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「ルイ・ヴィトン」 が示した到達点 ジャン・アルノー体制のハイウオッチメイキングは頂に達したか

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」はこのほど、東京・白金台の八芳園で「ルイ・ヴィトン 2026 ハイウォッチ&ハイジュエリー 展示会」を開催した。このイベントのために来日したのは、LVMH モエ ヘネシー ・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)グループのベルナール・アルノー会長兼最高経営責任者(CEO)の末息子であり、同メゾンのウオッチ部門マーケティングおよびプロダクト・ディベロップメント・ディレクターを務めるジャン・アルノー(Jean Arnault)だ。そんなアルノーディレクターが世界に先駆けて披露したのが、“LVDB-03 ルイ・バリアス プロジェクト”である。

このモデルは「ルイ・ヴィトン」のハイウオッチメイキングが、すでに時計界の頂上領域へ踏み込んだことを強く印象づけた。その根拠は、本作の核にある“シンパティック(Sympathique)”機構にある。

天才時計師アブラアン=ルイ・ブレゲが発明
“究極の同調機構”

フランス語で“同調”や“同期”を意味する“シンパティック”とは、1795年に天才時計師アブラアン=ルイ・ブレゲが発明した、置き時計と懐中時計が同調する「親子時計」機構を指す。高精度の置き時計が、懐中時計の時刻を自動修正し、緩急針の調整やゼンマイの巻き上げまで行うという、18世紀における驚異的なメカニズムだった。

王侯貴族のトップのオーダー品や、外交的な贈答品として当時わずか5台のみ製造されたこの時計は、ロシア皇帝アレクサンドル1世、スペイン王室、英国皇太子(後のジョージ4世)らが所有したとされる。一流の時計師にとって「いつかは自分でも作ってみたい」と思う最高の憧れ、時計コレクターにとって「いつか手に入れたい」と夢見る幻の時計だった。

1970年代には、英国の時計師ジョージ・ダニエルズ(George Daniels)が同調機構を失っていたモデル「No.128」を修復して再評価を促進。さらに91年には、フランソワ=ポール・ジュルヌを中心とする時計師チーム「THA(Techniques Horlogeres Appliquees)」が、当時のブレゲ社の依頼で腕時計と置き時計を組み合わせた新世代の“ニュー・シンパティック”を開発・製品化。伝統機構に現代的解釈を加え、その歴史に新章を刻んだ。

そして今回、「ルイ・ヴィトン」がスイスの独立系高級時計ブランド「ドゥ・ベトゥーン(DE BETHUNE)」と協働してこの究極機構に挑戦。素材でもメカニズムでも大きく進化を遂げた“LVDB-03 ルイ・バリアス プロジェクト”を発表した。

旅をテーマに再構築
新世代のシンパティック

本作は、腕時計「LVDB-03 GMT」と置き時計を組み合わせた現代版シンパティックだ。ベースは、「ドゥ・べトゥーン」の“DB25 GMT スターリー・バリアス”。同ブランドのコーポレートカラーであるブルーを効かせた軽量な“タンブール タイコ”型のチタンケースにGMT(デュアルタイム)機能と5日間のパワーリザーブを備える。

一方、艦橋に取り付けられる航海用のマリンクロノメーターを想起させる置き時計は11日間パワーリザーブの完全機械式。常に水平を保つ構造を備え、中央のカプセルに腕時計をセットするだけで自動的に同期・調整を行う。

最大の特徴は、「ルイ・ヴィトン」らしく“旅”という物語を核に再構築している点にある。長期の旅から帰宅後、腕時計をクロックに収めることで再調整されるという体験設計は、シンパティック機構を現代的ライフスタイルへ翻訳した試みと言える。

1メートル超のクロックの外周には、ベルギーの漫画家フランソワ・スクイテン(Francois Schuiten)が描いた旅の情景が、彫金師ミシェル・ローテン(Michele Rothen)の手で刻まれる。また腕時計と置時計を収めるトランクは、「ルイ・ヴィトン」のアニエール工房が特別に製作したチタン製。コーナー金具には「ドゥ・ベトゥーン」を象徴する「青焼きチタン」を使用している。

腕時計と置時計をセットにした新世代“シンパティック”は世界限定2セットのみの製造で、価格は400万ユーロ(約7億3500万円)。腕時計が限定10本の製作で37万5000ユーロ(約6900万円)。これは実用品というより、現代における王侯貴族のための機械式芸術作品と位置付けるべき存在だ。

ジャン・アルノー体制の戦略と「ルイ・ヴィトン」の到達点

本プロジェクトで中心的役割を果たしたのは、「ドゥ・ベトゥーン」の共同創業者、デニス・フラジョレ(Denis Flageollet)。フラジョレは、先述した1991年製の“ニュー シンパティック”を手掛けた時計師チーム「THA」の中核メンバーでもある。企画は2021年、アルノーディレクターが就任直後にフラジョレを訪ねたことからプロジェクトが始動。5年をかけて結実した。

インペリアル・カレッジ・ロンドンで機械工学を修めたエンジニアであり、幼少期からの時計愛好家であるアルノーディレクターは、「ルイ・ヴィトン」の時計開発製造会社「ファブリック・ドゥ・タン」を率いる伝説の時計師たちと共に、「ジェラルド・ジェンタ(GERALD GENTA)」と「ダニエル・ロート(DANIEL ROTH)」を復活するプロジェクトも進めている。技術力、情熱、資本力、そしてファッションメゾンとしての企画力。そのすべてが結集した体制だ。

今回の発表は、「ルイ・ヴィトン」がハイウオッチメイキングにおいて世界トップクラスへ到達したことを強く印象づけた。独立時計師の最高峰技術を取り込みつつ、メゾンの「旅」というDNAを統合する戦略は、時計専業ブランドには再現しにくい。ジャン・アルノー体制とそのチームの時計作りへの情熱が今後も続く限り、「ルイ・ヴィトン」の時計作りは、きっとさらに進化していくだろう。それは世界の時計業界にとっても幸福なことだ。

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