ファッション

「ジュンヤ ワタナベ マン」「メゾン ミハラヤスヒロ」「アイム メン」 が提案する新しい日常着、新しいフォーマル【2026-27年秋冬パリ・メンズダイジェストVol.2】

2026-27年秋冬メンズコレクションサーキットの現地取材は藪野淳・欧州通信員と本橋涼介ヘッドリポーターが担当しました。1月20日から25日は、パリ・メンズ・ファッション・ウイーク。メゾンはクリエイティブ・ディレクターの交代ラッシュが一段落した一方で、公式スケジュールに15人もの日本人デザイナーが名を連ねました。22、23日のハイライトをお届けします。

同日に実施した「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」のショーリポートは別途掲載しているので、こちらもぜひご一読を。

「ドリス ヴァン ノッテン」が浅川マキのブルースで歩む旅路 未完成と成熟が響き合う、自分だけのエレガンス

「コム デ ギャルソン・オム プリュス」が示す強い意志 “ブラックホール“のような世界からの脱出

「ヨウジヤマモト」が現代社会で闘う男たちに贈る、体と心を守る“鎧”

“一枚の布”を軸にした「アイム メン」の”ちゃんとした”服

藪野:“男性のための新しい日常着”をコンセプトにしたイッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)の「アイム メン(IM MEN)」は、ショー中のパフォーマンスやショー後の展覧会などを交えて世界観を表現していたこれまでの2シーズンから一転。シンプルなランウエイショーで新作を発表しました。今季のテーマは「FORMLESS FORM(形のない形)」。その背景について、「世界のフォーマルウエアにはいろいろな型があり、それを通して自分の意思や態度を表している。しかし、よくよく観察してみると、そういった空気感はそれだけでなく。素材の質感や色、布と体の関係性などのエレメントが“ちゃんとした”という雰囲気を出している。今回は、既存の型を削ぎ落としてエレメントだけを残すことで、一枚の布でも”ちゃんとした”男性服を作ることを目指した」とデザインチームの河原遷さんは説明します。

そんな思いを、エンジニアリングが強みの「アイム メン」はさまざまなテクニックで表現しています。例えば、ファーストルックのテーラリングとカジュアルウエアをミックスしたようなデザインのつなぎは、平面的な組織と熱で収縮するリブ編みのような組織が一枚の布に共存する独自開発の新たな生地「クレイ(CLAY)」を使用。彫刻的なフォルムを生み出すとともに、伸縮性によって動きやすさと着心地良さを実現しています。そのほかにも、袖をストールのように巻きつけて着用することもできるコートは、表はマットなウール地、歌は光沢感のあるサテン地で仕上げた生地で制作。四角形に折り畳むことができる構造を元にすることで着用時に流れるようなドレープが生まれるテーラードのセットアップは、尾州で紡績から加工までを一貫して作ったしなやかなウールで仕立てました。

そして、黒や白、グレー、ベージュ、ネイビー、ブラウンといった落ち着いた色でスタートしたショーは、次第に暁や黄昏といった移り変わる空を映し出すように鮮やかな色で彩られていきます。その色使いも「日常の始まりや終わりに、背筋を伸ばしたくなるような感覚になることが多い」ことから採用したものだそう。特に職人が手染めで3色のグラデーションを表現した体を包み込むようなウールコートは美しく、うっとりしました。

「リック・オウエンス」の混沌に立ち向かうエポレット  日本の匠の技を携え進軍

本橋:リック・オウエンス(RICK OWENS)」の今季のテーマは「TOWER(塔)」。塔とは「愛や希望」を象徴することもあれば、人々の行動や生活を監視・統制する「強制や威圧」の象徴ともなります。ファーストルックから目を奪われたのは、肥大化したポリスブーツと、天を衝くように高くそびえるショルダーライン。かつては軍事的な意味を避けるためにエポレット(肩章)を排除していたリックですが、「今の世界情勢を無視することは不可能」と考え、あえてそれらを誇張した形で提示しました。その姿は、混沌とした現代に立ち向かうための“鎧”のようにも見えましたね。

今回のコレクションは、日本の職人技術との繋がりもキーとなりました。一見すると重厚なレザーの変形アウターは、兵庫県姫路市でなめされた1.4mm厚のカウハイドを使用し、神奈川県厚木市のアトリエで縫製されたもの。クロップドジャケットとロングベストに分離できる構造になっていたようです。また、尾州産のメランジウールや、日本で調達・加工された16オンスのデニムといった素材にも、日本の産地への信頼と敬意が込められていました。一方で、インド・ビカネールの職人が手作業で作った8mm厚のフェルトコートなど、土着的な力強さも共存しています。

