ビューティ

AIが“選ぶ”から“買う”時代へ エージェンティックAIが変える美容ショッピングの未来

消費者はすでに、カラーコスメや新しいヘアスタイルをバーチャルで試すなど、美容活動にAI(人工知能)を活用している。だが、そうしたツールは今、急速な進化の只中にある。近い将来、AIエージェントはマスカラやヘアカラー、スキンケアなどを「提案する」だけでなく、「購入する」存在になるかもしれない。エージェンティックAIは、急速に台頭するAIの進化形で、より自律的かつ能動的に行動するボット、いわゆる「エージェント」によって、消費者の購買体験から業界の競争構造までビューティ業界の前提を変えつつある。エージェンティックAIは、生成AIのように質問に答えるだけでなく、明確な目標を達成するために逐一指示を与えられなくても複数のタスクを実行できる点が特徴だ。

新潮流、エージェンティックAIとは

「新しい時代、新しい世代がやって来る」。そう語るのは、美容向けAR(拡張現実)・AIソリューションを提供するテック企業パーフェクト(PERFECT)のウェイン・リウ(Wayne Liu)=チーフ・グロース・オフィサー兼米国プレジデントだ。エージェンティックAIは、複数のAIと連携しながら利用者の代わりに先を読んで動くパーソナルアシスタントのような存在だ。リウ氏は、「人間と複数のAIエージェントが融合したネットワークのようなものだ。1つのAIが単独で動くのではなく、利用者の好みや予算、過去履歴を理解しているパーソナルAIエージェントと、商品検索に特化したAIエージェント、比較・評価専門のAIエージェントなどが相互につながり連携して機能する」と説明する。各エージェントはプロンプト(指示や問いかけ)なしでも一定レベルの自律性を持って行動し、結果に基づき意思決定を行いながらタスクを進める。

調査会社フォレスター・リサーチ(FORESTER RESEARCH)のエミリー・ファイファー(Emily Pfeiffer)=コマース・テクノロジー担当 プリンシパル・アナリストは、エージェンティックAIの活用例をこう説明する。「例えば、『予算30ドル(約4700円)で、私が一番気に入りそうなマスカラを買ってきて』と消費者が言うとする。するとAIエージェント同士が、互いにコミュニケーションを始める。複数のサイトを調べ、価格を比較し、購入まで行う可能性もある。ネットワーク内のパーソナルAIエージェントは利用者を深く理解し、より専門的なショッピングエージェントに意見を求めることもできる」。

「ユーカムメイク」がAIエージェントを導入

次世代のデジタル・ビューティを切り開く存在であるパーフェクトは昨年11月、人気アプリ「ユーカムメイク(YouCam Makeup)」内でAIによる会話型ビューティアシスタント「ビューティエージェント」をローンチした。同社はこれを、消費者向けの初の会話型AIビューティ体験と位置付けている。このAIエージェントは単なるスマートアシスタントではなく、創造性を備え、人々の自己表現の仕方を読み取ることができる。パーフェクトのリウ氏は、「AIエージェントはあなたの環境を把握し、あなたのために判断を下し、行動を起こす」と話す。例えば、結婚式に出席する際のルック提案が必要な場合、「この結婚式でのあなたの立場は?新婦?それとも友人?」と問いかけるかもしれない。もし友人であれば、新婦の存在感を奪わないよう派手すぎないヘアスタイルや服装を提案する。

パーフェクトはこれまで、バーチャルメイク、肌分析、ヘアスタイルのシミュレーション、スキンケアやメイクのアドバイスといったツールを展開してきた。「エージェンティックAIによって、これまで別々に存在していたAI機能や体験が一つの流れとしてつながり始める」とリウ氏は言う。「『エジプトに行くのに何を勧める?』といった会話型の体験になる。乾燥した環境や強い日差しを考慮し、その国で入手可能な商品を踏まえた提案を行うのだ」。

感情理解と連携で進化するAIエージェント

「人間と人工の知能が融合する未来“シンソセン時代”に突入する中、ビューティ分野ではAIが人間の感情をくみ取り、柔軟に対応し、自ら判断する技術が進んでいる」。そう語るのは、トレンド予測会社ザ・フューチャー・ラボラトリー(THE FUTURE LABORATORY)のオリビア・ホートン(Olivia Houghton)=インサイト&エンゲージメント・ディレクター兼ビューティ、ヘルス&ウェルネス リードアナリストだ。「生成AIとエージェンティックコマースは、消費者が商品を発見し、選び、さらには感情的につながる方法そのものを変えている。無数の商品一覧をスクロールする代わりに、スタイルや気分、価値観を理解するAIエージェントに、キュレーションや比較、さらには購入まで任せる時代が間もなく訪れるだろう」。

