着物を着物らしく楽しむためのルールは守ります。ただ、知れば知るほど納得できるルールと、今らしさを掛け合わせた新しいルールも見えてくる。例えば季節の花を身につけるのは、その季節を楽しむ衣服だからこそ。守ることで美しく見えるものと、再解釈できるものを見極めたいと思っています。
WWD:洋服のような小物使いも印象的だ。
ユリア:小さなものを集めるのが好きで、特に帯留は物語を完成させる重要なピース。鹿の帯に紅葉の帯留を合わせれば、秋の風景が立ち上がる。アンティークの帯留やブローチを転用して、ちょっとした自分らしさを出すのも楽しい。草履を誂えるのも面白いですね。バッグは洋服のものを使います。バッグ自体が洋の文化なので、そこは自由に。自分らしさを出すための要素だと思っています。
WWD:著書を通して伝えたいことは。
ユリア:私自身、着物との距離感は中途半端だったと思う。でも遠い存在だからこそ、憧れの目線で見られいたのかなって。海外に行ったことでその魅力に気づけたし、今の若い世代もフラットに興味を持っています。かつてはネガティブなイメージを持つ世代もあったかもしれないけれど、今は“ママ振袖”を着たいという声も多い。若い人がこの本を見て、「ワードローブの一つ」として着物を選択肢に入れてくれたらうれしいし、写真を見て“可愛い”と思うだけでもいい。伝統文化は、まず“かっこいい”と思ってもらえなければ続かないから。
WWD:今後、着物の魅力をどう発信していきたいか。
ユリア:日常ではなかなかないかもしれないですが、着物に触れる機会が増えるとうれしいですね。まずはアンティークやリサイクルから。数千円でもときめく一枚はあります。友達とお茶に行くなど、ちょっとした思い出の中で着物を取り入れることもおすすめです。
著書の中にある川島織物と明治時代の図案をベースに帯を制作した展示では、洋服と対に並べても不思議と親和性があった。龍村美術織物など、日本の工房が海外メゾンと協業する例も増えています。着物とファッションは、決して別の世界ではありません。私の活動が着物と洋服の架け橋ともなれたらと考えています。ワードローブの選択肢として当たり前に着物がある未来を目指し、その可能性を発信し続けていきます。