世界的アーティスト・村上隆と「レディメイド(READYMADE)」や「セント マイケル(©SAINT MXXXXXX)」を手掛ける細川雄太デザイナーによるファッションとアートが融合した新プロジェクト「モノノケ・メイド(mononoke・made)」が本格的にスタートする。合わせて写真家・ハービー山口がカイカイキキ三芳スタジオで撮り下ろした「モノノケ・メイド」のビジュアルも公開された。
同プロジェクトは、構想から約2年を費やしてようやく本格始動する。村上隆のアートワークを採用し、細川が素材、構造、縫製、加工の細部に至るまで徹底的に向き合い、何度も試作を重ねながらプロダクトへと昇華させた。
アイテムは、Tシャツやフーディーといったアパレルを中心に、ベルトやウオレットチェーンなどのアクセサリーまで幅広くラインアップ。“アートとファッションの調和”を目指し、アートとしての価値と日常で身に纏うプロダクトとしての完成度を両立させた。「モノノケ・メイド」正規取扱店舗および中野ブロードウェイ内の「トナリ ノ ジンガロ(Tonari no Zingaro)」で3月から発売予定だ。
今回、村上と細川に、2人の出会いから今回のプロジェクトの経緯、「モノノケ・メイド」のこだわりなど、メールインタビューを行った。
「細川さんの興味は骨董屋のオヤジみたいな感じ」
WWD:お二人の出会いから教えてください。2018年に福岡のcherry(チェリー)さんを通じて、村上さんが細川さんに(村上さんの)アートワークを用いたショートパンツの作成を依頼したところから交流が始まったそうですが。初めて会った時のお互いの印象はどうでしたか?
村上隆(以下、村上):2018年の時は直接会っていなくて、細川さんと最初に直接お会いしたのは、20年10月にcherryさんと一緒に細川さんの大阪の工房に遊び行かせてもらった時です。
出会って挨拶もそこそこに、すぐに細川さんが「レディメイド」や「セント マイケル」のコンセプトを説明してくれて。特にプロダクトそれぞれのストーリー背景や技術的なこと教えてくれました。
その後に、阪神タイガース応援団の応援グッズ専門のアップリケ工場に連れて行ってもらったんですが、そこで「村上さんのショートパンツの花の刺しゅうのアップリケはここで作ったんです」と言われて、「えええ? あんなにおしゃれなのをここで作っていたんだ?」と驚きました。結構泥臭いところで、世界の最先端のかっこいいものを作ってるんだなと、大層感心した覚えがあります。
細川雄太(以下、細川):僕はいつもメディアやSNSで見ていた方だったので、実際にお会いした時は「うわ、本物や」と思わず感激しましたね。
WWD:そこから直接交流が始まり、細川さんはアーティストとして、21年にKaikai Kiki Galleryで初個展「-YES-」を開催しました。村上さんはアーティスト・クリエイターとしての細川さんをどう見ていますか?
村上:細川さんの興味が骨董屋のオヤジみたいな感じなんです。アニメのTシャツであったり、車であったりとか、家具であったりとか、しまいには家そのものになったりで、どんどん脳内に興味の範囲が拡がっていき、しかもそれらを吸収して吐き出す能力がものすごくて。大きなアンティークショップの中でサブカルチャーの大きな歴史のストーリーを聞いて、関心しているような気分になって。それでアート本体をつくる頭脳と直結していると思ったんです。
プロジェクトのきっかけ
WWD:今回の「モノノケ・メイド」のプロジェクトは2年前からスタートしたそうですが、正式にスタートしたのはいつでしたか?
村上:2024年2月に「京都市京セラ美術館」で開催した「村上隆 もののけ 京都」の展覧会のオープニングに細川さんに来ていただいて。そこで「やりませんか?」って言ったら、「いいですね」とニコニコしてお返事をいただいて、そこからスタートしたと思います。
細川:村上さんの方から「何か洋服を作ってみませんか」と声をかけていただいて、自然な流れの中で動き出した感覚です。
WWD:今回の「モノノケ・メイド」はカイカイキキが初めてリリースするオリジナルブランドということですが、村上さんがこのタイミングでブランドを作ろうと思ったのはなぜですか?
村上:「モノノケ・メイド」は細川さんとのコラボブランドということで、とても意味があると思っています。僕もTシャツ、パンツ、カバンなどを、中野にある「Tonari no Zingaro」で商品を創っていますけど、あくまでスーベニアストアというカテゴリー内でやっていました。ファッションというカテゴリーでは初めてのブランドで、今回細川さんのナビゲーションで実行できてうれしいです。
WWD:ちなみに「モノノケ・メイド」というプロジェクト名はどのように決まったのでしょうか?
