PROFILE: アルコ&ピース 平子祐希/芸人
お笑いコンビ、アルコ&ピースの平子祐希は、誰もが認める芸人離れしたフェロモンの持ち主だ。その強みを余すところなく堪能できる写真集「艶夢(えんむ)」が発売された。女性ファッション誌「ViVi」(講談社)とチームを組み、XXLボディを5キロ増量して挑んだ意欲作。2月15日開催の六本木蔦屋書店での刊行記念お渡し会は、500席が即完売するほどの人気だ。この「艶夢」を入り口に、平子のフェロモンの源泉と、47歳の芸人としての現在地を探る。
「上裸にハチミツぶっかけてください」が通用した
——今回の写真集は、「ViVi」側から声がかかったそうですが、その時の心境と、オファーを受けた理由を教えてください。
平子祐希(以下、平子):日本語の妙ですよね。「『ViVi』から声がかかる」という声に出して言ってみたい日本語が、福島県の片田舎で育ってきたこの身に起きるなんてことはおそらく生涯でそう何度もないことだろうなと。どうなるか想像がつかない部分もありつつ、頼もしいバディになってくれるだろうということで、真正面から取り組んでみようかなと思いました。
——「艶夢」というタイトルがふさわしい、色気を前面に押し出した構成やテーマには、どのようにたどり着いたのでしょうか。
平子:基本的なところで「こういうものを芸人が出す時に、中途半端にボケどころを入れてしまうと僕は恥ずかしいので、出せません」と伝えると、「ViVi」側も「そのつもりです」ということで意見が一致しました。もともと僕は脱ぎ仕事といいますか、「風呂・温泉巡り」の仕事が多かったので、肉体を晒すことにそこまで抵抗がなく。なんなら日常になっていたので、「ViVi」からの提案をすんなり飲み込めました。逆にこの方向性じゃなければ無理でしたね。白い爽やかなニットを着て、爽やかに芝生の上で微笑むような写真集だったら、僕は多分やってなかった。「上裸にハチミツぶっかけてください」が通用したからできました。
——表紙の写真の液体は、ローションではなくてハチミツなのですね。その他の小道具、衣装、シチュエーションなどで、平子さんが出したアイデアはありますか?
平子:「脱ぎ系写真集」のイメージで思いを巡らせた時に、「プールでマスカットは食べますよね」とは言いました。「でっかい犬を連れて」というのも、自分からお話しした覚えがあります。 正面から取り組みはしましたけど、僕の理念まで真正面から写真集に取り組んだと思われるのはちょっと恐ろしいので、ある種のパロディーめいた要素を入れることで、世間様に感づいてもらえたらなと。
——その要素でいうと、鏡に写る自分とのキスショットという“お決まりのシチュエーション”が分かりやすいですね。
平子:芸人のアプローチによる化学反応が、「こんな地獄みたいになっていくんだな」というところを見ていただきたいですね。
——「太鎖(ふとくさり)」を小道具に使うシチュエーションが斬新でした。笑いと色気のバランスが絶妙です。
平子:太鎖は一応の案ぐらいで入れて、発注だけしておきました。撮影も終わりが見えてきて、「このまま太鎖は使わないかな」と思っていたら、自然と先っちょを舐めていました。みんな疲れてていたこともあり、自分が舐めれば楽になれると思っていたような気がします。
「純粋にそっち側の人として、認定された」
——現場でモニターチェックはしましたか?
平子:いや、見てないです。モニターを覗き込む所作に憧れはあるんですけど、生意気だと思われたら嫌だなと思ってやってないです。
——動きはカメラマンさんが細かく指示してくれたんですか?
平子:現場では、各所のプロの人にほぼほぼ委ねました。僕から提案するポージングというよりは、「マリオネットになるので好きな糸を引いてください」と。
——それを照れずにやりきっているところが素晴らしいなと思います。
平子:照れたらおしまいだと思ったので、「恥ずかしい」「自分は芸人である」という自分の回路を全部シャットダウンして挑みました。第三者がその風景を見てるかのような夢うつつの気持ちで進めていった覚えがあります。なんなら「これを自分から撮りたくてたまらない人」という偽の回路に繋いでやり切りました。そうしないと気が遠くなりそうだったので。
——この写真集のお仕事は、どんな経験でしたか?
