ファッション

「レインメーカー」地元京都で初のリアルショー 光と影が交錯する独自の美学を追求

京都を拠点に活動するファッションブランド「レインメーカー(RAINMAKER)」はこのほど、京都コンサートホールで2026-27年秋冬コレクションのランウェイショーで発表した。ブランドの立ち上げから12年目にして初めて地元・京都で開催し、地元客300人が駆けつけた。リアルショーはコロナ禍前の20年春夏コレクション以来、6年ぶり。

渡部宏一デザイナーは久々のショー会場に京都を選んだ理由を「京都という土地が持つ時間の深さと精神性に自分たちのモノづくりの原点があるから」と話す。歴史や伝統を大切にしながらも、懐古的ではなく、現在進行形のモノづくりを追求。改めて京都の地で自分たちの行為を可視化することで、ブランドの輪郭がより明確になると考えた。

26-27年秋冬に掲げたテーマは、文豪・谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃」とバロック期の画家・カラヴァッジョ。両者は、東洋と西洋という異なる文化圏にありながら、光と闇が交錯する場所に美を見出す点で共通している。「ただ、谷崎が語るのは日本らしい間接的で抑制された光であり、対してカラヴァッジョは深い闇に赤や緑などの色を合わせ、劇的な明暗の対比で人間の内面を表現している。2人の異なるアプローチを『レインメーカー』なりに解釈した」。

ショーは、水辺にたたずむ1本の松の木を象徴的に描くモノクロ映像から静かにスタートした。能舞台の鏡板を想起させる松の木は、目に見えない世界との境界線を意味し、東洋と西洋の共存、柔らかさと強さ、伝統と現代といった境界線を探り続ける「レインメーカー」の世界観と美意識を投影した。クリエイティブディレクションは写真家の水谷太郎氏。冒頭に5分間の映像を流すことで、観客がショーの世界に没入できるような演出効果を狙った。

ランウエイには、光と影が交錯する美しさを素材や構造、ディテールに落とし込んだルックなど35点が登場した。マットな素材とグロッシーな素材のコントラストや、通常の8〜10倍近い深いタックが生む陰影。透け感のあるリップストップナイロン生地の下には、黒の裏地を配し、光が透過することによってリップストップの格子が淡く浮かび上がる。内部にロープを仕込んで凹凸を作り、見る角度によって影が揺れるコートも観客の目を惹きつけた。

さらに、目を引いたのが3層ボンディング素材。表面にウールジャージー、裏面にコットンジャージーを配し、その間に3ミリ厚のウレタンシートをはさんだもの。この素材がジャケットに膨らみと共に、素材の反発性によってシルエットに動きを与え、影が自然と生まれる。また、化学繊維の可能性を探究する「レインメーカー」らしく、袴に着想を得たパンツやテーラードジャケットなどにはポリエステルを採用し、ウオッシャブル対応にすることで機能性と快適性、シルエットの美しさを両立させた。

カラーは黒、白、グレー、茶、緑を基調に、日本家屋の原風景から抽出した静かなトーンを軸に据えた。そのうえで、日本では高貴な色であり、カラヴァッジョに着想を得た紫を差しこんだ。

地元・京都の工芸との
コラボレーションが

地元・京都の工芸との共創にも力を入れる。鋳造や絞り染めといった伝統工芸とコラボレーションして創造した現代的なファッションアイテムが今回のショーでも目を引いた。京都の老舗「ホソオ(HOSOO)」のテキスタイルを用いたスカートやシューズのほか、仏具や茶道具など金属工芸品を製造する「山崎蝋型工芸」と共同製作したバングルやイヤーカフ、フライトジャケットのポケットには老舗茶筒屋「開化堂」と作ったマネークリップを装飾的にあしらった。さらに、絞り染めの老舗「片山文三郎商店」と、バッグブランド「オル(ORR)」との三者コラボで製作した巾着型バッグは、伝統技法を使いながら日本古来の道具である魚籠をモチーフにしたモダンなデザインが印象的だ。

伝統工芸とのコラボについて、渡部デザイナーは「『伝統とは火を守ることであり、灰を崇拝することではない』という音楽家・グスタフ・マーラーの言葉に感銘を受け、自分のモノづくりも常にそうありたいと思っている。伝統や歴史に敬意を払いながらも、現代に生きる人間として少し未来を向いたものでありたいと考えている」と話す。たとえば、モノづくりの方法論にもその姿勢がうかがえる。表層的には洋服に見えていても和装構造だったり、逆に、和装のような襟がついていても洋装の構造だったりと、独自のアプローチが「レインメーカー」らしさを生み出している。

現在、京都・室町の直営店を拠点に、取引先は国内外に広がっている。今月の東京展に続き、来月にはパリの合同展にも出展する予定だ。「海外はまだ伸びしろがある。日本や京都の美意識を大切にしながら、世界の文化や慣習と対話し続けるブランドでありたい」(渡部デザイナー)。リアルなショーの開催については「必然性を感じたときに、また京都でやりたい」と笑顔で答えた。

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