ロンドンのデザイナー(@STRAYTUKAY)とのコラボによるフライトジャケットは、シアリングをウォータージェットでネット状に切り抜くことで、スカスカとした軽快さと「フラワーパワー」を表現。そして、ショーの後半で異彩を放っていたのが、顔を完全に覆うマクラメ編みのマスクです。一つ作るのに30時間以上かかるというこのマスクは、どこか宗教的な儀式性を帯びており、今回のテーマである「愛と希望への祈り」を静かに、しかし強烈に訴えかけてくるようでした。リリースにあった「WE ARE THE GOON SQUAD(我々は愚連隊だ)」というメッセージの通り、異形でありながら団結し“進軍”する姿は、リックなりの希望の表現だったように思えました。

“ドレスアップ”のアップデートで示す「ジュンヤ ワタナベ マン」流ジェントルマン

藪野:ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)」は今季、「THE BEST, DRESSED」をテーマに、単にドレスアップするというだけでなく、ブランドが確立したスタイルをアップデートすることを目指しました。マイルス・デイヴィス(Miles Davis)のムーディーなジャズミュージックが流れる中、モデルたちは物憂げな表情を浮かべながら、ゆっくりと暗い会場を歩いていきます。そんな彼らは皆、インナーにタイドアップした白いシャツを着用。その上に「ジュンヤ」らしい手法でアレンジを効かせた端正なテーラードアイテムをまといます。

その表現は、白もしくは黒のレザーのピースをはぎ合わせて仕立てたショールカラーのジャケットに始まり、身頃や袖にライダースジャケットのパーツをドッキングしたツイードのチェスターコートからタータンやドット、千鳥格子、ヘリンボーンなどの生地をパッチワークしたテーラードジャケットまで多彩。「リーバイス(LEVI’S)」や「ステューシー(STUSSY)」「スピーワック(SPIEWAK)」「リビルド バイ ニードルズ(REBUILD BY NEEDLES)」「マムート(MAMMUT)」といった他ブランドとのコラボレーションも、今季はフォーマルなデザインに落とし込んでいます。仕上げに加えたのは、「トリッカーズ(TRICKER’S)」や「ハインリッヒ ディンケラッカー(HEINRICH DINKELACKER)」との協業によるシューズ、そしてクラシックなシルクハットやボーラーハット、フェドーラハット。そんな紳士のドレススタイルの再解釈を軸にしたコレクションは、フォーマルやクラシックへの自由なアプローチが目立った今季、さらに輝いて見えました。

「メゾン ミハラヤスヒロ」が見つめる“永遠の今” 歪んだ視界越しの日常着

本橋:「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」の今季のテーマは「ETERNAL NOW」。地下鉄でまどろむ中、視界がぼやけ、世界が輪郭を失って溶け出していく。そんな詩的なストーリーを感じさせるコレクションでした。

ランウエイに現れたのは、極端に身幅の広いジャケットやコート、そして床を引きずるほどルーズなトラウザー。一見オーセンティックな紳士服ですが、そのプロポーションは大きく歪められ、三原康裕デザイナーが感じている「日常のズレや違和感」を服そのものの形として表現しました。

特に象徴的だったのが、ジャケットの袖や身頃、パンツに無数に縫い付けられた「タグ」のディテール。クリーニングタグやサイズステッカー、価格タグのようなものが、まるで紙吹雪のように服に張り付いています。ぼやけた視界の中で、そこにあるはずの「日常」の記号だけが妙に鮮明に残っているような、不思議な感覚を覚えます。

アイテム一つひとつを見ても、「ミハラ」流の再構築は冴え渡っていました。MA-1とキルティングライナーが融合したようなアウターや、テディベアのモチーフが編み込まれたグランジニットなど、強烈な個性を放つピースが続出。スタイリングも秀逸で、シャツの襟を無造作に立てたり、ネクタイを締めずにラフに垂らしたりと、着こなしのルールを軽やかに逸脱してみせます。足元にはシグネチャーであるボコボコとしたソールを融合させた革靴やブーツをセット。

「歳をとると見慣れた日常や物がぼやけ、歪む」。三原さんが感じているという老いや孤独は、決して悲観的なものではなく、どこか穏やかな強さを帯びていました。完成された“正装”を歪ませ、再構築する。不完全な日常を愛おしむような、成熟したダンディズムが漂っていました。

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