平子:一つの大きな山を越えた気持ちはあります。ここを乗り越えたら何をやっても文句を言われないだろうな、周りが諦めてくれるだろうなと。元々「そっち側」ではあるんですけど、これで純粋にそっち側の人として、認定された気がします。
——「そっち側」とは。
平子:芸人は漫才師やコント師など本流の人だけでなく、雛壇芸人、ガヤ芸人など、いろいろなジャンルに細分化されていると思うんですけど、その中での「そっち側芸人」。
——誰も行っていない。
平子:もしかすると片足ぐらい突っ込んでる人はいるかもしれないですけど、そこともちょっと違って。両足を突っ込む覚悟を表明できたかなと思います。
「愛妻家」ではなく両思い
——ご自身に、日本人離れしたフェロモンやセクシーさ、ダンディズムがあると気づいたのはいつ頃でしょうか。
平子:いや、僕、自称していないんで……。
——「なんか周りがざわついてんな」と気づいたタイミングがあったかと推測しますが。
平子:僕自身にそういう要素があるとは思ってなくて。「こういう人フェチ」が反応してくれることで、僕にフェロモンがあるように見せてくれてる気がします。
——色気とは、見る側が対象に勝手に感じるファンタジーなのかもしれない。
平子:あとはもう圧倒的に「人のものだから」というのもあるかもしれないですね。僕は「既婚者」「父親」「誰かの旦那さん」とはまた違う、それを表現する日本語がないくらい、圧倒的に人のものなので。そこにある種のレア感を感じてくれてる人がいるかもしれない。
——平子さんは誰のものなのでしょうか。
平子:(妻の)真由美のものです。圧倒的に。すごく高い屏の向こう側にある隣の芝だと思い込んでくれる、フェチの方がごくごく一部いらっしゃるのかなと。ポケモンカードもね、手に入らないやつの方がよく見えるじゃないですか。最近はキリがないので、聞かれない限り、奥さんの話をテレビとかでしないようにしているんです。「愛妻家」と言われるのも、僕はあんまり好きじゃなくて。男女として両想いというだけであって、愛妻家ではないんですよね。世間様にちょっと怒られるんじゃないかというくらい、家族というよりは女としてしか見てないんです。もしも僕にフェロモンがあると言ってくれる方がいるとしたら、それはおそらく僕が恋愛真っ只中だからじゃないでしょうか。
——なるほど。その平子さんの色気やフェロモンは、こうして写真集が出るくらいの武器になりました。
平子:これは「色気」という言葉のマジックみたいな部分もあって。どっしりしていて、低い声である程度ゆっくり喋る、なおかつ45歳を超えたおじさんに、「不思議な色気がある」と言ってしまえば、全員に当てはまると思います。「色気」は「ゆっくり喋るおじさん」にとってのオールマイティーカードのような言葉だと、僕は正直思ってます。ポーカーにおけるジョーカーのように、みんなが擬態できる言葉なのかな。こういうお仕事をいただくという点においては、利用させていただいています。
47歳としての現在地
——平子さんは現在47歳ですが、45歳を超えた頃に、心境の変化があったのでしょうか。
平子:僕が一番年長者になる現場も増えてきたので、若手の時みたいに声を張って、慌ててしゃべって、ということをしなくてもよくなってきただけなんですよね。もともと僕は東北の片田舎の港町出身で、ずっと下を向いている暗い子でした。歳をとって、気を使わずにすみ始めたことで、その暗さをいかんなく発揮できるようになってきました。
——その状態にある平子さんが、今、芸人として心がけていることは?
平子:僕に限らず、芸人でも俳優さんでもタレントさんでも、ある程度の年齢になると脂が抜けて、何か作り込もうとか、自分にない何かをプラスαして演じようというよりは、自分自身でやっていくしかないというフェーズに入る瞬間があると思うんです。「媚びない」とはまた別の話で、自分は自分でしかないので、ここから先は「自分」でやっていく。ある種、僕はもう(今の状態を)「終活」と思ってるんで。
——なぜでしょう。
平子:2〜3年前に鼻毛に白髪が1本出てきて、それを見て「終活なんだな」と思ったんです。それがすごく印象深くて。自分では若いつもりでいたけれど、子供も大きくなっている。よくジジイが「朝起きると体に痛くない場所がない」と言うように、そんな朝も増えました。これはもう誰に媚びへつらうとか、無理にアクティブに持っていくというよりも、落ち着いて、ゆっくりと、終活として残りの人生を過ごしていこうと思ったんです。それからかな、自分のトーンでしゃべって、自分の歩幅で歩けるようになったのは。
——その頃から、番組出演本数ランキングで上位に入るようになりました(※2024年から2年連続で4位)。
平子:今まで遠回りしてたんだなと思いました。周りの芸人さんたちの立ち居振る舞いや所作を見て「そうじゃなけりゃいけない」と思いこんで、自分を打ち消して、芸人のアイコンの真似事をしてきました。それを「もういっか」と思い始めたら、仕事が増えてきたんです。それまでよくわかんねえ先輩芸人が、俺にしてきたアドバイスって何だったんだろうなって。
——(笑)。 終活と思ってありのままの自分で仕事に取り組んでいたら、写真集のようなお仕事が舞い込んできた。ということは、ここに写っているのもありのままの平子さんですか?
