
1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの連載「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回は現地での人気が高まる「中国ワイン」について。意外とその歴史も古く、良質なワイナリーも続々と誕生しています。今回はその味にも注目しつつ、中国在住のワインソムリエの「おすすめ中国ワイン」を紹介します。
自由で新しい「中国ワイン」
先日、友人に誘われて日本人が経営する上海のワインバーを訪れた。店内では小さなパーティーが開かれ、バーカウンターにはさまざまなワインが並んでいた。その中に、約2年前に参加した中国ワイン会で飲んだことのある、エチケットが印象的な赤ワインを見つけた。バーテンダーの執行一希氏に声をかけると、「この花のイラストは温度によって色が変わるんです」と教えてくれた。エチケットに仕掛けを持たせたデザインは、現在の中国ワインの自由さと新しさを象徴しているように見えた。
執行氏は、このバーを「ワインの味を評価する場というより、まず経験をする場所」と捉えているという。ワインは美味しいかどうかだけでなく、同じ味のものはなく、一期一会のものとして向き合っているとも話していた。
私が中国ワインに初めて触れたのは1993年、上海に移り住んだ頃だった。当時、店頭に並ぶのは張裕、長城、王朝といった大手ブランドが中心で、アルコールや糖分が添加されたワインも多く、雑味を感じるものが少なくなかった。それと比べると、現在の中国ワインの多様性と品質の変化は大きい。
現在の中国ワイン事情について話を聞くため、執行氏と、このバーの経営者でありソムリエでもある松井一氏を訪ねた。松井氏は2013年に上海に移住した当時、中国のワインはまだ十分な品質とは言えなかったが、2014年のAPECで煙台産の中国ワインが提供されたことをきっかけに、中国でも本格的なワインが造られていると実感したという。技術はフランスなど海外から導入され、中国のワイン産業はグローバルな流れの中で発展していると感じたとも話していた。一方で、ワインの飲み方や楽しみ方が十分に知られていないと考え、「エチケットの扉」という日中ワインの会を主宰し、現在は約350名の会員とともに毎月テーマを変えてワイン会を開いている。
中国の主要産地にはそれぞれ異なる条件がある。寧夏・賀蘭山東麓は標高約1100メートルの乾燥地帯で、寒暖差と礫質土壌により、色が濃くタンニンの強いワインが生まれる。煙台は温暖湿潤な気候で、果実香が繊細でまろやかなスタイルが特徴だ。雲南・香格里拉は高原地帯の強い日差しと寒暖差によって、酸と糖のバランスの取れた香り高いワインが造られている。
日中コラボのワイン、「Du・渡」シリーズ
こうした流れの中で、日本と中国を拠点に活動する「Soma」社も動き始めている。同社は2023年に東京で創業し、2024年に中国・蘇州に中国本社を設立。オリジナルブランド「Du・渡」シリーズを中国と日本で展開しており、「渡」にはその2カ国をつなぐという意味が込められている。将来的には中国に自社ワイナリーを持つことを目指し、市場調査を進めているという。Somaのゼネラルマネージャー上池俊介氏は、気候変動に強いブドウ品種としてマルスランに注目していると話しており、松井氏も同様にこの品種を推している。
中国のワインの歴史は、漢代に西域からブドウが伝えられたことに始まり、1892年の張裕創業を経て、改革開放以降に本格的な産業として拡大してきた。現在は各地でワイナリーが増え、多様なワインが造られている。価格面では、中国ワインは中国国内で販売されているにもかかわらず、6000円以上の価格帯が多い。生産量の少なさや設備投資の回収、価格設定の仕組みがまだ整っていないことが理由の一つだと上池氏は述べている。
最後に、前述の執行氏が中国ワインのブランドを立ち上げたとの連絡があった。「雲川」と名付けられた同ブランドは、雲南省産シャルドネを2種類のエチケットで展開している。中国版ジェームズ・サックリングにもランクインしているといい、今後の動向が気になる存在だ。
中国ワインは、産地や品種、作り手の多様化が進み、いままさに変化の途上にある分野だ。次回は、そうした中国ワインを実際に味わい、その魅力に出逢える場に目を向けてみたい。