館全体のリニューアルを進行している西武池袋本店はこのほど、1階にフレグランスゾーンをオープンした。一般的な百貨店は1階に化粧品フロアを設備することが多いが、同店はリニューアルを機に3階に移し、1階にフレグランスゾーンを配置。化粧品フロアのリニューアルを先導する若江純身・マーチャンダイジング部コスメ担当部長に、その狙いを聞いた。
WWD:なぜフレグランスを1階に配置したのか。
若江純身・マーチャンダイジング部コスメ担当部長(以下、若江):百貨店にとって1階は未来のお客さまと出会う場所。ここで誰を迎え入れるかで、上階の回遊も館全体の印象も大きく変わります。だからこそ、ジェンダーも年代も問わずでも自然に入って来られる商材であるフレグランスを選びました。
フレグランスは、ファッション雑貨とも化粧品フロアとも横断的につながるカテゴリーです。館全体のリニューアルテーマ「インクルージョン」とも非常に相性が良いと考えました。
WWD:フレグランスは特に若年層での広がりが大きいという見方もある。
若江:立教大学の男子学生にヒアリングした際、「化粧品フロアには入りにくいけど、フレグランスのエリアは立ち寄る」という声がありました。たしかに、リニューアル前の化粧品フロアでも、フレグランス売り場には若年層の姿を見ていました。
男性でも高校生でも、香りを自己表現の一部として取り入れる傾向が強くなっています。百貨店に来店を促す入口としての親和性は化粧品よりも高いと判断しました。
百貨店の内側にいるとその感覚を忘れてしまいますが、やはり百貨店は特に若年層にとって、入店自体にハードルが大きい。フレグランスは「まず入ってみたい」と思ってもらえる役割を担える商材と位置付けています。
WWD:ブランドをどのように選定した?
若江:池袋は埼玉方面からの導線が強く、広域から人が集まる商圏です。このエリアにはまだ取り扱いのないブランドが多かったため、初めての出合いが提供できることを基準に誘致しました。
10ブランド中8ブランドは池袋初出店ですし、「ディオール(DIOR)」と「ゲラン(GUERLAIN)」も国内で希少なフレグランス特化業態として入店してもらいました。目的来店につながる強い引力があるブランド群です。ここに来ればラグジュアリーフレグランスの世界に触れられるというポジション形成は、商圏戦略としても合致していましたし、百貨店としての大きな武器になります。
WWD:売り場の構成をブティック型にした理由は?
若江:坪効率だけで考えると難しい選択でした。しかし、没入できる体験をつくらなければ、お客さまが選ぶ時間を持てません。ブランドの世界観を最大化する空間が結果的に百貨店の価値を高める。百貨店の主張を優先するよりも、ブランドを主役にした売り場のほうが体験価値としては強くなると判断しました。先行してオープンした3階化粧品フロアで、滞在時間が伸びた分だけ客単価が上がったことから、確信もありました。
香りは、原料、調香、文化背景など、ストーリーが非常に多い商材です。語り手がいないとその価値が伝わらない。そのため、各ブランドの専門性を持つスタッフに入っていただきました。オンラインでは得られない、語りを踏まえた香り体験が百貨店ならではの差別化になります。
WWD:3階の化粧品フロアの現時点の手応えは?
若江:まだ館全体のリニューアルは未完なところもあり、新規客よりもリニューアル前の常連のお客さまが多い状況です。1階を開けたことで動きはさらに生まれると思いますが、フルオープンとなる来春がこれまでのリニューアルの結果が出るタイミングだと思っています。
やはり、空間の作りかたなど、細かな点は来店した時に体感してもらう部分が多いので、新たに入店してくれたお客さまが「これまでの百貨店と何か違う」と気づいてくれる瞬間を期待します。
WWD:フレグランスの未来と百貨店の役割をどう考えるか?
若江:少し先を予測すると、数年後には香りを歯磨きのように日常に取り入れる時代が来ると思います。これは高級フレグランス市場の拡大と、若年層の需要増が背景にあります。
百貨店自体は、デジタル化が進むほど体験価値のハブとしての役割が求められます。スキンケアは専門性が強まり、フレグランスやメイクは自己表現として多様化していく。そういった変化にこたえられる場所であり続けることが、百貨店の存在意義だと考えています。