平子:そうですね。側(がわ)だけは演出を入れてもらいましたけど、あとはそんなに遠くない姿というか。基本的に、僕、イタいんで。
——イタいんですか?
平子:プールでマスカットとか、別に全然平気でできます。取材では、「芸人さんなのにこういうものを出したときの心境は?」と聞いていただけるので、それに乗っかっていろいろ喋ってますけど、正直に言うと、実はなんとも思ってないんです。イタい人間なので。そのイタさの自覚はどこかであります。俯瞰で見る能力は長けていると思うので。
——なるほど……! このインタビューでも、冒頭は乗っかって「恥ずかしいという回路を遮断した」とおっしゃっていましたが、実はそんなことをしなくても平気なくらいイタい人間だと。そのようにイタい自分を受け止めるには自信が必要で、それは同時に自分に対する諦めでもあり。そこが平子さんの色気の源泉だと個人的には感じました。
平子:もう終活だし、なんならイタい芸人を突き詰めようという。昔だったらそれを覆い隠して、ザ・芸人という振る舞いを嘘でもしていたと思うんです。けど、もう自分が「そっち側」だと気づいてしまったので、それでも走り抜いて、あとは棺桶に入るだけでいいのかなという心境です。
アルコ&ピース結成20周年
——2026年4月でアルコ&ピース結成20周年(2006年4月結成)です。特別な1年を盛り上げる計画はありますか?
平子:盛り…上げる…? すいません、全然考えてなかったっすね(笑)。
——残念です……。単独ライブの予定もなしですか?
平子:単独ライブは「単独ライブ」という大きい鳥かごができちゃっている気がするんです。単独ライブに蔓延する「単独ライブ感」という枠を壊せる実力が僕にあるならやれると思うんですけど、今のところ、僕も発想に柔軟性を持ててないというところで、今はちょっとやりづらいかなと。単独ライブっぽい単独ライブでも、すればいいんでしょうけど。
——NGにしている仕事はありますか?
平子:「虫を食べる」。太田プロで初めてだと思うんすけど。最近は、口喧嘩系を求められるような仕事は断ってます。思ってないことを言いたくないので。能力とまでは言わないですけど自分の特性として、人のいいところの方が光って見えるんです。なんなら現場の笑いが薄くなったとしても、僕はそっちでやっていきたいですね。 バラエティーの現場で人を持ち上げすぎたり褒めすぎたりすると、ちゃんとおかしな空気になったりすることもあるんですけど、僕はもうそれでもいいかなと。人を褒めて干されるなら、干されればいと思っています。
——今後、個人でやってみたいことをお聞きしたいです。
平子:家族の話になりますが、子供たちに世界を見せてあげたいです。来年が結婚20周年なんです。20年前に新婚旅行でイタリアに行ったんですけど、僕はまだ芸人のお仕事がなくて、アルバイトをしている身で。でも、奥さんが一生懸命貯めた貯金で「イタリア行きたい」と言うから、一緒に行きました。ユーロも高くて、あまりにも貧乏旅行で。自分の母親に持たされたジャンボどら焼きをちぎってかじりながら各所を回ってました。だから20年前に新婚旅行で行ったところを、家族みんなで回って、せめてリゾットぐらい食べさせたいですね。と思ったら、ユーロがさらに高いらしいんですけどね…。
——芸人としてやりたいことはありますか?
平子:バラエティーに出るのはもちろん好きなんですけど、社会や文化を扱う仕事もしていきたいです。学はないんですけど。タイトルに「爆笑」がついてる番組で、もちろん爆笑になることもありますけど、そこに笑いは介在しないという現場だからこそ起きる笑いの方が好きなんです。緊張と緩和じゃないですが、狙いに行って取るよりも、自然発生した笑いのパンチ力の方を信じているところがあります。そういうちょっと大人びた仕事が増えてきたので、もっと広げていければなというのはありますね。
——キャリアと共にやりたい仕事が変わってきたことに、理由はありますか?