AIエージェントは、適切な提案を行うために利用者を理解する必要がある。そのため、顔写真を分析し、顔の形や肌色に加え、外部環境も考慮する。AIエージェントは、パーソナライズされたバーチャル・チュートリアルや試着などでメイクの方法を示すこともできる。専門的なスキンケアアドバイスを受けたり、新しいファッションスタイルを試したりすることも可能だ。現在存在するAIエージェントは、広範なエコシステムや経済圏で連携しているわけではない。だが、今後はさらに進化するだろう。例えば、セフォラ(SEPHORA)やアルタビューティ(ULTA BEAUTY)がそれぞれAIエージェントを持つようになれば、パーフェクトのAIエージェントがそれらと連携し、自律的に取引を行うことも考えられる。

「実際にその環境で購入できるようになるには、まだごく初期段階だ」とフォレスター・リサーチのファイファー氏は言う。「今は商品もプロセスも非常に限定的で、通常は単品購入に限られる。回答エンジンと提携して商品データを提供しているサイトのみが対象だ」。現時点では、ショッピファイ(SHOPIFY)、ウォルマート(WALMART)、アマゾン(AMAZON)といった大手リテールプラットフォームが中心だ。エージェンティックコマースが普及するには、AIエージェント同士がコミュニケーションするための標準プロトコル(共通ルール)が必要になる。また、消費者の信頼、決済、プライバシーといった課題も残る。「現時点のAIビューティエージェントは、自律的に購入の代行まで行う存在ではなく、超高性能な“ビューティアドバイザー”の段階にある」とパーフェクト社のリウ氏は語る。

消費者行動の変化とブランド競争への影響は?

AIは発展途中だが、消費者はすでにもっと賢く手間を減らしてくれる買い物サポートを求めている。コンサルティング会社アクセンチュア(ACCENTURE)のオードリー・デプラーテル=モンタセル(Audrey Depraeter-Montacel)=グローバル・ビューティ業界リードによれば、AIを積極的に使う人たちの間では、美容商品の選択においてAIが最も頼りにされる情報源になっている。「AIはすでに商品やビューティケア方法を一緒に考えるためのパートナーのような存在になっており、エージェンティックAIによって、やがてはそれ以上の判断や行動まで担う存在へ進みつつある」という。今後は、さらに洗練された使い方が次々に出てくるだろう。「テクノロジーは日々進化し、ますます賢くなっている。これはこの業界にとって大きな革命だ」とデプラーテル=モンタセル氏は語る。

ザ・フューチャー・ラボラトリーのホートン氏は、“エージェンティックな未来”において、ビューティブランドは消費者に好かれるだけでは不十分で、AI(アルゴリズム)に選ばれやすいブランドであるかどうかが競争の軸になると指摘する。「これからは、感情や状況を理解できるAIに、どれだけ商品を正しく理解され、選ばれるかがブランドの成功を左右する。ビューティ分野におけるテクノロジーの次なる進化のカギは、AIが人の気持ちや状況を理解し、寄り添った対応ができるかどうかにある」とホートン氏は言う。AIが、言われたことに答えるだけでなく、利用者の言葉や状況、気持ちをくみ取り、先に必要な提案や行動をする存在になる。「生成AIとエージェンティックシステムが成熟する時代には、ブランドは人の感情に訴えるだけでなく、AIが理解し処理しやすい体験設計も同時に行う必要がある」。

自律型AIの購入代行時代にどう備えるか

今後、どんな展開が考えられるのか。フォレスター・リサーチのファイファー氏「BtoCの視点では、マスカラがなくなるたびにブランドのサイトで定期購入を設定するのではなく、チャットGPT(ChatGPT)やパープレキシティ(Perplexity)、グーグル ジェミニ(Google Gemini)といったAIエージェントに『マスカラを切らさないようにして。必要な頻度で、最安値で買って』と伝える未来も考えられる。まだ仮説の段階だが、SFではない。ただ現状ではないというだけだ」と話す。アクセンチュアのデプラーテル=モンタセル氏は、ビューティ体験の感情的側面を損なわずにエージェンティックAIをどう活用するかも課題だと指摘する。「各ブランドが目的や活用方法、どのような体験で使うのかを定義する必要がある」という。パーフェクトのリウ氏は新技術に向き合う上で、「ビューティ業界は柔軟な思考と不確実性を受け入れる姿勢が必要だ。何が起こるかは正確には分からない。だからこそ不確実性を活用し、予測不能なものを強みに変える必要がある」と語る。「まだ本当に初期段階だ。だが、この分野は非常に速いスピードで進化する。『まだ初期段階』と感じていられる時間はそう長くない」とファイファー氏は締めくくった。

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