細川:ブランド名は、「村上さんに決めていただけないか」とお願いしました。村上さんが以前から「MNNK Bro.(モノノケ・ブラザーズ)」(※村上隆とラッパー・JP THE WAVYのユニット)という活動されていたこともあり、そこに「レディメイド」をくっつける形で「モノノケ・メイド」という名前になりました。
村上:確か「もののけ 京都」の展覧会の会場で決まったような気がしますね。
「モノノケ・メイド」のこだわり
WWD:「モノノケ・メイド」は“アートとファッションの調和”がコンセプトですが、アイテムはどのように制作していったのでしょうか? まずは細川さんが村上さんのアートワークから使用したい作品を選んで作ったのか、もしくは先にアイテムのベースを考えて、そこに合う作品を選んでいったのか。
細川:「モノノケ・メイド」は、マルセル・デュシャンの「レディ・メイド」という考え方をテーマにしているので、基本的には“既製の洋服にアートを重ねる”という発想からスタートしています。
ベースとなる洋服に、村上さんのアートワークを落とし込んで、その上からさらに加工や手作業の工程を加えていきました。ただプリントするのではなく、どうすれば洋服そのものがアートに近づくかを考えながら作っています。1点モノではありませんが、そうした手法を加えることで1点モノのアートのような存在感を持たせたいというイメージで制作しました。
村上:今のところアイテムに関しては全て細川さんが決めて、僕がアプルーブ(許可)を出すという流れになっています。細川さんご自身が、自分が出してきたものを却下することはあったにせよ、僕が却下したこと、今のところ一度もありません。
WWD:アート作品としての強度と、衣服としての成立をどう両立させましたか?
村上:「レディ・メイド」をやっている細川さんは、マルセル・デュシャンについて、僕よりも詳しくて、反芸術上のコンセプトを中心に据えていると思います。細川さんがよく言われることに「自分はファッションをやっているというよりは、アンティークを作っているような感じです」と。手さばきがやっぱり、ある意味、アートの制作の工程に似ているなと思っています。
細川:先ほどお伝えしたように、「モノノケ・メイド」のコンセプトは、マルセル・デュシャンの「レディ・メイド」という考え方から来ていますので、既成品に新たな視点を与えるというデュシャンの思想を、洋服づくりに置き換えながら制作しました。
WWD:構想から2年が経ち、今回プロジェクトの正式発表となりましたが、制作に関して細川さんが特にこだわった部分は? また村上さんからはアイテムに関して何か細川さんに伝えたことがあれば教えてください。
細川:アートと洋服の調和を目指しました。アートがただ“乗っている”だけにならないように、そこはかなりこだわりました。それから、ビンテージ加工を施しているアイテムも多いのですが、いかにも“加工しました”という見え方にはしたくなくて。実際に長く着込まれてできたような、自然な朽ち方になるように細かく調整しています。嘘っぽくならないように、細かい部分まで気を配りました。
村上:2025年に「ローズ・セラヴィ さりながら、死ぬのはいつも他人なり MNNK MADE」という曲をJP THE WAVYさんと作ったんですが、そのMVに細川さんのアイデアをいただいて、それに沿ってストーリーボードを創りました。その時に、デュシャンと僕ら日本人クリエーターの問題意識っていうのを話し合ったような気がします。
WWD:そのMVで「モノノケ・メイド」のアイテムを披露していました。このMVは細川さんがコンセプトを考えたそうですが、どのようなアイデアからだったのでしょうか?
村上:もともとは僕からMVのディレクターのSpikey John(スパイキー・ジョン)さんにファッションショーみたいな動画を作りたいという話をさせてもらいました。コンセプトは、日本のファッションがパリコレで爆発した瞬間、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」と「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」の「黒の衝撃」。そういった感覚の一番最初の時の動画とかを見て、すごくミニマルで原初的なものをやりたいと。
しかし、そのショーに着る服を真面目に作っても面白みが無いね……と、WAVYさんとも頭を捻っていました。そしたら、突然細川さんが、「村上さんが日頃、夏場に埼玉の現場で着ているサスペンダーに半パンとTシャツをみんなファッションモデルの方が着てランウエイを歩くと面白いんじゃない?」ということを言ってくれて、そこから完成したMVのようになりました。
細川:村上さんが「レディ・メイド」のコンセプトでいこうと提案してくれて、話し合いながら決めました。その考え方を、今回のMVの構成にも反映させています。単純にコレクションを発表しているような内容では面白くないと思っていて。だから、いわゆるスーパーモデルはあえて少なくして、いろんな体型や年代の人を起用しました。ある意味で、従来のファッションショーに対する一つのアンチテーゼになっていると思います。
MVで(「モノノケ・メイド」の)新作を全て見せるのではなく、あえて全員同じLOOKにしたのもそのためです。しかもその服は、村上さんの一番の仕事着。ライフスタイルそのものをファッションに落とし込む、ちょっとバカげたコレクションのMVになっているんです。
今後の展開
WWD:昨年の夏にパリで「モノノケ・メイド」の展示会を開催しましたが、現地での反応はどうでしたか?