平子:突き落とされて泥だらけになる芸人って、すごくかっこいいと思いますし、憧れもあるんです。でも、そのプロの人たちを見過ぎてきてしまいました。僕がどれだけ努力しても太刀打ちできない才能や人柄も。勝負しても勝てないジャンルが、この年になっていろいろ見えてきて、じゃあ自分はどういう場所で生きていこうかという立ち位置やジャンルが少し絞れてきたということですかね。
——賞レースに関しては? やり切った感はありますか?
平子:やり切ってはいないですけど、もういいかなと。賞レースが賞レース然とし過ぎ始めちゃってるんですよね。2018年の「M-1グランプリ」3回戦の「彼女が欲しい」というネタで、僕が相方にアドリブでぶっこんだことがあるんです。当時、相方に(プライベートで)彼女ができたという話を裏で聞いて、舞台上で相方の「彼女欲しいから告白の練習したいんだよね」という振りに、「いやお前彼女できたじゃん。練習いらなくない?」と台本にないセリフを言ったら、相方が固まって。お客さんもざわついて、いろんな芸人から「なんすかあれ」と言われ、そこで「あ、『なんすかあれ』なんだ」「ああ、競技になっちゃってるんだな。じゃあもういいかな」となっちゃったんです。漫才の賞レースもコントの賞レースもお笑いの祭りであっていい、その中にはいろんなジャンルのものがあっていいと思うので。
——漫才師でありコント師でもあるアルコ&ピースには、「ダブルインパクト~漫才&コント 二刀流No.1決定戦~」出場への待望論がありますが。
平子:いやあ、出ないっすね。
——即答! 「THE SECOND~漫才トーナメント~」も?
平子:(※極真空手・数見肇選手の空手哲学をたっぷりと説明してから)僕も賞レースよりも、日常の中で何が巻き起こるかわからないお笑いというものを突き詰めていった方が自分の性分には合ってるかなと。長々と説明しましたが、簡単に言うと、自信がないから出ないだけです。
——納得しました。相方の酒井さんは「ラジオスター」という立ち位置ですが、平子さんにとってのラジオの仕事の位置付けは?
平子:相方への「ラジオスター」は揶揄ですが、コンビとして考えると僕らはラジオから出てきたと思っています。全国にいるリスナーが支えてくれて、番組を面白くしてくれたから、僕らはここまでお仕事をいただけるようになったので、(コンビの)根っこの部分だと思ってます。
——今後も続けていく。
平子:僕は、コンビとしてのラジオが1個あればいいかなと思ってて。リスナーとつながれる、1個大きい柱の番組があれば、そこは大事にしていきたいです。
ファッションを学ぶのは楽しい
——平子さんは個人のYouTubeチャンネル「平子っちといっしょ」で、買い物動画を配信しています。今日の衣装も、「麻布テーラー」で仕立てたオーダーメイドスーツです。クラシックでダンディな装いが本当にお似合いですが。
平子:僕は面(ツラ)が古いので、クラシックなものの方が似合うというよりは無理がないんです。クラシックと言ったら聞こえがいいですけど、地味なものの方がいいのかな。生地感がよけりゃごまかせるのかなとは感じてますけどね。今どきなストリートのものを着ると、首から下がストリートで首から上がクラシックみたいな感じで面が浮くので、今風なものをスパッと着てる人に憧れます。カッコいいなと思って真似する時もあるんですけど、どうも得手不得手があるというか。
——それも含めて楽しそうです。、いわゆる「一流品」を身につけてみて、ファッションに対する意識はどう変わりましたか?
平子:そうですね。知らないことだらけです。ジャンルも細かいですし、スーツやデニムの源流も掘れますし、ビスポークがどうやらとか、分からない用語がたくさんあって。おっさんとかおばあちゃんになると、大学に行きたがるじゃないですか。学び直しというか。あの感覚で、新しい教科書を見せてもらってるようで、今、楽しいですね。
——どのように学んでいるんですか?
平子:お店の人に聞きますし、「かまされたのかな」と思う用語は、その場では知っているふりをして、あとで調べます。ファッションは絶対に、ギミックに何らかの意味があるんですよね。ボタンのサイズや、ピーコートの襟のデカさなど、デザインの一つ一つに職業や文化に根付いた理由がある。社会学、人間学、歴史学に通ずるところが面白くて、たどっている感じがします。
PHOTOS:NA JINKYUNG(TRON)
平子祐希 写真集「艶夢」
◾️平子祐希 写真集「艶夢」
発売日:2026年2月14日
発行元:講談社
定価:3850円
ページ数:128ページ
https://www.kodansha.co.jp/titles/1000050152







