
クリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)とサラ=リン・トラン(Sarah Linh Tran)が手掛ける「ルメール(LEMAIRE)」が1月21日、2026-27年秋冬コレクションをパリで発表した。今回はランウェイ形式ではなく、振付家・演出家のナタリー・ベアス(Nathalie Béasse)との協業による「舞台」のようなプレゼンテーション形式を採用した。
モデルたちは舞台を覆う幕から登場すると、そぞろ歩きをしたかと思えば止まったり、遠くを眺めたり、楽しそうに踊ったり、怪訝そうな表情を浮かべたり。筋書きのない日常のような一幕が繰り広げられた。舞台に立ったのは、モデルだけでなくさまざまなキャラクターを持った演者たち。韓国の俳優ペ・ドゥナ(Doona Bae)もその一人だ。
コレクションはドライシルクや滑らかなウールポリエステルといった、実用性と美しさを兼ね備えた定番テキスタイルのテーラリングが土台。ウィメンズはそこに、光の角度で表情を変える素材を加えた。金属的なきらめきのクラッシュドベルベットや、ラッカー加工でレザーのような質感を纏ったデニム、アルミホイルを思わせるコーティングコットン。酸化金属のような鈍い輝きや真珠の光沢、虹彩を帯びたパレットが、会場の光を映し取る。臀部や貝殻を模したアクセサリー、コルクスクリューを忍ばせた鍵型ペンダントが、ブランドらしいウィットを添える。
メンズは、シープスキンジャケットやトレンチコートなどの定番を、オリエンタルな解釈で再構築した。柔らかなカーフレザーで仕立てたマンダリンジャケットや、スエードのウェルディングジャケットは、素材の柔らかさと構築的な仕立てを融合させ、リラックスと緊張感のバランスが巧みだ。
今回の演出のきっかけは、サラ=リンがナタリー・ベアスの舞台作品を見て、自分たちのクリエイションとの親和性を感じたことだったという。なぜ今、ショーではなく「舞台」というフォーマットを選んだのか? その答えは、両デザイナーがショーの後に語った、「スタイル」「服と人間の関係性」についての考えから導き出された。
ムードがスタイルを作る
「私たちはあくまで、服に対しては非常にプラグマティック(実用的)なアプローチをとっています。日常的で、機能的なものを目指しています」。クリストフはそう前置きした上で、「同時に私たちはアートや詩、ムードも愛しています。誰かを『スタイルがある』ように見せるのは、服そのものではなく、その人の周りにあるムードだからです」と続ける。「ムードとはつまり、存在感であり、威厳であり、立ち振る舞いです。私たちはそれを表現するために、典型的なランウェイとは異なる文脈で服を見せることに、常に関心を持ち続けています」。
また今回の舞台劇のような演出は、生産・消費のサイクルが加速し、意味が空洞化していくファッションに対する彼らの思想を反映している。「今日、私たちはある種、人間性が失われた世界に生きているのかもしれません。ファッションも時に物質主義的になりすぎることがあります。だからこそ、人間的な深みを持った人々の多様性を見せることが重要だったのです」。
靴を脱ぎ、踊り、舞台上で生きる姿を見せた演者たち。彼らが纏う「ルメール」の一着一着は、単に消費されていく“商品”ではない。確かなスタイルを持ち、共に生きていく服であることを物語っていた。