村上:パリのファッションウィークの時に、ロサンゼルスのH Lorenzoや、Maxfieldのディレクターのサラさんとかが来てくれて、とても有意義なお話をさせていただきました。USの有名なセレクトショップの方に見てもらえて光栄でした。
細川:実際のところ、反応は本当に良かったです。皆さん、喜んでオーダーしてくれていました。
WWD:展示会では、Tシャツ、サッカーシャツ、バーシティーブルゾン、スーベニアジャケット、ベスト、ウオレットチェーン、サスペンダー、キャップなど30アイテム近くがラインアップされていましたが、全て販売される感じでしょうか?
細川:一度に発売するわけではありませんが、ラインアップしているアイテムは全て販売する予定です。
WWD:細川さんは、他にもブランドをやられていますが、このプロジェクトならではの挑戦は?
細川:村上さんのアートを使わせていただいていることが、やはり一番大きな挑戦です。村上さんの期待に応えられるように、しっかり向き合っていきたいと思っています。
WWD:今回、「モノノケ・メイド」のビジュアルを写真家・ハービー山口さんが撮影していますが、ハービーさんに依頼した経緯と、撮影での印象に残っていることを教えてください。
細川:もともと僕がハービーさんのファンで、特にジョー・ストラマーの写真が大好きでした。知人のアートギャラリーの方にご紹介いただき、今回お願いすることができました。撮影の最後に、ハービーさんがジョー・ストラマーに直接言われたという言葉「STAY PUNK」を話していて。それがすごく印象に残っています。
WWD:今後「モノノケ・メイド」で作ってみたいアイテムは?
村上:ジュエリーも作ってみたいですね。
細川:洋服はその時々で作りたいものが変わるので、きっとその時に本当に作りたいと思えたものを形にしていくと思います。今は、村上さんのアートを使った家具や空間づくり、部屋や建物のような、ずっと形として残るものにも挑戦してみたいです。
WWD:今回、「モノノケ・メイド」を通じて、改めて感じたお互いの魅力は? またお互いに似ていると感じる部分があれば教えてください。
村上:とにかく細川さんは謙虚で、優しい方です。人柄が素晴らしく、仕事がすごくやりやすくて、ありがたいです。とにかく親切なのです。
似ているところは、お互い納得がいくまでやり続けるところですね。妥協しないというか、時間がかかっても突き詰めるところは似ていると思います。
細川:改めて感じた魅力は、あれだけすごい方なのに、信頼して自由にやらせてくれる懐の深さです。たくさんのアートを自由に使わせてもらえたことも、本当にありがたかったです。
WWD:最後に村上さんと細川さんはアニメからも影響を受けていると思います。今、ファッションにおいて、特に古着・ストリート界隈でそうしたアニメカルチャーが人気なのはなぜだと思いますか?
村上:敗戦後に創られた日本のマンガ、アニメのストーリーラインは、弱者に密着していくことで、なぜ弱者が悪役にならざるを得ないのかというプロセスがリアルで、子ども達であった僕らの心を捕まえました。そして時が経ち、全世界の人々が共感しているんだと思います。「ガンダム」、「エヴァンゲリオン」、「進撃の巨人」、「鬼滅の刃」など、悪役と善玉が混在しているストーリーはなかなかないので、そういったものがユニークに感じられているんだと思います。
細川:単純に、市場で売るものがなくなってきたからじゃないですかね(笑)。それと、アニメは一つのカルチャーとしてちゃんと認められるようになってきたのも大きいと思います。
あとは、いわゆる“思い出産業”的な側面もあるのかなと。当時はお金がなくて買えなかったり、着られなかったものを、今はお金を持てる年齢になって手に入れられる。そういう人が増えているんじゃないですかね。
PHOTOS:HERBIE YAMAGUCHI
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